第25話 勇者王子は怒りを覚える(後編)
※アルベルト視点です。
「アリア様! アルベルト様! お幸せに!」
「えっ?」
今、なんて言った?
唐突にかけれられた祝福の言葉に、思わず素が出てしまった瞬間、民衆の歓声の種類が変わった。
「聖女と勇者の結婚に万歳!」
「美男美女のお似合いカップル!」
「聖女様! アルベルト様と共にこの国を支えてください!」
は、俺がこの女と結婚?
ふざけるな。
冗談じゃない。
この女と結婚なんて、死んでもごめんだ。
こんな、こんな清楚を装ったアバズレ女なんて……!
矢継ぎ早にかけられる祝福の歓声に、僕のアルカイックスマイルがいよいよ限界に近づいてきた時、更に聞き捨てない言葉が僕の耳に飛び込む。
「やっぱり、勇者の相手は毒婦より聖女様よね~!」
待て。『毒婦』ってまさか、ティナのことを言っているのか?
僕の隣にいるこのアバズレ女じゃなくて?
すると、祝福の歓声の中に罵倒が混じってきた。
「そうそう、あんな身の程知らずな女より、やはり清楚な聖女様の方が相応しいわよ」
「本当、早く婚約破棄されないかしら?」
「それかいっそ、死んでほしいわよね。エーデルワイス公爵家のためにも!」
「そして、聖女様のためにも!」
愛しいティナを観衆達が好き勝手に罵倒する度に、僕の中に沸々と怒りが込み上げてくる。
やはり、エーデルワイス公爵は実の娘の噂を放置して、父上は動かなかったか。
公爵には密書で『ティナの悪評を水面下で抑えて欲しい』と命令したはずなのに。
やめろ、僕の可愛いティナをそんな言葉で汚すな。
『聖女とエーデルワイスのために婚約破棄しろ』だって?
そんなの、僕が許すはずないじゃないか。
聖女もエーデルワイスも知ったことか。
僕は、ティナがいればそれでいいのだから。
そんなティナに『死んでほしい』だって?
だったらお前達が死ね。
愛しいティナを貶める貴様らに生きる価値なんてない。
そうだ、僕がここでティナのことを貶める奴らを血祭りにして……
その時、隣にいたアバズレ女が火に油を注ぐようなことを口にする。
「ありがとうございます! 私、アルベルトと幸せになります!」
これ以上ない満面の笑みの聖女の言葉に、歓声が大きくなる。
前々から『俺とアバズレ女が付き合っている』噂が流れていることは聞いていた。
心底不愉快であるけど。
でも、『結婚する』なんて噂は僕の知っている限り、聞いたことがなかった。
まさか、そんな噂が出ていたとは。
……いや、この女と付き合っていて、ティナが『毒婦』呼ばわりされている時点で薄々分かっていた。
クソッ! やはり、2人を信用しなければ良かった!
聖女が公爵家に養子に入った時、父上から『聖女と仲良して欲しい』というお願いされた。
ティナとの時間を邪魔されたくなかった僕は当然断った。
だが、『聖女が不安を取り除けるのは勇者であるお前しかいない。それに、勇者と聖女が仲良くしていれば、魔王の脅威に怯えている民の心が和らぐ』という意味の分からないことを言う父上に、折れた僕は条件をつけた。
それほ、『聖女と仲良くしている間、父上と公爵はティナをあらゆるものから守って欲しい』というものだった。
愛しいティナが悪意に晒されるのは目に見えていたから。
なにより、ティナに誤解されたくなかったから。
僕の出した条件に2人は深く頷いて了承した。
だから僕は、父上のお願いを了承した。
だが、あの2人は僕の条件を無視してティナを傷つけた!
だから、僕は魔王討伐に出る際、2人に『このままだと、他の貴族達から公爵家と王家が軽んじられますよ』と忠告した上で、ティナを守って欲しいとお願いした。
面子を重んじる公爵と父上なら、僕が魔王討伐に出ている間に、広まってしまったティナの悪評を鎮静化させると思っていた。
だが、結果がこのありさま。
これで万が一、噂を鵜呑みにしたティナが婚約破棄を申し出たら……!
「アハハハッ、さすが勇者様! 人気ですなぁ~!」
「そうですね。それも、聖女との結婚が噂されるほどに」
「…………」
ディルクもルーランも知っているはずだ。
俺の婚約者が『ティナ・エーデルワイス』であることくらい。
後ろにいる2人の言葉に、思わず気を取られてしまった僕は気づかなかった。
「みんな〜! ありがとねぇ〜!」
隣にいるアバズレ女が、聖女の皮を被りながら愉悦に浸った笑みを浮かべていたことを。
そして、この時の僕は、懸念していた『万が一』が現実になっているんなんて思いも寄らなかった。
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