Sランクパーティーを追放された少年、最強の付与魔法師なり 〜ただの『応援係』だと侮られていたけど、実は声に付与魔法を乗せて仲間全員を強化していたのを、あいつらは知らない〜
鬱沢色素
第1話 付与魔法師、追放される
「フィオル、お前はパーティーを
アゼルから告げられた一言に、僕──フィオルは思わず、目を見開いてしまった。
「えっ……!?」
言葉に詰まる。
「ま、待ってくれ! どうして、僕が追放なんだ! 僕は……」
「黙れ!」
僕の反論を、アゼルは一喝する。
「よくもまあ、そんなことが言えたもんだな。お前は、俺たち『ブラックファング』のお荷物のくせに!」
「で、でも……」
「それとも、ただの『応援係』だっていうのに、パーティーに貢献しているつもりだったのかよ」
冷笑を含んだアゼルの言葉に、僕はなにも言い返せなかった。
──冒険者。
迷宮に潜ったり、魔物を狩って生計を立てる人たち。
そんな人たちに、僕は幼い頃から憧れを抱いていた。
その身一つで、凶悪な魔物にも立ち向かう。
困っている人には、迷わず手を差し伸べる。
幼い頃から僕は、そんなカッコいい冒険者になりたかった。だから今から八年前、十歳になった僕は故郷の村を飛び出したのだ。
しかし、現実は非情だった。
僕には、冒険者としての才能が全くなかったのだ。
それは冒険者になる前、山に籠り教示してくれた師匠も言っていた。
他の人が一日で出来ることが、僕には一ヶ月かかる、と。
身体能力も高くなく、魔力量も少ない。
毎日師匠に叱られながらも、我武者羅に頑張った。
だけど、僕には唯一、人並みにやれるものがあった。
それが『付与魔法』だ。
他人を強化したり、魔物に
しかし、この世界において付与魔法は地味で、不遇なものとされてきた。
そんな魔法を使うくらいなら、自分自身が強くなればいいんじゃないか?
付与魔法をかけられたら感覚もおかしくなるし、魔法が切れたら集中力もなくなる……と。
そのような理由から、付与魔法を使う『付与魔法師』はパーティーに不要。付与魔法師はあくまで補助目的。
付与魔法をパーティーのメインに据える冒険者は、どこにもいなかった。
とはいえ、僕が人並みに出来るのは付与魔法だけだ。
師匠に教えてもらいながら、必死に付与魔法を身につけた。
そして師匠の元を離れ、冒険者になろうとしたのが一年前。
僕みたいな無能な付与魔法師が、ソロでダンジョンに挑むなんて無謀だ。そのことが分かっていた僕は、すぐにどこかのパーティーに入れてもらおうと考えた。
だが、無駄だった。
最初は興味を持ってくれた人たちも、僕が付与魔法師と知るなり、顔に落胆の色を浮かべた。
どこも付与魔法師をパーティーに迎え入れてくれるところはなく、僕は途方に暮れることになった。
しかし、ここで救いの手が差し伸べられる。
『俺たちのパーティーに入らねえか?』
そう言ってくれたのが、僕に追放を告げた男、アゼルだ。
アゼルは『ブラックファング』というパーティーのリーダーで、雑用をしてくれる人を求めていた。
雑用だなんて……と思ったが、背に腹は代えていられない。藁にもすがる気持ちで、『ブラックファング』に入れてもらった。
だが、そこで待っていたのが劣悪な環境だ。
ダンジョンから帰ったら、疲れた体で報告書の作成。パーティーの会計管理。掃除や洗濯などの雑用。
さらにアゼルは気に入らないことがあったら、すぐに僕に暴力を振るった。
ここをクビになったら次が見つからないと思った僕は、ただただ頭を抱えて、彼の凶行に耐えるしかなかった。
そんな僕だけど、雑用以外にもう一つの役割がある。
それがパーティーの『応援係』だ。
アゼルは承認欲求の塊のような男だった。
自分が戦っている姿を誰かに見てもらいたい。みんなから賞賛されたい。気持ちよくなって、戦いに挑みたい。
そう考えたアゼルは僕を応援係に任命し、戦いの最中に応援することを強いた。
『すごいよ、アゼル! その調子! ガンガン行こう!』
『右から魔物が来る! アゼルの速さだったら、十分避けられるよ!』
『頑張って! 次の一撃に、全てを込めるんだ!』
……などなど。
冒険者として最前線で戦いたい僕にとっては屈辱的な扱いであったが、文句を言う権利もないし、守っておいてもらって筋違いだろう。
劣等感に苛まれながらも、せめて応援係としてパーティーに貢献しよう……と思っていたが、結果はご覧の有り様だ。
「た、確かに僕はただの応援係かもしれない。だけど今まで何度も説明していた通り、応援の声に付与魔法を乗せて……」
「まだそんな世迷言を言ってんのか? 仮にそれが本当だとして──付与魔法なんてなくても、俺たちは十分戦えんだよ」
僕の意見を一蹴するアゼル。
「そ、それでも! アゼルたちの足を引っ張らないように、必死に頑張ってきて……」
「あんた! まだ反論するつもりなの!? アゼルを困らせないでよ!」
そう怒鳴り声を上げるのはカトリナ。
僕たち、『ブラックファング』の魔法師である。
可愛らしい見た目をした女の子だけど、彼女も僕のことを軽蔑しており、いつも罵声を浴びせてきた。
「俺たち、『ブラックファング』はSランクパーティーだが、まだまだこんなもんで満足しねえ。SS……いや、SSSランクパーティーを目指している」
アゼルがそう言う。
冒険者のパーティーは、F〜A……そしてその上の、Sランクに基本的には区分される。
僕が入った頃の『ブラックファング』はDランクパーティーだったけど、ここ一年でめきめきと力を伸ばした。
今となっては、たった一年でSランクパーティーだ。
だが、パーティーランクにはSのさらに上がある。
それが頂点のさらに上──SSランクとSSSランクだ。
だが、SSランクはともかく、SSSランクに昇格することは滅多にない。
ほとんど名誉職みたいなランクで、現役でSSSランクになったパーティーはほとんどなかった。
アゼルは『ブラックファング』を、そのSSSランクパーティーにしようとしているのだ。
SSSランクパーティーになれば、王族にも匹敵するほどの権力が与えられ、なに不自由ない生活が保障される。
もちろん、それに付随する義務も存在するのだが……アゼルはそんなことを考えていないのだろう。
誰よりも虚栄心があるアゼルは、SSSランクパーティーになって、みんなから賞賛されたいと考えている。
「その足がかりとして、俺たちは大規模迷宮がある迷宮都市エルディナに来た。前人未到の50層の攻略に挑戦するオレたちは、自然と注目を集めることになるだろう」
「う、うん。分かるよ」
「それなのに応援係なんてお荷物がいたら、カッコつかないだろ? 今までご苦労さん。お前にこのパーティーはふさわしくねえよ」
しっしと手を払うアゼル。
彼の表情を見て、僕は全てを察する。
ああ──全ては無駄だったのだ。
弱い僕だけど、少しでもパーティーの力になれるようにと今まで必死に頑張ってきた。
応援係という屈辱にも耐え、命の危険と隣り合わせになりながらも、彼らに付いていった。
しかし……アゼルとカトリナは、そんな僕を疎ましく思っていたのだろう。
ここにいない『ブラックファング』のもう一人のメンバー、ルナだって同じように考えているはずだ。
彼女はアゼルやカトリナのように僕に暴力こそ振るわないものの、庇ったりもしなかった。他人に興味がないのだろう。
どれだけ反論しても無意味だと悟った僕は、ぐっと拳を握って、声を絞り出す。
「わ……分かったよ。パーティーから抜ける。今まで、迷惑かけてごめん……」
「ああ……そうそう。迷惑で思い出したけど、装備品と有金も全て置いていけよ」
「はあ!? なんで!?」
「迷惑料代わりってことよ。応援係はそんなことも説明されなくちゃ、分からないのかしら!」
前のめりになる僕に、カトリナが見下すような視線を向ける。
……逆らっても無駄か。
「……これでいいかな?」
「問題ねえ。しかしお前……大して金が入ってないじゃねえか。無駄遣いでもしてたんじゃねえか?」
僕が渡した財布の中身を見ながら、アゼルが嘲笑する。
……僕の持ち金が少なかったのは、魔物討伐による報酬をほとんど受け取れていなかったからだ。
毎日食べるものを買うだけで一杯一杯で、無駄遣いなんてもってのほかだ。
「装備品も置いたら、さっさとどっかに行けよ。これ以上、お前の顔を見ていたらムカムカしてくる」
「ルナにはあとでちゃんと言っておくわ〜。いきなり野垂れ死んだりしないでね〜、変に私たちが疑われても嫌だから」
背を向ける僕に、アゼルとカトリナは最後まで優しい言葉はかけなかった。
──こうして応援係の僕は、Sランクパーティーを追放されたのだ。
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