第16話 嗤いが止まらないヒロイン(前編)

 ※聖女アリア視点です。




「それじゃあみんな、おやすみ!」



 魔王を倒した私たちは勇者パーティーは、魔王の城から近い街の人々を祝福を受けた。


 そして、領主の計らいで街一番の高級宿に泊めてもらい、激闘で傷ついた心身を休めることにした。



「あぁ、おやすみ!」

「おやすみなさい」

「おやすみ、アリア。良い夢を」

「っ!」



 あぁ、アルベルト! 魔王との死闘で疲労困憊のはずなのに、変わらず王子様スマイルを向けてくれるなんて!


 めっちゃ好き! 今すぐ結婚したい!



「うん、おやすみ! アルベルト!」



 アルベルトの王子様スマイルに気を良くした私は、部屋に戻るとすぐ、聖女の力で部屋に防音を施す。


 そして、今まで抑えていた感情を爆発させる。



「アハハハハハッ! ついに物語の終盤まで来たわ!!」



 魔王が倒された今、こみ上げてくる喜びが抑えられない私は、ふかふかのベッドにダイブすると今までのことを思い返す。


 私が前世の記憶を思い出したのは、今から10年前。


 当時8歳だった私は、没落貴族出身の母が高級娼婦として働きに出ている間、あばら家で1人、熱に浮かされ寝ていた。


 その時、夢の中で大人に成長していた私の前に、この世のとは思えない甘さと色気と神々しさを纏ったイケメンの神様が現れた。


 うわっ、凄くカッコイイ! 今すぐ抱いて欲しい。


 幼いながらも、母から男を落として気持ちよくする知識を教わっていた私は、目の前に現れた人外の美青年に一目惚れをし、是非とも私の処女を捧げたいと思った。


 すると、神様が甘い声で誘ってきた。



『私と寝ないか?』と。



 神様の言う『寝る』という言葉を瞬時に理解した私は本能的に誘いに応じる。



『良いよ。私、高級娼婦の娘だからあなたを満足させてあげられるかも』

『ほう、それは楽しみだ。もし、私を満足させられたら褒美をやろう』



 はぁぁん、一目惚れした神様に処女を捧げられるなんて……私、この時のために、あの貧しい生活に耐えてきたのかも!


 そうして私は、すぐさま生まれたままの姿になると、母から教わった手練手管を使って、ベッドの上で神様と楽しいひと時を過ごした。


 すると、私との時間に満足してくれた神様が、褒美として前世の記憶を思い出させてくれた。


 神様との楽しい時間を過ごした後、夢から目覚めた私は、この世界が前世で読み倒し、コミカライズもアニメもちゃんと追いかけていたラノベの世界で、私がその物語の主人公のヒロインだったことを思い出す。


 自分がヒロインだと思い出した時は、飛び上がるくらい嬉しかった。


 だって、前世で推しだったアルベルトと結婚出来るのだから!


 けれど、前世で色んなラノベを読み倒していた私は知っていた。


 ヒロインという立場に胡坐を掻き、傍若無人な振る舞いをすればどうなるかを。



「とりあえず、聖女の力がどんなものかちゃんと知らないと」



 小説では浄化と治癒しか描かれていなかったから、具体的にどんな力か分からないのよね。


 寝床から起き上がった私は、家に誰もいないことを確認するとそっと目を閉じる。


 すると、聖女の力についての詳細な情報が、濁流のように私の頭の中に流れ込んできた。


 きっと、神様が私に与えた贈り物ね。



「ええっと、魔物に穢れた大地の浄化と、あらゆる部位の治癒や蘇生が出来るのね。まぁ、ここまでは小説に書いてあったから知っているけど……え、魅了!?」



 『魅了』って、聖女ものでありがちな、他人を思い通りに操る恐ろしい力のこと!?


 あの力が、聖女である私にも使えるの!?


 ラノベで何度も聞いたその力に、私は興奮が抑えられずニヤニヤと笑う。



「えっと、魅了のかけ方は、相手の体のどこかに触れた状態で相手瞳を見つめる。もしくは、相手にキスする。または相手と肉体関係をもつ……」



 まぁ、年齢的にキスや肉体関係はまだ早いから、魅力をかける時は、誰かのどこかに触れて見つめるないといけないわね。



「試しに、娼館から帰ってきたお母さんを魅了してみよ」力なのか見ないと。



 どのくらいの効果があるのか、確認しないといけないから。


 その時、お母さんが娼館から帰ってきた。



「ただいま……って、あら? もう起きたの? てっきり、まだ寝ているかと思ったわ」



 よし、チャンス到来!


 仄暗い感情を無邪気な笑顔で隠した私は、一晩男の相手をして、疲労と色気を纏っているお母さんを出迎える。



「おかえりなさい! なんだか目が覚めちゃって起きちゃった!」



 そう言うと、お母さんの白魚の手を握り、お母さんの蜂蜜色の綺麗な瞳を見つめる。



「お母さん、今日もお仕事お疲れさま!」



 人懐っこい笑顔で見つめた瞬間、お母さんの目からハイライトが消え、しゃがみ込んだお母さんがそっと私を抱き寄せる。



「ただいま、アリア。あなたのためなら、どんな嫌な男でも喜んで抱かれるわ」



 大の面食いの男好きで、娘のことなんて虫けらとしか思っていない女の口から出たとは思えない愛情深い言葉に、寒気と同時に愉悦の感情が込み上げる。


 これ、使える!


 そっと笑みを深めた私は、抱きしめる女の背中に手を回すと誘惑するように耳元で囁く。



「それならお母さんに、やって欲しいことがあるの」



 物語通りのハッピーエンドを迎えるために。

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