第28話 付与魔法師の幼馴染、デートをする(ユノ視点)

 古くなった装備品を新調するため、わたしたちは市場まで足を運んだ。


「いい剣が見つかってよかったね」

「うん!」


 フィオルの言葉に、わたしはそう頷く。


 肝心の装備品だけど……さほど時間もかからず、すぐに購入。

 結構お金がかかったけど、これくらい大丈夫だよね? 命には代えられないし……。


「フィオルも買ったんだよね?」

「うん。実際に使うかは分からないけど……護身用に必要だと思ってね。いい買い物をしたよ」


 そう言って、フィオルは購入した剣を掲げる。


 小ぶりで、どこにでもある剣だ。もっと高いものを買っていいと思ったけど……フィオルは「もったいない」と言い、興味がなさそうだった。

『暁の翼』に入って、フィオルもそれなりにお金持ちになったのに、彼は未だに貧乏性なところがある。きっと、『ブラックファング』にいた頃からの癖だろう。

 フィオルがこんなことになるなんて……『ブラックファング』にあらためて怒りを覚えた。


「じゃあ……そろそろ帰ろっか。ライラとセラフィナも待ってくれているだろうし」

「待って!」


 パーティーハウスへと歩を進めようとしたフィオルを、わたしは慌てて声で静止する。


「どうしたの?」

「いや……せっかく市場まで来たんだから、もう少し歩こうよ。こうして二人きりになるのも久しぶりなんだからさ」


 勇気を出して、そう口にする。


 どういう反応が返ってくるだろうか……と心配だったが、それは杞憂に終わり、フィオルは柔らかく微笑む。


「分かった。実は僕もそう思ってたんだ。なんだか最近はユノと落ち着いて話すことも出来なかったしね」


 やった……!

 一つ目の目標達成!

 せっかく、フィオルと二人きりなのだ。この機会を逃がすわけにはいかない!


 その後、わたしたちは目的もなくぶらぶらと市場を歩き回った。

 途中、クレープが売られている店を見つけて、足を止める。


「お腹空いたー。これを食べようよ! わたしは……苺のクレープにしようかな」

「じゃあ、僕はバナナで」


 お互いに注文し、店員からクレープを受け取る。


「美味しい!」


 一口食べると、極上の甘味が頭にガツンときた。


 どうして、甘いものはこんなに美味しいんだろう。生クリームと苺のコラボレーションが、わたしの満腹中枢をくすぐった。


「ユノは本当に美味しそうに食べるよね」


 フィオル自身もバナナのクレープを食べながら、そう言う。


「あー、太るぞ! って言いたいんでしょ?」

「そんなことないよ。そもそも、ユノは太ってないし……理想的な体型だと思う。思わず、見惚れちゃうくらい」

「……っ!」


 顔に熱を帯びていくのを感じて、咄嗟に視線をフィオルから外す。

 フィオル……いつもは鈍感なのに、急にこんなことをさらりと言ってのけるんだから。


 だけど、当のフィオルは気にしてなさそうである。突然顔を背けたわたしに、不思議そうだった。


「あっ、そうだ。クレープ、交換してみない? わたしもフィオルのクレームが気になってたし」

「そうだね。はい」


 とフィオルがバナナのクレープを差し出す。

 わたしはもう片方の手で、バナナのクレープを食べる。苺のクレープも美味しかったけど、こちらも絶品だ。


 そして、今さらになって気付く。


「こ、これって……っ!」


 慌てるわたしを、フィオルは先ほどよりもますます不思議そうに見る。


 これって……間接キスってことだよね!?


 ど、どどどうしよう! フィオルのことは好きだけど、さすがに関係を早めすぎだ! こんなの、わたしの予定にはない!


「さっきから、どうしたの?」

「いや……フィオルのクレープに、口付けちゃったなって思って。嫌だよね?」

「嫌? どうして? 子どもの頃は、よくこうやって食べているものを交換したじゃないか。なんで今さら、そんなことを言うのか分からない」


 昔……って、まだ十歳にもなっていない子どもの頃でしょ!?

 わたしたちはもう十八歳! この国では十八歳になったら、結婚することが出来る!

 今と昔じゃ違うのに……わたしだけ意識して、なんだかちょっと腹が立った。


「じゃあ、次はユノのクレープも食べさせてよ」

「嫌でーす。女心を分からない男の子には、あげませーん」

「ず、ずるいっ! それに女心が分からないって、どういうこと!? さっきからユノ、おかしいよ!」


 声を大にして反論するユノ。

 なんだかクレープ一つで、ここまで必死になるユノが可愛く見えた。


 クレープを食べ終わった後、わたしたちは再び市場を歩く。お昼時ということもあって、人もだんだん増えてきた。


「ねえ……」


 そう口を開きかけた時だった。

 どっと人の波が押し寄せてきて、フィオルが離れていってしまう。すぐに手を取ろうとするけど、人が邪魔で先に進めなかった。


「フィオル!?」


 必死に名前を呼ぶ。


 八年前──フィオルが急に村を出て行った時、わたしは同じような気持ちになった。


 もう二度とフィオルに会えないんじゃないかな。

 お別れも言ってないのに。

 ねえ、フィオル……一人にしないでよって。

 昔のことを思い出して、急に耐え難い寂しさが襲いかかってきた。


 しかし。



「よかった。ここにいて」



 ──人の波が落ち着いてきた頃、フィオルが胸を撫で下ろした様子で、わたしに手を差し出した。


「フィオル……」


 込み上げそうになった涙を強引に引っ込め、わたしは彼の名前を呼ぶ。


「ほんと……一瞬ひやっとしたよ。ユノとはぐれて、君を一人きりにさせるのは不安だったしね」

「……子どもじゃないんだけど」


 なんだか、わたしは泣きそうになっていたのに、フィオルだけいつもと変わらない様子でいるのが腹立たしくて、拗ねたようなことを言ってしまう。

 これでは、本当に子どもそのものだ。


 だけど。


「へ? 当たり前じゃないか。今のユノは立派な女性だ。だから……一人になって、他の男に絡まれたりなんかしたら、大変だからね。君が他の男と一緒になるのを想像したら、なんだか僕も嫌な気持ちになるし……」


 フィオルはちょっと照れたように頬を掻いて、わたしにそう言った。




 ああ──やっぱり、フィオルはフィオルだ。




 ちょっと鈍感で女心が分からない男の子。

 だけど……誰よりも努力家で優しいフィオルを、わたしは好きになったんだ。


「まあ、ユノも冒険者だからね。そんじょそこらの男には負けないと思うけど……女の子だというには違いないから」


 自分の言ったことを照れ臭く感じたのか、フィオルは誤魔化すように笑ってそう言った。


「あっ、そうだ。今度は、はぐれないように手を繋いでみよっか? そうしたら、さっきみたいなことにならないと思うし」

「うん……」


 赤くなっているであろう顔を見られないように俯き、フィオルの手をぎゅっと握った。

 もう二度と、どこにも行ってしまわないように。

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