第5話 付与魔法師、何故か分かる

 二階層に続き、三階層も攻略していく。


 ユノたちは圧倒的な力で、魔物たちをねじ伏せる。

 一方の僕は、相変わらず応援しか出来ないけど……せめてものと思い、いつもより張り上げる応援の声を大きくした。



「おかしい……」



 四階層に降りようとした時、ライラが立ち止まってそう声を零した。


「ライラちゃん、どうしたの?」

「だって、ここまで順調に進んだことは今まであったか? いくら上層の弱い魔物しか出ないにしても……だ。いくらなんでも、おかしいんじゃねえか?」


 さすが、ライラ。

 彼女はパーティー内でも最前線で動き回り、魔物に攻撃を加えていく役回りだ。

 だからこそ、いつもと違うことに気が付いたのだろう。


「そういえば……私もなんか変です。いくら治癒魔法を使っても、魔力がなくなっていく感じがしません。今のところ簡単なヒールしか使っていませんが、これは……」


 セラフィナも同じような感想を抱いたのだろう。不思議そうな顔をして、一頻り考え込んでしまった。


「うーん……わたしも変な感じかな。いつもより全然疲れないし、魔物が簡単に溶けていく。フィオル、わたしたちの戦いを見て、なにか気付いた?」

「そうだね……」


 ユノから振られた話に、僕はこう発言する。


「今の僕は、ただの応援係だ。君たちの戦いを分析出来るなんて、大それたことは言えない。でも、戦いを眺めていると、いくつか気が付いたことがある。ユノは右側の視野が少し狭いね。死角からの攻撃にヒヤッとするところがあった。まあ、ライラがすぐにカバーを入れてくれたけど。ライラは火力がある分、前に出すぎて危ない時がある。左足をもっと意識して踏み込めば、無理のない攻めが出来ると思う。セラフィナの治癒魔法もすごく早い。一瞬で魔法式を組んで適切に回復している。だから二人が安心して戦え……」

「ス、ストップ!」


 まだまだ言い足りなかったけど、ライラが話を止めにかかる。


「今までの戦いを見て、そこまで分かりやがったのか!? 今お前が言ったこと、オレたちが前々から感じてたパーティーの弱点だぞ!?」

「え、うん……僕は一歩引いて、戦いを眺めることが出来るからね。これくらいは簡単というか……」


 しかし、実際に戦っているのはユノたちだ。僕は戦いを冷静に観察することしか出来ない。

 驚いた表情のライラに、僕は首を傾げるのであった。


「……やっぱり、フィオルはすごいよ。普通の人は、魔物を前にしたら腰が抜けて動けなくなるもん。自分の身を守るだけじゃなく、わたしたちのことを観察するなんて……フィオルはもっと自分を誇っていいと思う」


 ライラがどうしてそんなに驚いているのか疑問を感じていると、ユノが優しい顔をして言った。


「いやいや、これくらい当たり前だよ。『ブラックファング』の時は、『せめて戦えないならオレたちの戦いを眺めておけ!』って罵倒されてたし」

「同じパーティーメンバーにそんなことを言うなんて……『ブラックファング』の連中はどこまで腐ってやがんだ」


 顔に嫌悪感を滲ませて、ライラがそう口にする。


「まあ──調子がいいのは悪いことじゃないんじゃないかな? おかげでスイスイ進めてるわけだし……」

「その通りだ。フィオルも疲れないようなら、もっと下に潜ってみようぜ。五階層くらいまでなら大丈夫だろ」


 ユノとライラがそう結論付けて、今度こそ三階層を後にしようとする。


「お二人は元気ですねえ。まあ、気持ちは分かりますが」


 セラフィナは二人の様子を見て苦笑し、後に続いていく。


 ……その時だった。


「待って」


 セラフィナを声で呼び止める。


「……? なんでしょうか?」

「……ごめん。すぐには気が付かなかった。やっぱり僕は無能だ」


 肩を落とし、セラフィナの足首に視線を移す。


「……その右足、痛めてるよね?」

「え……?」

「少し重心が左に寄っている。無意識に右足をかばっているんだろう。二階層のウルフ戦の時、痛めたかな? 出てきたウルフは多かったからね。いくらヒーラーだとしてもポジション取りをしっかりしないといけなかったから、しょうがない」


 そう言って、しゃがみながらセラフィナの右足首を見つめる。


 ……うん、ちょっと赤く腫れているだけだ。大事には至っていない。


 ユノたちが怪我をしないか、くまなく観察していたせいだろう。そのせいで自分の怪我に気が付かなかった。医者の不養生ってやつだ。

 怪我の具合も大したことがないことが分かり、ほっと胸を撫で下ろしながら、立ち上がる。


「セ、セラフィナちゃん!」


 あらためて二人の後を追いかけようとすると、彼女が驚いた様子で駆け寄ってきた。


「いつの間に怪我してたの!? 言ってくれればよかったのに!」

「いえ……右足に違和感がありましたが、報告するまでもないと思いましたので。みなさんの勢いを止めたくありませんでした」

「だからといって、自分の怪我も治さないなんてダメだぜ。ほんと、セラフィナは自分の体を大切にしないなあ」


 ライラが後頭部に手を回して、呑気な口調で言う。


「……それにしても、フィオル。どうして分かったの?」

「だ、だって、さっきも言ったけど、僕は三人を冷静に眺められる立場にあるから……」


 僕としては、なんでユノがそんなに驚くのか分からない。これくらい、僕にとったらなのだ。


 だって、少しでも違和感を見逃せば、すぐに死ぬような環境に置かれていたから。


「……そもそも、どうしてそんなに私たちの戦いを眺める必要があるんでしょう? それよりも、自分が逃げることで精一杯なのでは?」


 胡乱げな視線を、僕に向けるセラフィナ。


「もしかしたら、ユノたちはよく分かっていないかもしれないけど……付与魔法をかけるには、パーティーメンバーの動きを分析する必要があるんだ。じゃないと、急に高い強化倍率の付与魔法をかけたら、違和感だらけで戦いどころじゃなくなるからね」

「付与……魔法?」


 ユノの声が震える。


「……もしかしてフィオル、わたしたちに付与魔法をかけてくれてたの?」

「あれ、言ったよね? 僕は付与魔法師だって。仲間が戦っているのに付与魔法をかけない魔法師がどこにいるの?」


 冗談混じりに笑う。


「だ、だって、付与魔法をかけるって言わなかったから……」

「てっきり、分かってるものだと思ってた……」


 なんにせよ僕の付与魔法は、師匠のに比べて弱々なのだ。

 影響は微々たるものだし、ユノたちにとってはお守りがわりにしかならない。


 なんで三人ともそんなことを言うのか分からないでいると、今度はライラがゆっくりと口を開いた。


「待て待て、ということは……」

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