記録 No.23:スクリーンショット画像及びメモ
資料種別: PNG画像ファイル、テキストファイル
日付: 2025年3月18日
【筆者による注記】
以下の記録は、私の調査が、そしておそらくは私の日常が、「帰還不能点」を越えてしまった瞬間の証拠である。
恐怖を論理で克服しようとした私の試みは、最も残酷な形で打ち砕かれた。
【資料1:スクリーンショット画像ファイル情報】
ファイル名: ScreenCapture_2025-03-18_02-44-11.png
タイムスタンプ: 2025年3月18日 火曜日 AM 02:44:11
ファイル概要:
PCのデスクトップ全体のスクリーンショット。画面の大部分には、執筆中の調査報告書『デジタルの残穢』の草稿が表示されている。画面の右下には、ビデオ会議アプリ(Zoom)の小さなセルフビューウィンドウが起動したままになっている。
そのセルフビューウィンドウには、PCの前に座る「私」の姿が映っている。キーボードに集中しているため、顔は俯き加減である。
そして、その「私」の左肩越し、まさに背後の空間に、天井に届くほど背の高い、黒い人影が明確に立っている。
影は、手足や顔といった細部が一切ない、ただ黒く塗りつ潰されたような人の形をしている。それは、部屋の壁や家具の影とは明らかに異質で、立体感を持ってそこに「存在」している。
【資料2:同時間に記録されたメモ】
ファイル名: memo_0245.txt
AM 02:44
報告書を書いていた。集中していた。
視界の隅、右下のZoomの小窓で、何かが動いた気がした。
気のせいだ。疲れている。そう思った。
だが、もう一度、動いた。
顔を上げた。背後を振り返った。
誰もいない。壁があるだけだ。いつもの自分の部屋だ。
でも、見た。間違いなく、今、小窓の中にいた。私のすぐ後ろに。
AM 02:45
手が震えている。
反射的にスクリーンショットのキーを押していた。震える手でファイルを開いた。
写っている。
そこにいる。私の後ろに、あの黒い男が、タナカ・トシオが見ていたものが、はっきりと写っている。
幻覚じゃない。気のせいじゃない。データとして、証拠として、そこに存在している。
タナカの言葉は正しかった。
光の線を通って、来たんだ。私の部屋に。
ずっと見ていたんだ。私がこの調査を始めてから、ずっと。
どうすればいい。どこに逃げればいい。
この部屋から出ても意味がない。こいつは土地にいるんじゃない。ネットワークにいるんだ。
私のPCに。私のスマホに。私のアカウントに。
もう、どこにも、逃げ場所なんてない。
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