第7話 付与魔法師、《階層ボス》を倒す

「やああああっっっ!」


 ユノが剣を振るう。


 固い装甲に守られた魔物のロックタートルが斬られる。全ての魔物を倒し、彼女は一息吐いた。


「ユノ、よくやった!」

「ライラちゃんもすごいよ!」


 ユノとライラがハイタッチを交わす。


 戦いの高揚感が残っているのか、二人とも笑顔だ。戦闘続きだけど、疲労はないように思える。


「これでは、私の出番がありませんね」


 セラフィナがクスクスと笑う。


 彼女はパーティーのヒーラーだ。卓越した治癒魔法技術があるんだけど……いかんせん、ユノとライラが強すぎる。セラフィナが活躍する場面はなかなか訪れなかった。


 だけど。


「そんなことないよ。セラフィナがいるから、二人も安心して戦えていると思う。怪我をしても、君に治してもらえばいいってね」

「そうおっしゃっていただき、ありがとうございます。フィオルさんは本当に優しいですね」


 ふんわりと優しく笑うセラフィナ。


「よーし、この調子でガンガン行くよ! もう少しで、《階層ボス》がいる10階層だし!」


 ユノが拳を高く突き上げて、そう歩き出した。



 ──迷宮探索は順調に進んでいる。



 Sランクパーティーの『暁の翼』にとっては、こんな上層はお手のものなのだろうか。

 トラブルもなく迷宮を降りていき、現在僕たちがいる階層は『9』だ。


「少し気になってたんだけどよ。フィオル、お前、さっきから『もう一押し!』『この調子!』とか応援してくれてるよな」


 歩きながら、ライラが僕の方を振り返ってそう口にする。


「オレらは気付かないけど、その応援の声に付与魔法を乗せてくれてるってことだよな?」

「うん。とはいえ、全てじゃないけどね。ここぞという時に、声に付与魔法を乗せてるってわけ」


 僕は答える。


「だったら……もう少し、分かりやすく出来ねえか?」

「というと?」

「なんというか……たまにお前が付与魔法をかけてくれてるのか、それともただ応援してくれてるのか、分からなくなるんだ。強化されてるって分かったら、もっと大胆に攻撃することも出来るしな。『付与魔法の声』と『純粋な応援』を分けてほしい」


 ……なるほど。なかった視点だ。


 なにせ、『ブラックファング』にいる頃は、アゼルたちに自然に声を届かさなければならなかったのだ。

 ただ、「強化!」って言っても、アゼルたちは聞く耳を持たなかっただろうし。

 そうなれば、せっかく声に付与魔法を乗せているのに、効果が薄れてしまう。


「そうだね……だったら、身体能力や魔力を強くする場合は【強化】。スピードを上げたい場合は【加速】。こういうのはどうかな? 短い言葉だったら、それだけ余裕も生まれるわけだし」

「おお、それはいいな」

「分かりやすい! フィオル、グッドアイディアだよ!」


 ライラとユノが、そう賛成してくれる。


「セラフィナもいいかな?」

「はい、もちろんです」


 とセラフィナも頷いた。


 ……よし、決定。


 純粋な応援をやめるつもりはないけど、これで僕もますますやりやすくなった。

『ブラックファング』の時は、こういう当たり前なことも聞き入れてくれなかったし……。

 このパーティーが、いかに居心地がいいのかを再確認した。


「みんな、そろそろ来るよ」


 10階層に降り、大きい扉の前でユノは足を止めた。


「この先に《階層ボス》がいる」

「10階層の《階層ボス》っていったら、オーガだったか?」

「うん。今まで何度も倒しているボスだけど……油断は禁物。本当は来るつもりはなかったけど、今はフィオルの付与魔法がある。今のわたしたちなら、いつもより楽にオーガを倒せると思うんだ」


 僕たちの間に、緊張した空気が流れた。


「セラフィナちゃんとフィオルも、準備はいい? 《階層ボス》を倒しにいくよ」

「もちろんです」

「僕もだ」


 僕たちはそう言って、お互いに頷き合う。


「よし……いざ、挑戦!」


 ユノが勇ましい声を上げて、目の前の扉を押し開いた。




「──GAAAAAAA!」




 するとだだっ広いフロアに、オーガの雄叫びが響いた。

 全身は灰色。四メートルほどの巨大な魔物である。

 オーガは不躾な訪問者──僕たちに怒りを滾らせているようであった。


「わたしがヘイトを稼ぐ! その間にライラちゃんは、オーガに攻撃を!」

「任せとけ! フィオルも頼むぜ!」

「うん──ユノには【加速】! ライラには【強化】!」


 パーティーの攻撃担当のユノとライラに付与魔法をかける。

 戦闘開始だ。


 オーガは右手に持っている棍棒で、嵐のように暴れ回る。

 直撃すれば致命傷は免れないだろう。だが、ユノは負けなかった。オーガの気を自分に向けながら、フロアを縦横無尽に駆け回る。


「へへっ、オレを忘れてんじゃねえか?」


 その隙にライラはオーガに大剣を振るう。

 命中! オーガは苦悶の声を上げる。だが、さすがは《階層ボス》。それだけでトドメとならず、すぐに攻撃態勢へ戻った。


「やっぱ、体が軽い。これなら、いつまでも戦えそうだ」


 ライラが満足げにニヤリと笑う。


「フィオルさん! 私にも!」

「任せて──【魔力強化】!」


 セラフィナにも付与魔法をかける。


 一進一退の攻防。

 だが、間違いなく優勢なのは僕たちだった。


 オーガはユノの俊敏さに翻弄されているし、その間にライラは少しずつオーガにダメージを与えていく。

 二人ともオーガの攻撃をまともにくらわなかったし、時たま擦りはするが、その場合は瞬時にセラフィナが治癒魔法をかける。


 戦いが始まってから五分ほどが経過し、お互いに疲労が見え始めた時であった。


「あっ……」


 ライラが突如、躓く。

 気付かない間に、足元に小石があったのだ。受け身こそ取れたものの、完全に隙が生じてしまった。


「GAAAAAAA!」


 そして、それを見逃すほどオーガも甘くない。

 ニヤリと笑い、立ち上がろうとするライラに棍棒を振り下ろす。このままでは直撃。躱わすのも間に合わない。



 だが──罠にかかったのはオーガの方だ。



「かかったな」


 今度はライラがニヤリと笑う番だ。

 オーガは違和感を抱いたようだが、今さら気付いても、もう遅い。ライラは大剣を顔の前で構え、オーガの棍棒を受け止めた。


「す、すごい……っ!」

「へへっ、普通ならこんな危ないことはしねえんだけどな。けど、フィオルの付与魔法で強化してもらった今のオレだったら、出来ると確信してたんだ」


 思わず声を漏らしてしまったセラフィナの声に、ライラがそう答える。


「ユノ! 今だ! 【トドメの一撃】を!」

「うん!」


 ──そして、ライラに攻撃を受け止められ無防備となったオーガの背中に、狙いを定めるのがユノだ。

 これ以上ない必殺のタイミング。ありったけの力を集結させる付与魔法がかかったユノは、剣に炎を纏う。


 そのまま大きく飛び上がり、オーガへと落下していった。


「じゃあね、オーガくん。相手が悪かったね」


 渾身の一撃を──オーガに放つ。


 今までヘイト役だったユノが、ここにきてまさかのアタッカーに転身。理外からの攻撃に、オーガは耐えられなかった。


 断末魔を周囲に響かせ、ゆっくりと倒れていった。


「「「「やったー!!!」」」」


 見事、10階層の《《階層ボス》の撃破に、僕たちは喜びの声を上げるのであった。

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