第38話 ー 車窓に潜む影

「声が届かぬ時、選択は沈黙の中で形を成す。」




ユノはレンから離れ、ノゾミの方へ歩み寄った。 その光景にレンは言葉を失い、ただ呆然と立ち尽くす。


時間が止まったように感じる。 レンはノゾミとユノのやり取りを見守るしかできなかった。


胸が締め付けられ、心臓が早鐘を打つ。 レンは叫ぶ。


「ノゾミ! 僕が見えるか? ここにいるんだ! 覚えてるか?僕はレンだ!」


だが、その声は届かない。 彼は悟る——このやり取りは避けられない、己の力ではどうにもできない。


レンは胸に手を当て、涙が滲む目でユノに訴える。


「老いぼれの魔女!ノゾミに僕を見せてくれ!…お願いだ! ほんの一瞬でいい…頼む…!」


必死の願いも虚しく、時間は再び動き出す。 ユノはノゾミとの会話を終えると背を向け、病院の扉へ向かう。


その時、轟音が響いた。 大型トラックが猛スピードで通り過ぎ、ユノの言葉をかき消す。


レンにはかろうじて聞こえた。


「時は近い…その時、正しい選択をできるか?」


ユノは扉を抜け、姿を消した。


直後、看護師が駆け出してきてノゾミに封筒を渡す。


「野々美さん、これを忘れていました。ベッドの横に置いてあった手紙です。」


レンは息を呑む。 ——それは自分が託した手紙だった。 間に合ったのだ。


ノゾミは封筒を見つめるだけで開けず、すぐに父の車へ乗り込む。 レンの胸は乱れ、思考は渦を巻く。


「未来が変わろうとしている…僕はどうすればいい?」


周囲を見渡すと、少し後方に停まる車が目に入った。 運転席にはシンジ。


「ノゾミを追うべきか…それともシンジを?」


迷う間もなく、ノゾミの父の車が走り出す。 レンは追おうとするが、間に合わない。


振り返ると、シンジがハンドルを叩きつけていた。 怒りに満ちたその姿を見て、レンは決意する。


——シンジを追う。


レンは瞬時に車へ乗り込んだ。 すると、シンジが独り言を始める。


「ノゾミ…お前は俺のものだ。他の誰のものにもならない! 記憶を失ったからといって、俺がお前を忘れることはない。 待っていろ…!」


レンは歯を食いしばり、怒りを抑え込む。


その時、ポケットの携帯が通知音を鳴らした。 シンジは即座に反応する。


「今の音は…俺の携帯か? ずっと車にあったのか?」


座席の下、グローブボックスを探すが何も見つからない。


「まあいい。洗車の時に探させればいい。」


シンジはエンジンをかけ、車を走らせた。


レンは街を知らない。 どこへ向かうのか見当もつかない。


——だが、すぐに知ることになる。 この選択には、代償が伴うのだ。

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