第5話 葛藤と前兆
「なぁ、家賃滞納ってほんまなん?
バーもやめるって…」
いつの間にかかいとに問い詰めていた。
かいとはけろっとした顔で
「うん。黙っててごめんな。迷惑かけたくなくて。」
と言われた瞬間、何かが切れた音がした。
「迷惑?かけてよ、私彼女でしょ?一緒に住んでるじゃん。私だって稼いでるよ?言ってくれたら払ったよ。なんでそんな大事なこと黙ってるの?」
ダメだ。止まらない。
その日は泣きながら怒って疲れて2人とも
寝てしまった。
翌日、たかくんのバーにいると、
ひろが
「サプライズのシャンパン代、貯まったで」
と、教えてくれた。
昨日は喧嘩してしまったが、
たかくんのお店に入るのなら、私がお祝いしたかった。
そのため、少しずつひろに貯めてもらい、
サプライズで応援のシャンパンを卸す予定だった。
そしていつも通り朝の5時、
かいとが店に入ってくる。
そのとき、ひろがシャンパンを持って登場した。
「素敵な素敵な!お嬢様より!
かいとの入店前祝い!いただきました!」
3、3、2、2、1、1!ポンッ
「うぇーい!!かいと頑張ってね!」
その日はかいとがずっと楽しそうでこれからもこんな日々が続くと思っていた。
しかし、事件が起こる。
翌日、ひろがイラつきながら電話を終え、店内へ入ってくる。
「どうしたん?えらく機嫌悪いで」
と、なにがあったのか聞くと、
どうやらかいとがバーをやめたらしい。
しかし、辞め方がどうやらいけなかったそうだ。
「かいと、あいつ、上に文句言って辞めやがった、うちで雇えないなこれは。」
こんな店嫌だ、辞めてやると啖呵を切ってやめてきてしまったらしい。
当分はミナミで夜職ができないとのことだった。
その日はかいととひろとたかくんでかなりの喧嘩になった。
「俺はちゃんと筋通してやめたつもりです。
ミナミで働けないならキタに行きます。」
かいとが大見栄きった瞬間、
ひろがバーの椅子でかいとを殴った。
その衝撃でかいとのピアスが飛ぶ。
私は父を思い出し、止めることができなかった。いや、それは言い訳だろう。
呆れていたのだ。かいとに。
たかくんもかいとの顔面を数発殴る。
1、2、3と打ち込まれそうになるが、3はなんとかひろが止めた。
結局、朝までこの喧嘩は続き、
ひろの知り合いがやっているスカウト会社に行くということで話がまとまった。
翌日、ひろからLINEがあり、
「仕事終わったらここ来てくれんか?」
と、位置情報が送られてきた。
道頓堀のど真ん中である。
なんだ?と思いつつ、向かうと
出店のようなところにひろが見えた。
「おー!ゆき!お疲れ!ここ座りや」
すぐにわかった。
かいとが働くスカウト会社の件だろう。
かいとが気まずそうに奥に座っている。
私は仕事モードに切り替えて
愛想よく社長さんに挨拶をした。
「どうも、かいとが世話になります。
こんな奴ですけど雇ってくれてありがとうございます。よろしくお願いします。」
「えらい大人やし別嬪やな!笑
よろしゅうな!いっぱい飲みな!」
と、酒を勧めてくる。
しかし、ひろの顔が明らかに帰りたいと言っていたので
「すみません、ちょっとこれからひろと用事があって長くはいれんのです。な!ひろ?」
と、助け船を出してやる。
すると、
「そーなんすよ!すみません!
ご馳走さんです!ゆき行こか?」
と、ひろも乗っかる。
「そーか!わかった!ありがとな!
こいつは俺に任せな」
「挨拶だけでもできてよかったです。
それでは。」
と、2人で道頓堀を歩き、知り合いだと言うバーへ向かう。
「貸し1な」
と、いつものトーンで言うと
「ありがとうなほんまにー!
テキーラサービスしたるわあ!」
と言うひろに少し笑いながら
その日はバカみたいに飲んだ。
そしてある日、たかくんのバーで飲んでいると、いっちーという新しい店員がいた。
いっちーは気さくな人で話しやすいが
酒が弱く、話もつまらないといった、バーテンダーに向いているとは言えない人だった。
その日は客が私だけだったので、
かいととひろと、たかくん、いっちー、私
というメンバーでテキーラパーティーをした。
今思い出しても吐き気がするパーティーだ。
みんなが酔い始めると
突然たかくんがテキーラを口移ししてきたのだ。
え、と驚いてたかくんを見ると
いつもより綺麗なスーツに身を包み、ほろ酔いのよく見たらかっこいいなと不覚ながら思ってしまった。
その日は全く記憶にないが、
たかくんのことをその日から強く意識し始めてしまう。
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