【七話 湖の貴婦人④】
今日も『湖の城』の外の森では私と愛しい坊やの楽しく幸せな笑い声が響いていたわ。
「おかあさまー!」
「あら?ランスロット、どうしたの?」
薄水色の髪を揺らして私の方に駆け寄って来る小さな男の子。
この子の名前はランスロット。あの子の本当の母親の記憶を視てこの子の名を知り、そまま変えずに呼んでいたの。だってあの子の母親の形見であり唯一の贈り物だもの大切にしなきゃね。
ランスロットはぷくっりとした頬を赤くさせて、花畑で摘んできた色とりどりの花を綺麗な小さな花束にして差し出し、
「あちらのちかくにはなばたけがあったのです。おかあさみたいにすごくきれいなはながたくさんさいていたので、おかあさまにみせたくてつんではなたばにしてきました!」
「わたしのために?」
「はい!」
「〜〜〜〜っありがとうランスロット!」
息子がくれた綺麗で小さな花束を受け取って、私はそのままギュッと抱き締めちゃったわ!
「(あぁ!もう、もう!本当に可愛いっ!私の息子本っっっ当に可愛いわ〜〜〜〜!!)」
ランスロットを私の息子として育てると決めた時、私の世界は
つい最近までは四年なんて私にとってはあっという間のほぼ無意味な時間でしかなかったけれど、この子と出会ってからは一日一日がかけがえのない大切な宝物になっていたわ。
なによりこの子と一緒に過ごす内に、私の【色】が温かいもので満ちてゆくのを感じるの。
ランスロットが私を「おかあさま」と呼んでくれる度に私はあの子の【色】に心が癒やされてもいたわ。
そして、ランスロットがすくすくと健やかに成長していく姿を見ていくのも私の最大の楽しみの一つになっていたわ。
自分の子が元気に育っていくのを直接見ることが出来るのがこんなに嬉しくて幸せな事だったなんて初めて知ったわ。
……だだ、でも、同時に不安に思ってしまうことがあるの。
私は精霊、あの子は人間。生きていく時間があまりにも違う……。
人間の子であるあの子は私より先に逝ってしまうでしょう……。
その時が来てしまったら、私は───。
「…………」
頭を振って私は考えるのを止めたわ。それはまだ少し先のことだもの。
「(そんな事より、今はこの穏やかで心地良い時をあの子と共に過ごせる事への幸せを堪能していきたい。それにもし───
───もしもの時が来ないように、あの子を私達と同じ幻想の住人にしてしまえばいいんだもの……)」
そんな事を考えていた直ぐ後の事だったわ………幸せな時間が唐突に終わってしまったのは……!
◆◇◆ ◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇
それはランスロットが五歳の誕生日(私とこの子が出会った日)の事よ。
私はあの子に剣を贈ったわ。本当はちょっと剣は早いんじゃないかって思ったのだけれど、あの子が最近読み始めた人間の騎士の物語にハマって、
「おかあさまをまもれるきしに、わたしはなりたいんです!」
って言ったものだから、つい張り切っちゃって私の加護が盛り盛り入った剣を造ってあの子に贈ちゃったわ!
ランスロットは私の贈り物にそれはもう、すごく喜んでくれて、お返しに私と同じ瞳の色で束ねた大きな花束をくれて、
「おかあさま、ずっとこれからも───」
言葉は最後まで聞けなかった……。
あの子の姿が突然私の目の前で……泡となって消えてしまったから……。
あまりにも突然の事で私は何が起きたのか分からず、花束を受け取った体勢のままその場を動くことが出来なかった。
そして漸くあの子が泡となった消えてしまった事を理解してしまったけれど、受け入れることが出来ずに、
「ランスロット!ランスロット!ランスロットォーーーー!!」
私は何度も何度も声が嗄れるまで…いいえ、声が嗄れてもあの子の名を狂ったように泣き叫びながら呼び探し続けた。
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