第2話 入れ替わりすたーと!?①

 早起きなんていつぶりだろ…。


あたしはまだ目覚めない身体に靴を履かせ、

玄関のドアを開ける。


いってきまーす。

まあ、お母さんは仕事にいっちゃったから、

誰もいないんだけどね。


こういうのは、言うこと自体に意味があるもんだし。


いつもお世話になってる想いを伝えるもの

だから、家の柱に。


いつものように鍵をかけて、いつもとは

違う方向へ歩み始める。


まだ5月の中旬なのに、今日は着ているものを全て取っ払ってしまいたいほどの暑さだ。


ぶっちゃけ、このあと衣服を取っ払うことに

なるんだろうけどさ。(意味深)


そのことを考えると、今からでも引き返そうって思うんだけど、でも受け取るもの受け取っちゃったし…。


実は、来月、お母さんの誕生日だから、

とびっきりのお礼をしたいって思ってたんだよね。

でも、あたしにはお金がない。


なぜって?


そんなのあたしに分かるわけなくない?

分かったらお金が手元に残ってるわけで。


ダメもとで、学校近くのショッピングモールで

コスメとか漫画を爆買いしたときについてきた福引に、すべてを賭けようと思ったんだよね。




え、お金ない原因これじゃね?




………そんなことはさておき、

なんとかプレゼントもゲットできたし!

働き詰めのお母さんと一緒に旅行ができるんだったら、ぶっちゃけ、やるしかないじゃん!


ここが正念場だぞ!松川響!!!

まだ何も始まってないけど!!!




そうこうしてるうちに、昨日の公園までやってきていた。


「おっはよ~!響ちゃん!今日も真面目だね!」


「朝から変なもの食ったか???」


「えー?いきなり冷たくありゃしませんか~?」


「帰ろかな」


「ごめんって!!!どうかお許しを!!!

あ、そうだ!土下寝しますので!」


「土下寝をすることに躊躇とかないんか!?」


楓は朝から平常運転らしい。

とりあえず、貴重な朝の時間をこんなやり取りに使っていられないので、


あたしたちは自分の制服と教科書等を交換して、公園の中の秘密の花園(花が生けられてるのは見たことない)の中で着替えることにした。


なんと…。


制服のサイズは採寸したのかってくらい

ぴったりだった。

これならジャージとかも問題なさそうかな?


楓のほうを見ると、同じく顔を明るくさせながらこちらを見つめていた。


顔からは、ほんと運命!奇跡!松川響さま

バンザイ!といった文字が浮かび上がってきそうだった。


あとは良く言えば雰囲気…。

悪く言えば顔なんだけど…。

こっからどうやって似せるか、

なんだよなあ…。


そんな私の不安をもろともせず、

楓は顎のあたりに手を当て、まるで名探偵みたいに、あるいは小難しいデザイナーみたいに、

ぶつぶつ何か言っていた。


そして、にこりと笑ってブランコを指さした。


えーっと、座れってことかな?


おとなしく指示に従うと、楓は

早口で呪文を詠唱し、手を動かし始めた。


「えーっとまず髪整えちゃおうか、とりあえず私と同じスタイルにするんだけど、うわなにめっちゃ髪さらさらじゃん、いいなー、てか響ちゃんって今眼鏡かけてるよね?でもそれさ伊達でしょ?わたしにはわかっちゃうんだよなあ、おしゃ眼鏡もいいと思うけど、やっぱ最近はカラコンだよ、入れるとまじ盛れるから、はいはい嫌がっても入れちゃうね――」


華麗なる3分クッキング。

あっという間に松川響改め“新藤楓”の爆誕だ。

まじですごい。

えーと、これはほんとにあたしか?


ほっぺをつねってみる。痛い。

加減しとけばよかった。


楓の方はというと、すっかり“いつもの私”に

なっていた。


なにこの子。魔法少女なの??

もしかして怪しいペットとかと契約でもしたのか?


楓はスマホの時刻をみて、あたしの背中を押す。


「よし!これでおっけーだね!

じゃあ行こうか!いざ学校に!!!」


わたしはこの状況がまだ信じれられていなかったが、始業の時間は刻々とせまっていたので、急いで駅のほうまで向かった。




「じゃあまた後で」と、あたしと楓はそれぞれの学校の分かれ道になるところで別れた。


もう学校は目と鼻の先だ。

心拍数が一気に上がる。

楓の学校は私立の女子高で、偏差値はあたしの学校と同じくらいらしい。


「普通の学校だよ~」と言ってたから

心配することはないはずなんだけど…。


なんかなぁ、嫌な予感がするんだよ…。

楓のことだから!!


通り過ぎるお店の窓に映る自分を見ると、

大きなリボンを首元にぶら下げ、チェックの

スカートはいつもよりやや高めの位置。


そこには呼吸が止まるほどの美少女がこちらを横目で見つめ返してくる。


あたし、ほんとに楓になっちゃったんだ…。


そんなことを考えていると、まもなく正門で。

そのまま門の下をくぐってけばいいのに、

あたしはなぜか立ち止まっちゃったんだ。


そう、…に、あたしはいる。


え、なにこれ校門デカくない????????


それは、まるで都心の駅前の一角を仕切る、

超高級ホテルの佇まいだった。


私立だとしても、この大きさは規格外すぎる!!!!

ぜんぜん普通の女子高じゃないんだけど!!!!!


そうだよ…!よく見たら制服だって、

どこぞの良さげな生地だし!


周りの子たちだって、清楚そうな見た目をしていて、横道にそれちゃいそうな子なんて見当たらない。


もしやここ…“超”がつくほどのお嬢様学校なのでは???


あたしは、大きく息を吸って、

心の中で悲痛の雌叫びを上げた。


嫌な予感的中だよー!!!!!

ばかえでぇぇぇー!!!!!!!!




あたしは指示された2-1の看板がぶら下がる教室に入った。


「おはよー」「はよー」という声が行きかうなか、「カエデー!」と誰かが話しかけてきた。


端正に切りそろえられた前髪に、

首筋あたりまでのボブ。


キラキラさせた顔で歩み寄ってくる彼女は、

出張から帰ってきたご主人さまを待ち構えていた子犬のようだ。


「おっはよー!カエデー!今日もかわいいー!

マレの天使!!!」


そうして、あたしに抱きついてくる。

あたしは大きく深呼吸。そして、





いやだれーー?!?!?!?!?!?!?!?





あたしは最悪なことに気付いてしまった。

楓からなにも!!!人間関係のこと聞いてない!!!


メッセージアプリで確認しようにも、

いまここでスマホをいじるのは不自然すぎる!

まずは無難に返すしかない!!!


「おはよ~、今日もかわいい天使の降臨ですよ~!天孫降臨!敬いな???」



「――――――――」



流れる沈黙。


これはね。そうだね。


うん。完全に。


スベッてるぅーーーーーーーーー?!?!?!

えええええ?!?!え?!


楓って、あたしの前でこんなキャラだったよね?????

このあたしが…。外しただと…?!???!


気まずさに推し潰れそうになっていると、

ボブの子が笑いかけてくれた。


「ふふっ、カエデ変なのー!いつもはスンッとして、『いやそんなんじゃなから」っていうのに。なに?キャラ変したの?」


「そ、そんな感じ!ほ、ほら!!!

明るいほうが人生たのしーじゃん??」


「だね!うちもそっちのかえでのほうが好きだよ!キャラ変成功だね!」


ニヤニヤしながら背中をパシパシたたく。


いちおう何とかなったっぽいけど、

これは先が長くない…?


お願いだから、はやく放課後になってくれー!!!

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