第2話
夏休み最終日。ボクは明日の準備をしている。夏休みの宿題? そんなもんはとっくに終わってる。ボッチだから何もすることねえんだよ。
そんなことをやっていると南さんからラインが入る。
『わかってると思うけど確認な。明日のホームルームよろしく』
明日のホームルーム?
今日から2学期。始業式が終わるとホームルームになった。席替えのくじ引きがあった。この学校の席替えは2学期の始業式の1回だけ。
おお、主人公席!
ボクの席は窓側の1番後ろの席。
隣は⋯⋯。
ゲッ、ギャル小林!
このクラスのスクールカースト最上位に南さんとともに君臨するギャル、小林さくら。
終わった⋯⋯。
「ははは橋本君、よよよよろろしく」
小林さんはボクをガン見しながら引きつっている。ボクは黙り込んだまま下を向く。
席替えが終わった後、重要な打ち合わせがあった。10月中旬にある文化祭のクラスの出し物の件だ。南さんが前で仕切り始める。
「文化祭まで時間がないので夏休みの登校日に出席者だけで決めました。出し物は演劇です。前例がないということで普通の教室での開催となります。時間がないため演目もすでに決定しています。今日はその報告とキャストの調整です」
えっ!
夏休みに登校日なんかあったけ?
南さんは黒板に書き出していく。
主人公、少女。
「とりあえずセリフの多い主役とヒロインを今日のうちに決めておきます。このクラスは運動部が多いため帰宅部は積極的に参加お願いします」
南さんはそう言って、こちらをじっと見る。
「それでは主人公役。立候補いませんか?」
南さんの言葉にボクは戦慄する。
ヤバい。
昨日のラインはこういうことだったのか⋯⋯。
てか、夏休みの登校日のこともラインで教えてくれればいいのに⋯⋯。
ボクが立候補するのを躊躇っていると突然の怒声が静かな教室に響き渡る。
「いきなり配役決めるのはどうなんだ!」
隣の席を見ると小林さんは腕組みをして南さんを睨みつけている。
「わかりました。それでは明日の朝のホームルームで決めましょう。朝のホームルームは時間も短いためご協力お願いします。あ、それから主人公は男ですのでよろしくお願いします」
南さんはボクを睨みつける。
ボクには拒否権がないということか⋯⋯。
「あ、それから。明日の朝のホームルームは修学旅行の班決めもやるから、要領よくやらないと時間がないね」
先生が明日のホームルームの予定を補足する。
ホームルームが終わり、今日は初日なので帰宅することになった。南さんがこちらにツカツカと歩いてくる。
「後でラインするからな」
南さんはボクに声を掛けた。
はあ、今日はさっさと帰ろう。
帰りの下駄箱で若林君に呼び止められた。
「橋本君、席変わってもらえる?」
若林君の席は教壇の前。目が悪くない限りボクには何のメリットもない。若林君は陽キャなイケメンで、男子の方のスクールカースト最上位だ。主人公席が一番似合う男子だ。
仕方ない⋯⋯。
そう思ったが、ボクは首を横に振った。
「覚えてろよ。陰キャなボッチが!」
若林君の言葉にボクはハッとした。
ボクはなんで首を横に振ったのだろう⋯⋯。
失意の中、家に帰る途中、ボクはいつもの定食屋で昼食をとるためにいつもの席に座った。
「いらっしゃい」
いつものお姉さんが声を掛けてくれた。
本当、このお姉さんはボクの癒しだ!
スマホにラインの連絡があった。南さんからだ。
『もう決定事項だから。拒否したらわかってるよな』
怖い。
怖い!
ボクは南さんにただ、『ハイ』とだけ返信した。
翌朝、ホームルームがあり、南さんが黒板にキャストを書き出していく。
主人公 橋本龍之介、少女 小林さくら。
ボクは黙り込む。
「異議のある人いますか?」
南さんが皆に賛同を求める。
「異議あります。主役に俺が立候補します」
前の方で1人、若林君だ。陽キャなイケメンが異議を唱える。
「異議がないようなので、これで今回の配役は終了します」
南さんの強引な決定に周囲はザワつく。南さんはそれも無視して自分の席に着く。
「えっと、時間もないので修学旅行の班決めにいきます」
先生も強引に次に進める。
えっ、先生も引き込んだの?
完全に詰んだ!
「それでね。時間もないので座席のブロックごとに6人1班にします」
先生の言葉に一同は静まる。
「ははは橋本君、よよよろしくね」
隣の席の小林さんがガン見しながら引きつっている。
陰キャのモブでごめんなさい。
演劇も修学旅行も足引っ張らないようにするから許して!
前の方からの視線が痛い。南さんと若林君の視線だ。
ボクの高校生活は前途多難だ。
いや、元々だけど!
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