第3話 笑顔


「婚約者になってくれない?」



(こ、婚約者って…)



「無理、絶対無理!」



慌てて答えたすずらんの顔が真っ赤になった。



それを見た北斗は少し笑いをこらえていた。



「…それは、俺が投資家だから?」



北斗がそう言った。



「いやそれは…なんていうか……ん?」



(さっきなんて言った?…と、とう…)



「投資家って言った?!」



「うん、言ったよ。まぁ言わないようにはしたんだけど…」



投資家の幼馴染と近くにいたことに驚いたのもあったが、



そんなことめったに無いことだとその時さとった。



「で、どうするの?」



「どうするって、私は一般人だし、こんな見た目だし…みんなに知られたら…」



そう言うと北斗は短いため息をついた、そのときだった。



「ねぇ、そんなのさ、気にしなくて良くない?」



(えっ…)



聞いたことのない声の正体は北斗だった。



目を細めて見えた北斗の瞳は、今までよりも赤く、殺気を感じた。



「ほく、と?」



「もしさ、すずに手を出したり、いじめるやつがいるのなら…」



少し間をおいて北斗は言った。



「そいつらのこと、簡単に殺れるけど?」



(…殺れる…)



想定外の言葉を北斗から聞いたすずらんは呆然とした。



「……。」



「あー…ごめん、なんか怖がらせちゃったね。ごめん」



北斗はすずらんの表情をみて、反省し始めた。



「すずが気にしなくてもいいよ。さっきのは冗談。」



それに、と言って言葉を付け足した。



「すずのことを守りたいって初めて会ったときから思ってたからね。

  知られて、いじめられても、俺が必ず守ってあげるから。」



さっきまでの言葉は冗談かのように、いつもの優しい瞳でそう言ってくれた。



このとき思った。



(こんな近くに味方がいてくれたのかも…)



そしたら北斗といっしょにいれるかもしれない



そしたらつらい思いをしなくていいかもしれない



そしたら今までの自分がどうでも良くなるかもしれない



そう考えると心が楽になった。



「いいよ。」



「えっ?」



すずらんがそういうと北斗は不思議そうに首をかしげた。



(それであなたが幸せなら、)



「いいよ、なってあげる」



「!…本当に?…やった!」



そう言った北斗は小さな子どものようにすずらんに抱きついた。



「一生、一緒にいようね。必ずすずを守るから。」



「ありがとう、北斗」



そう言ったすずらんだが、本人には気づいていない。



北斗だけが見た。



(すず、さっき、幸せそうに笑ってたな。)



北斗はわざと心の中でそう感じていた。



帰り道、夕日が2人を包みこんでいた。




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