第13話 — 触れられないもの
「愛することは、所有することではない。
愛することは、見つめることだ。」
レンは、目の前で起きていることが信じられなかった。
腕を伸ばし、シンジに飛びかかる。
だが——
彼の体はシンジをすり抜けた。
まるで、そこに誰もいないかのように。
敗北感。
苦しみ。
ただ、それだけ。
「ノゾミ、逃げろ!」
レンは叫ぶ。
だが誰にも届かない。
その声は、まるで存在しないかのようだった。
魔女は、シーンを見つめていたが、
レンの叫びに反応し、彼を見つめる。
そして、無表情で言った。
「姿が見えないからといって、
何もできないわけではない。」
レンは歯を食いしばる。
涙が頬を伝い、目には怒りが宿る。
魔女を睨みつける。
「もういい!
あんたの言葉なんて聞きたくない!
何かできることがあるなら教えろ!
それがないなら、黙ってろ、このクソババア!」
魔女は罵声を無視し、再びノゾミに目を向ける。
「哀れな少女…
一人は彼女を所有したいだけ。
もう一人は、愛しているつもりでも…
“愛”の本当の意味を理解していない。」
レンは床に崩れ落ちる。
顔を両手で覆い、指の隙間からシーンを覗く。
涙と怒りのうめき声が混ざる。
シンジは、悪意に満ちた笑みを浮かべていた。
ノゾミの手首を強く握りしめ、
彼女は目を見開いたまま、状況を理解できずにいた。
魔女はソファに手を伸ばし、
シンジのスマートフォンを軽く押す。
通知音が鳴り響く。
沈黙が破られる。
全員が音の方を向く。
だが、誰もスマホに触れようとはしない。
レンは一瞬、動きを止める。
そして、考える。
「これが…俺にできること?
そんなはずは…
何にも触れられないのに。」
試してみようかと考えるが、
失敗した時の絶望が怖くて、動けない。
ノゾミは、かすれた声でシンジに問いかける。
状況を理解しようと、必死に言葉を探す。
「シンジ…何が起きてるの?
あなたは大丈夫?
どうして私を呼んだの?
これは…罠だったの?」
シンジは笑い出す。
その笑いは次第に大きくなり、
顔に手を添えながら、満足げに微笑む。
「こんなにうまくいくとは思わなかったよ。
君は本当にバカだな。」
「僕が命を絶とうとするなんて、
本気で思ったのか?
君は僕のことを何もわかってない。」
「ノゾミ、僕は君を愛してる!
すべてを捧げた!
それなのに、君は僕を捨てる気か?」
「僕が欲しいものを手に入れられないなら——
君にも、何一つ与えない!」
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