記録 No.13:動画ファイル分析

資料種別: 調査メモ(私的記録)

日付: 2025年3月5日


件名: 復元動画ファイル「D_664.mp4」の分析と考察


デジタルフォレンジクスラボより受領した復元データの内、最重要ファイルと思われる「D_664.mp4」の分析を行った。

以下にその内容を記録する。


1. ファイル概要

ファイル名: D_664.mp4

再生時間: 4分11秒

解像度: 1280x720ピクセル, 15fps

音声: AAC, 128kbps, モノラル

備考: デジタルフォレンジクスラボの報告書によれば、音声トラックに人間の可聴域を下回る15-50Hzの低周波ノイズが確認されている。


2. 映像の詳細分析

00:00 - 00:58

映像は、薄暗い和室と思われる室内を固定視点で映している。カメラは部屋の隅、高さ1メートルほどの棚の上に設置されているようだ。画面には古い木製のタンス、座椅子、畳の一部が映り込んでいる。生活感はあるが、全体的に整頓されており、高齢者が一人で暮らしている家という印象を受ける。画面中央の畳の上で、柴犬と思われる一匹の老犬が丸くなって眠っている。室内は静かで、特筆すべき動きはない。


00:59 - 01:35

老犬が、物音もなく突然目を覚ます。身を起こし、耳を立て、画面右奥、カメラの死角となっている部屋の隅を凝視し始める。最初は訝しむような様子だが、徐々にその表情がこわばっていく。喉の奥で低く唸り声を発し、ゆっくりと後ずさりしている。尻尾は固く足の間に巻き込まれ、明らかな警戒と恐怖を示している。


01:36 - 03:40

老犬の恐怖が頂点に達する。それまで凝視していた「何もない」空間に向かって、狂ったように吠え始める。その鳴き声は威嚇というより、パニックに近い悲鳴のようだ。毛を逆立て、同じ場所を睨みつけたまま、吠え、後ずさりし、時にその場で怯えたように円を描く。映像が記録している4分11秒の間、その視線が部屋の隅の特定のポイントから外れることは一度もない。しかし、カメラの映像には、犬がこれほどまでに怯える原因となるようなものは何も映っていない。人影、物音、光の変化、そのいずれも確認できない。


03:41 - 04:11

犬は吠え疲れ、鳴き声がかすれてくる。しかし、恐怖は持続しており、部屋の隅を睨みつけたまま、小刻みに震え続けている。映像の最後、犬はタンスの陰に隠れるようにして、恐怖の対象から目を逸らさないまま、映像は唐突に終了する。


3. 音声の詳細分析

映像と並行し、音声分析ソフト(Audacity)を用いて音声波形の解析を行った。

犬の鳴き声や爪が畳を引っ掻く音以外に、フォレンジクスラボの報告通り、全編を通して可聴域外の低周波ノイズが記録されていた。

これは単なる環境音や電化製品のハムノイズではない。

波形を確認すると、この低周波ノイズの振幅は一定ではない。

特に、犬が目を覚ます直前の【00:55】あたりから振幅が急激に増大し、犬が最も激しく吠えている【01:36 - 03:40】の間、そのレベルは最大値を維持していた。

まるで、犬の恐怖とノイズの音圧が完全に同期しているかのようだ。


4. 所見

この映像は、単なる動物の異常行動の記録ではない。

老犬は、人間の五感では知覚できない「何か」の存在に、間違いなく反応している。

そしてその「何か」は、低周波という物理的な痕跡を音声データの中に残している。

この異様な現象が起きていた部屋の主、タンスや座椅子を使っていたであろう人物は、この犬の振る舞いをどう見ていたのか。

この恐怖の光景を、なぜ記録し、そして消そうとしたのか。

その答えは、同時に復元されたもう一つのファイル、「fragment_log.txt」にあるのかもしれない。

次の分析は、このテキストファイルの解読に移る。

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