管理人の日誌(一部欠如)

 8月15日(火)


 本日、B棟3階の廊下に「子供はまだ戻っていない」と書かれた紙を確認した。

 紙はB5程度、白色コピー用紙。文字は黒のボールペンで、乱れた筆跡がある。

 その下に赤字で「返せ」と追記。

 即座に剥がしたが、翌朝にはまた同じ場所に同じ紙が貼られていた。


 303号室前に花束が置かれていた件、昨日の住民からも通報があった。

 巡回時には既に消えていた。置いた人物も、持ち去った人物も確認できていない。

 監視カメラには人影が映っていなかった。

 いい加減にしてくれ。最近は奇妙なことばかりで眠れそうにもない。



 8月16日(水)


 午前2時頃、廊下を巡回中に子供の笑い声を聞いた。

 最初は住民の生活音かと思ったが、声は空間全体に響くようで、方向が特定できなかった。

 耳を澄ますと「おとうさん」と呼ぶ声がした。

 疲れていたのかもしれない。



 8月17日(木)


 午前3時、防犯カメラの点検を依頼していた業者が来訪。

「カメラは正常」との報告。

 だが映像には、人影のような黒い影が数秒記録されていた。

 人の形は曖昧で、輪郭が煙のように揺れている。

 業者はノイズと説明したが、私はそう思わなかった。


 その夜、エレベーターで一人のはずなのに「まだいるのか」と囁かれた。

 幻聴と片付けるしかない。

 だが、私は聞いたのだ。はっきりと。


 友人や家族に、この話をしたが信じて貰えなかった。ネットにでも書いてしまおうか。



 8月18日(金)


 303号室の郵便受けに古い新聞の切れ端が差し込まれていた。

 日付は平成12年8月14日。

「市営住宅火災、4人死亡」という見出し。

 当時のことは覚えている。

 新聞の文字は滲んでいたが、記事の内容は確かにあの日のものだった。

 誰が差し込んだのか。

 そしてなぜ、今になって現れたのか。


 私は新聞を破棄した。

 だが、夜の巡回でふと303号室を見ると、郵便受けに再び同じ紙が差し込まれていた。




 8月19日(土)


 住民から「廊下に赤黒い足跡がある」との通報。

 確認に行くと、確かに濡れたような足跡が階段から303号室の前まで続いていた。

 モップで拭き取ると消えた。

 数分後、振り返ると同じ場所にまた足跡があった。


 帰宅して日誌を記している今も、靴底にまだ湿った感触が残っている気がする。



 8月20日(日)


 掲示板に「管理人は知っている」と書かれた紙を発見。

 剥がした。

 だが紙を持ち帰って確認すると、裏面に小さな文字でこう記されていた。


 返せ。



 この仕事やめようかな?

 高給だからって、やすやすと受けるんじゃなかった。

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