夜の街

ゆき

第1話 過去と東洋一の歓楽街

少女は歩いていた。

ネオンの中をひとり寂しく。


ずっとひとりだった。

それでも平気だったはずだった。


いつから、

こんなに寂しがり屋になったのだろうか。


街を歩けばたくさんの人に必要とされて、

大人びた顔つきと対応力でたくさんの"おぢ"に好かれていて、リピート率は高かった。


それでも足りなくて、誰かに愛されていたくて。愛されていると思い込んでいたくて。


私の家族は両親もちゃんといるし、弟も2人いて、比較的良い家庭だったと思う。


私は、小さい頃から長い距離を走るのが好きだった。

男子にも負けないくらいには速かった。


中学校では県大会にも出た。

しかし、怪我をした。肉離れだ。


全治2ヶ月。走れるようになるには

最後の学総に間に合わず、

両親からの期待はあっけなく消えた。


高校では過度な期待をされ、絶望的な結果を出して、それから顧問にさえ見離された。


やがて16歳の冬。私は身体を売った。

3万円だった。私の価値などそのくらいだったということだ。


新宿歌舞伎町。東洋一の歓楽街であり、ゴミ溜めのような場所である。


そこで私は、

本当の名も知らぬ男たちと情事を重ねた。


愛されていると自分を洗脳して。


上辺だけの言葉を信じていたかった。


そんな中、歌舞伎町で出会った彼、彼は隼と名乗った。

出会いはたまたま飲みに行っただけのバーにいた彼に酔った勢いで、


「ねーめっちゃどタイプなんだけど笑

 かっこいいね」


と、言っただけだった。

言われるがまま私は翌日、隼に抱かれた。


だけど、隼は


「ゆきが本当に好きだから。

 俺、夜職やめるよ。」


と言い、本当に辞めてしまった。

私は少し驚いていたけど、初めて向けられた"愛"に嬉しさを隠せなかった。


隼は私が警察に連れられ、家に帰った後もわざわざ夜中に会いに来てくれた。


ただそれだけで、私は嬉しかったのだ。


しかし、世の中そう上手くは行かないものだ。


隼が捕まったのだ。

児童ポルノや未成年淫行で。


私は心底自分の年齢を憎んだ。

愛してくれと乞うのも、年齢という壁が

いつだって私の邪魔をした。


それから私は自暴自棄になり、どんどん

"売り"にハマっていった。


お金は欲しかった。自由に生きたかった。

愛が欲しかった。

それらの願望とたまたま利害が一致しただけだと、そのときの私はそう思っていた。


私が次に出会ったのは、もちろん歌舞伎町で。バーテンダーをしている涼太だった。


吸っている煙草が同じセブンスターで気が合ったのである。


それからは何度も涼太と朝までお酒を飲んでいた。

しかし涼太がこれまでの男と違ったのが、

一度も手を出してこないということだった。


毎回酔っているのにも関わらず、

涼太とはそういうことにはならなかった。


普通ならここで多くの女性は安心感を覚えるだろう。


しかし、私は手を出されない=嫌われている

と認識するようになっていた。

おそらく感覚がどこか、ズレ始めていたのだと思う。


そして私はついに大きなミスをする。

2人ともいつものように酔っていて、もう

時間は朝の7時を指していた。


「ねえ、シャワー浴びに行かない?」


と、ホテルに誘うような行動に出てしまったのだ。


そのとき、気づいたのだ。

自分は愛されたいと言いつつ

ただその場凌ぎの"埋め合わせ"がしたいだけなのだと。


そのことがあって以降、私は涼太の元から

痕跡すら残さずに消えた。


涼太はもしかしたらただ、

気の合う友達ができたとしか思っていなかったのかもしれない。


それでも私は愛を求めてしまった。

たとえそれが一時的なものであったとしても。


私が今でもお酒や煙草に依存してしまうのも誰かに、何かに依存していなければ

死んでしまうのではないかと不安だからなのかもしれない。


歌舞伎町。愛憎渦巻く夜の街。

私は歌舞伎町で、"売り"のことを知り、

なにより、夜の世界の楽しさを知ってしまった。


ゴミだらけの汚い街に何かを期待し、

色々なことを知った。


それが今後の人生に大きく影響することを

知らずに…






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