第22話 — 繋がりの代償

「誰かに見られることは、時に救いであり、時に呪いでもある。」





蓮は、大人になっても生まれ育った街を離れなかった。

別の街で暮らすには、前例のない代償が必要だった。

それは決して高額ではなかったが、

彼をただの歯車に変えるには十分だった。


この街が好きだったわけではない。

だが、急ぐ必要のない生活が、そこにはあった。


ある日、仕事を失い、次の職を探す間の一瞬の静寂。

蓮はふと、思った。

「書いてみよう。ネットに公開してみよう。」


最初の作品。

一ヶ月で原稿を仕上げ、編集部の条件も満たした。

「もしかしたら、作家として生きていけるかもしれない。」


そう思ったのも束の間。

“見られる”ことの重さに、足元が崩れた。


それでも諦めなかった。

新しい仕事を見つけ、空いた時間に書き続けた。


そして、作品を公開し続けるうちに、

SNS上に、蓮の“作家としての顔”が形を成していった。


まさか、そこから誰かと繋がるなんて。

そんなこと、想像すらしていなかった。


彼女の名前は――希(のぞみ)。


希もまた、短い期間ながら、SNSで創作活動を始めていた。

罪悪感に満ちたエッセイ。

自分自身に向けられた、残酷な言葉たち。


そんな繊細な時期に、彼女は“誰か”を探していた。

創作を通じて、繋がれる誰かを。


そして、何かの奇跡が、蓮と希を引き合わせた。


意味なんてなかった。

だが、その“意味のなさ”こそが、二人の絆の始まりだった。


ある日、蓮のもとに突然メッセージが届く。

「編集部からの連絡か?今どきそんな話は都市伝説だが…」

期待と不安が交錯する。


手が震え、顔には冷や汗。

目を閉じて、ゆっくりとアプリを開く。


メッセージを確認する。

最初に浮かんだ言葉は――

「なんだよ、違うのか。今度は何だっていうんだ。」


冷静に読む。

何度も読み返す。

意味は理解しているのに、心が追いつかない。


「あなたの世界の作り方に共感しました。

もっと知りたいです。

時間がある時に、話しませんか?」


蓮は思う。

「嘘だろ。いや、違う。

悪い冗談に違いない。

でも…もし本当なら?とりあえず返してみよう。」


「メッセージありがとうございます。

僕の世界に共感してくれて嬉しいです。

ぜひ、お話ししましょう。ご都合の良い時間はありますか?」


その言葉は、怒りにも似た勢いで吐き出された。

だが、返信はすぐに届いた。


「今がその時だよ。」


こうして、ありえない繋がりが始まった。

それは、痛みを伴う恋へと変わっていく。


“近くにいたい”という願いの代償。

その代償は、まだ明らかになっていないだけで――


二人を繋いだもの。

それは、あの“古い魔女”だった。

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