彼女の過去
——朝八時。昨日の夜は考え事をしていたら、深い眠りについた。
「ん……?なんだ、これ」
スマホに、通知が届いていた。昨日、『ごとうあやな』のアカウントを発見したSNSの通知だった。
初めまして……なのかな?ネットでは。
後藤綾菜です。昨日は一緒に帰ってくれてありがとう。嬉しかったです。
思い切ってこのDMをしたので、気持ち悪かったら言ってください。
「DMありがとう。気持ち悪くないから大丈夫だよ……っと」
フリック入力で打ち込んで、送信ボタンを押した。届いてくれるかな、と淡い期待を乗せて。
「結人ー、早くしないと学校に遅刻するわよー?」
「……ああああ!!急ぐ!!!」
急いでパジャマを脱ぎ、制服に着替えてから時計を見ると、走っても間に合わないような時間になっていた。
結局、母に車で送ってもらったことで、何とか学校には遅刻せずに済んだ。学校の脱靴場には、誰一人のいなく、静寂が流れ続ける。
(ん……なんだこれ)
僕のロッカー、上靴を置いている段の本当に奥の方に、一枚のカード……いや、手紙らしきものが置いてあった。昨日の時点では、なかったはずだ。
岡田さんへ
私、しばらく学校に行けそうにありません。昔からの持病が再発してしまったので、入院をしてきます。ぜひ、SNSの方でお話したいです。LI〇Eも交換してほしいです
後藤綾菜
と、書かれていた。
「え……」
どう思っても、僕の口から言葉が出てこなかった。
授業中に、体が怠く感じた。違和感は徐々に重くなっていったので、保健室に行ってみたら、体温計は37.8℃を示した。
「これは……うん、早退ですね。保護者の方に連絡は取れますか?」
「多分……取れると思います……」
体調を崩したことを意識してしまうと、余計に体が重くなってきた。
ベッドで横になっている。意識が飛びそうになりそうになりながら、母の迎えを待つ。
学校に着いて早々、帰宅してきた。休んでおきなさい、と母に言われ、おでこには熱さまシートを貼られる。ベッドに横になると、ストンと意識は飛んだ。昨日、あんなに寝たはずなのにな……。
「……はっ」
急に、目が覚めた。時計は、やっと昼になったくらい。スマホはずっと枕元に置いているので、手に取る。体の怠さは、寝たおかげなのか多少すっきりしていた。
スマホには、何件か通知が。SNSだったり、ハマっているゲームのイベント開始アラームだったり。その中に紛れ込んでいたのは、後藤からのDMだった。
ごとうあやな:L〇NE交換、できませんか……?
おかださん:はい
ごとうあやな:写真を送信しました
ごとうあやな:これ、読み込んで友達お願いします
後藤から、QRコードが送られてきた。画像を保存し、友達追加をする。正直、何故LI〇Eを交換するのか。別に、SNSのDMでのやり取りだけで十分な気がする。
「あ、起きてるじゃん」
「うん」
「しっかり寝なさいよ」
無駄にしっかり者。妹の
「これ、置いとくから」
「ありがとう」
あんなに寝なさいと言われていたが、後藤と連絡が取りたかった。学校を早退して家にいるのは暇だし。向こうも、連絡をくれるし。
妹が来たことで、一旦スマホの画面を消していたから、妹が一階に下りて行ったのを把握したのち、スマホをまた見始める。後藤からは、またメッセージが。
『実は私』
それだけで止まったメッセージ。
「どうしたの……?」
と、聞くと、秒で既読が付き、メッセージが追加される。
『死んで、この世から消えてなくなりたいな。自分から命を絶つとかする前に、病気が悪化したら……死んじゃうかもだけど』
「え」
『昔から、病気で学校に行けないことが多くて。しかも、陰キャで運動も勉強も何できないからって。生きてる価値無いよ、なんて言われちゃって。色んな方法でこの世から消えようとしたけど、無理だった』
「死なないで」
中学生のする話にしては、あまりにも話が重すぎる。死なないで、なんて。短い言葉しか、返信できない。どうも言ってやることができなかった。
『ううん、もう、私は死ぬ。病気か、自分から死ぬかなんて、未来の私がどうなってるのかは分からないけど。岡田くんもいつかは死ぬし。この人生に後悔なんてしてないよ。もっと、岡田くんには人と接してほしい』
そのことに、返事はするべきだろうか——。
『でも、私の好きな雑学は、もう少し披露したかったかなあ。皆の反応、好きだったんだよね』
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