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 放課後。号令を合図にして、教室から生徒たちがバラバラと散っていく。部室棟に向かう者も、図書室に向かう者も、一人で異様な駆け足になり飛び出す者もいた。

 玲央は同級生たちとまとまって帰っていた。そんな中、ひとり、羽沢はねざわ栄人えいとだけが浮かない顔をしている。

「…」


「えーちゃん、今日ヤバくね?」

 歩道をのろのろと歩きながら、学が様子を伺った。

「…栄人のばあちゃんの葬式、この前だったな。まだ一週間経ってない」

 玲央が相槌を打つ。この間田山またやまちょうはご近所同士の結びつきが強く、どこの家の誰が亡くなったのかもすぐに知れ渡ってしまう。


「…ごめんな、空気悪くして、でも、もうばあちゃんいないし、ばあちゃんが可愛がってたノラもどっか行っちゃったし、…」

「あー…、まあ、確かに野良猫減った気がするよな、なんとなくしんどいのも分かるけど…」

 栄人は友達の手前で無理に笑おうとして、寂しさに溢れる涙をこらえた。学はどうしたらいいかもわからず、困り果てる。


 玲央は穏やかに諭した。

「それくらい、大事な存在だったってことだろ」

「あ…」

 栄人がハッとして静かになった。


「栄人の中でばあちゃんの思い出が残ってる間は、ばあちゃんはいなくならない。この世で苦しまなくなっただけだ」

「玲央…」

「早乙女、お前…」

 友人二人は、真正面から玲央の言葉を受け止める。そして。


「お前、顔面はアイドルなのに言ってることが坊主のジジイすぎる」

「玲央ってよくお寺で手伝いしてるもんな、一応ちょっと落ち着いた気がするわ。ありがと」

「おい。いや、いいけど」


 正直すぎる感想を述べた。

 玲央は義理堅い家族がいる為、何かと鈴成寺で掃除や草むしりを手伝っていた。幼少時から交流のある住職とよく話すあまり、思考にも強く影響している。

 もちろん、住職の孫の話も干渉している。死んでいる彼女が唯一話せる生きた人間は、玲央だけだ。


 そこから少しだけ歩いて、それぞれの家の方面に向かって解散した。

「じゃーなー」

「おー」

 学も栄人も明るい顔で帰っていく。夕焼けが玲央たちを明るく照らしていた。


「…」

 そうして別れた直後、玲央はブロック塀に囲まれた細い路地裏に入り込む。すぐにスマホを取り出して、通話状態、のフリをする。

 周りに見えない人たちと話すときの、玲央なりのカモフラージュだった。誰も居ない空間に向かって話しているようには見えづらくなる。


「…とのことです。いかがでしょう」

 玲央は路地裏に居る老婆の幽霊に話しかけた。栄人の母方の祖母、名取なとりハツコが泣き腫らした目で佇んでいる。

「おばーちゃん、だいじょぶ?泣かないでー」

「ええ、ほんに、ありがとうね…」

 ひがんが半透明のハンカチを差し出す。ハツコはそれを受け取り、そっと目頭を拭った。老婆が祈るようにハンカチを握りしめると、その布はサラサラと消えていった。


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