宿敵との邂逅ーReunionー

鉢合わせ

 恨み果たすと決めた相手。


 必ず倒すと定めた相手。


 いつか越えると求めた相手。


 今は純粋に勝負をしたい。


 今はその時までに強くなりたい。


 今はまだ、相対する時じゃない。



ーー


 神獣ウラナとの戦いを終えて治療も済み、エルクリッド達はキアズミの街の近くにて野宿の準備を進めていく。


 街の宿が既に満員であったのもあり仕方なくという形ではあるが、大きな戦いを一つ終えて自信へ繋がったのもあり疲労はあれどエルクリッド達の表情には明るさがあった。


「これでよし、と。タラゼドさん作り終わりましたよ」


「ありがとうございます。ではあとは煮込むだけなので、出来上がるまで休んでてください」


 エルクリッドとノヴァが作っていたのは肉と刻んだ野菜を混ぜたものを皮で包んだもの。それを同じように刻んだ野菜を煮るのに入れ、タラゼドが鍋をかき回すと良い匂いが辺りに広がる。


 食事は旅の醍醐味の一つ、魔物避けなどもしなければならず手間は多いが、仲間達と共に何か一つを成し遂げるあるいは目指す中での穏やかな時間は心が落ち着く。

 天幕を作り終えたシェダが椅子代わりの程良い岩を、リオが薪となる程良い木の枝を集め終えて料理ができるのを待つ。


 静かなひと時に心地よい風が吹き、日が沈み夜の帳が舞い降り始める。焚き火が灯りとなり来訪者もたまに現れるが、それもまた旅の醍醐味の一つ。

 そんな風に思っていた時に、不意にその者は突然背後に降り立ち、覚えのある気配にすぐにエルクリッドがカード入れに手をかけながら立ち上がり振り返った。


「あんたは……どうして……!」


「……なんだ、またお前らか」


 警戒するエルクリッドに対し呆れ気味にため息をつくのは仮面の男バエルであった。恐らくはリープのカードで移動してきたのもあって突然現れたとなったのだろうが、特にエルクリッド達に意に介さずそのまま街の方へと歩き始め、それには肩透かしを食らいつつもエルクリッドが呼び止める。


「ちょっと待ちなさいよ!」


「今お前らに用はない、俺は俺の行きたい所に行き戦う時に戦う、それは変わらない」


 火竜の星座を描く服を纏う後ろ姿を見ながらエルクリッドはバエルが変わってないと感じつつ、だが何処か、以前よりも穏やさを感じカード入れから手を引く。


 彼には多くの事を思う。憎みもしたし怒りもした、だが堂々たる姿勢や彼が結果的に自分を助けようとしてた事などもあり、今は越えるべき目標として純粋に思えている。

 そんな相手が足を止めて答えてから再び歩き出そうとした時、ぐぅ〜と気の抜けるようなお腹の音が響く。一瞬それはエルクリッドのものとノヴァ達の視線が集まるが、くすくす笑いながらタラゼドがバエルへ視線を向けた事で彼のものと気づく。


「街の宿はいっぱいですよ。お腹も空いているなら、ご一緒にどうですか? たまには手の込んだものを食べるのもよろしいかと」


「食事をする時間をかけるくらいなるば、鍛錬する方に……」


 堂々と言い返す途中で再びバエルの腹が鳴り、今度はエルクリッドのものも同時に鳴る。ちょうど煮詰まってきた事で食欲そそる良い香りが周囲に広がりつつあるのも相まって、バエルは舌打ちしつつ振り返りずんずん進み歩くと渋々近くの岩に寄りかかり相席する姿勢を示す。


 それにはエルクリッドもひとまず警戒を解いて椅子代わりの岩に座り、タラゼドの誘いを受けたバエルを料理ができるまで見つめていた。



ーー


 香草が効いた野菜たっぷりの汁は優しい味であり、皮で包んだひき肉は肉汁たっぷりで口の中に美味しさが広がりエルクリッドは舌鼓を打ちながら笑顔を見せ、それはノヴァ達も同様でありタラゼドも微笑む。

 ただ一人バエルだけは淡々と粛々と食事を進め、それにちらりとエルクリッドは目を向けつつ、気づいたのか彼は静かにたまにはいいものだなと口にし彼女を驚かせる。


「あんたも、そういうの言えたんだ……」


「人を化け物かなんかと思っているのか。少なくとも今は戦いの時ではない」


 戦いに厳しく強さだけを求めるリスナーの新たな側面を見れた気がした。いや、彼が単なる戦闘狂ではない事は知っていた。


 五曜のリスナー最後の一人熒惑けいこくのリスナーとして彼はどんな日々を送ってきたのか、強さをさらに求め研鑽し続ける姿勢は今にして思うと何か理由があるのもわかり、エルクリッドとしては聞きたいし思いたくもなる。


(別に、好きとかじゃないけど……知りたい、な)


 出生とメティオ機関襲撃の理由を知ってからは、バエルへの思いは変わっていた。越えるべき目標、そして未だ後悔の中にいる彼を救うには倒すしかないとエルクリッドは思う。

 リスナーとして正々堂々と戦うバエルの姿勢は全てにおいて素晴らしいもの、だからこそ、彼の立つ高みに並ぶ事で理解できるのではと。


 そんな事を考えてると、ふと何かを思い出したようにノヴァがバエルの方へ身体を向け、それに彼が視線を向けたのを感じてからある問いを投げかけた。


「あのっ、五曜のリスナーについて詳しく教えて下さい」


 一瞬その場が戦慄しかける。ノヴァからすれば純粋に知りたいという思いなのだろうが、バエルにとってそれは触れたくないものであると。

 だがすぐにそれは杞憂と感じられた。言葉を受けてバエルもあぁと即答した事や、彼の雰囲気は変わらずにいる。またその理由には此度の星彩の儀における再選定を受け入れた事によるものもあると思えば、その反応もおかしくはない。


「十二星召がエタリラの調整役を担うならば、五曜のリスナーはそこに生きる者……具体的には文明の営みに介入し調整を担う者としてデミトリア様が考案された。神獣も含めた三つの柱を成す事でいずれかが暴走した際の抑止力としつつ、エタリラの活性化を星送りに合わせて興したしたのが始まりだ」


「星送り……?」


「リデルに至る道筋、リスナー達の真の役割を果たす創造神から課せれる試練の事だ。前回は十五年前、火の夢の事件と重なった……いや、あれはその時を狙って動いたというのが正確、だな」


 五曜のリスナーと興された年に起きた事件の関係性。繋がる糸を再び解くように、バエルは星空を見上げながら過去を語り始めるのだった。


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