秘密

水島あおい

第1章 Hikaruはもう1人の僕

第1話

 風が吹いている。

 春の柔らかな風ではない。

 夏も終わりに近づいているが、9月では今はまだ熱中症最前線と言っても決して過言ではない。

 浜西瑆は屋上でまだ熱気のある風を感じながら考え事をしていた。

 放課後になった今は、生徒達はバラバラとそれぞれの部活に向かっている。

「瑆」

 ずっと遠くを見ていた瑆の白いシャツの肩を後ろからポンと叩いたのは、親友の矢部裕貴だ。

 裕貴は瑆の隣まで歩いて来ると、長く伸びた手摺りに両腕を預けて、グランドの方を見つめた。

 其処には関谷歩の姿があった。

「俺もそろそろ部活行くわ。じゃあな」

「ああ」

 既にサッカー部が始まっていた。


 都内にあるコンサートホールではZ世代の男子や女子達がひしめき合いながら、今や遅しとコンサートの開始を待っていた。彼らの目的は今大人気の歌手のHikaruである。

 Hikaruは顔も名前もプライベートは一切明かしていない。ステージに立つのも逆光を浴びている為、シルエットのみである。

 Hikaruが登場した瞬間に推しもファン達も大歓声を上げている。

「きゃー!Hikaruー!」

 いきなりダンスナブルな曲が始まって、Hikaruがマイクを持った途端に辺りを包み込むような歌声でしかもインパクト抜群な歌が始まった。

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