第2話:おばちゃんの糸、敵の靴まで縫っちゃう!

おばさんの捕縛魔法、遠くからでもガッチリ!


高橋陽子、53歳。元手芸教室の先生で、異世界「ルナリア」に転移してまだ2日目。ドラゴンを遠距離捕縛でガッチリ縛り上げ、弱小冒険者パーティーのリク(18歳、剣士)、シルファ(200歳、エルフの弓使い)、ミア(15歳、魔法使い)から一気に「陽子さん、神!」と崇拝された。とはいえ、陽子本人はまだ状況を飲み込めていない。

「まぁ、ドラゴンを縛れたのは良かったけど……これ、毎回こんな騒ぎなの? 腰が持たないわよ」

陽子は森の木陰で腰をさすりながら、持参の毛糸玉を手にぼやく。パーティーは近くの町「グリーンリーフ」に向かう途中。魔王軍の斥候がウロウロしてるらしく、町は緊張状態らしい。

リクが剣を磨きながら言った。「陽子さん、さっきのドラゴン、めっちゃヤバかったぜ! でも、お前……いや、陽子さんの魔法、あれ何? 攻撃できないのに、なんであんなチートなの?」

陽子はニッコリ。「チートじゃないわよ、ただの『手芸の応用』。昔、生徒が糸を絡ませてパニックになったとき、こうやってササッと縛って解決したの。遠くからでも、糸の感覚はバッチリよ」

シルファが冷静に割り込んだ。「人間の53歳でその器用さは異常ね。私、200年生きてるけど、編み物は苦手よ。陽子、あなたの『手芸の達人』スキル、魔法糸と相性良すぎるわ」

ミアが目をキラキラさせて飛びついた。「陽子さん、教えて! 私も糸で縛れるようになりたい!」

「はいはい、若い子はすぐそう言うのよね。いいわ、時間があったら編み物の基礎から教えるわよ。まず、かぎ針の持ち方から――」

その時、森の奥からドドドッと地響き。木々が揺れ、鳥が一斉に飛び立つ。リクが剣を構えた。「ちっ、魔王軍の追っ手か! 陽子さん、隠れてろ!」

陽子は眉をひそめた。「隠れる? 冗談でしょ。私、戦えないけど、縛るなら任せなさい!」

現れたのは、魔王軍のゴブリン部隊。20匹くらい、棍棒や短剣を手にニヤニヤしながら迫ってくる。リーダーのデカいゴブリンが叫んだ。「人間ども、ドラゴンをやったのはお前らか! 魔王様の命令だ、皆殺しだ!」

リクが突っ込み、シルファが弓を構える。ミアは小さな火球を放つが、ゴブリンの数は多い。陽子は後ろで冷静に状況を見つつ、心の中でつぶやく。

「さて、20匹か。面倒ね。昔、教室で子供たちが糸をバラ撒いたときみたいに、まとめて片付けちゃおうかしら」

陽子はポケットから赤い毛糸玉を取り出し、目を細めた。遠くのゴブリンたちをじーっと見つめる。老眼でちょっとぼやけるけど、魔法の感覚はバッチリ。

「捕縛魔法、発動! 『靴縫いスペシャル』!」

陽子の手から、キラキラ光る魔法の糸がシュルシュルと飛び出した。ゴブリンたちの足元にスルスル絡みつき、なんと全員の靴(というかボロ布)を地面に縫い付ける! ゴブリンたちは「うおっ、動けねえ!」「足が! 地面にくっついた!」と大パニック。

リクが目を丸くした。「は!? 陽子さん、何!? 靴を縫った!?」

陽子はコーヒーを飲むような余裕で答えた。「若い子は気づかないのよね。敵の弱点は足元よ。靴を地面に固定したら、動けないでしょ? ほら、後はお願い」

シルファが素早く矢を放ち、ミアが火球を連射。動けないゴブリンたちは次々倒されていく。リーダーのゴブリンが叫んだ。「くそっ、なんだこのババア! 遠くからこんな魔法……!」

陽子はニヤリ。「ババアじゃないわよ、おばさんで結構。次は口も縫っちゃおうかしら?」

最後の一匹が逃げようとした瞬間、陽子はさらに魔法を発動。ゴブリンのズボンを木に縫い付け、宙吊りに! 「グギャー!」と叫ぶゴブリンをよそに、陽子は腰をトントン叩く。

「ふぅ、20匹はちょっと疲れたわ。ミアちゃん、肩揉んでくれる?」

ミアが大興奮で飛びついた。「陽子さん、かっこいい! 靴縫うなんて、めっちゃ頭いい!」

リクは渋々認めた。「……マジでチートだな、陽子さん。攻撃できないのに、なんでこんな強いんだよ」

シルファが冷静に分析。「陽子の魔法は、戦場をコントロールするタイプね。敵を倒すんじゃなく、動けなくして味方にチャンスを作る。まるで伝説の賢者フランメが戦術を教えるような……」

陽子は笑った。「賢者だなんて大袈裟よ。私はただ、教室で糸のトラブルを片付けてただけ。ほら、グリーンリーフに急ぐんでしょ? 行くわよ、若い子たち!」

グリーンリーフの町に着いたパーティー。町の入り口では、衛兵が慌てて出迎えた。「お前ら、ドラゴンを倒した冒険者か!? 魔王軍の斥候が町に近づいてる。助けてくれ!」

リクが胸を叩く。「よっしゃ、俺たちが――」

陽子が割り込んだ。「はいはい、落ち着きなさい。敵はどこ? 遠くから縛っちゃうわよ」

衛兵が指差した先、遠くの丘に黒い影。魔王軍の騎兵団、50頭の狼に騎乗した兵士たちが迫ってくる。陽子は目を細め、毛糸玉を手に持つ。

「ふむ、狼か。毛玉だらけの毛皮は編み物に良さそうね。よし、まとめて縛っちゃおう!」

陽子は丘の向こう、2km先にいる騎兵団をロックオン。魔法の糸を放ち、狼たちの足を絡めて転倒させる。さらに、騎兵の鎧を糸で縫い合わせ、動きを封じる。遠くから「うわっ、鎧が!」「狼が動かねえ!」と悲鳴が聞こえる。

リクが叫んだ。「陽子さん、2キロ先って! どうやって見えたんだよ!」

「老眼でも、糸の感覚はバッチリよ。ほら、後は若い子でトドメ刺してきなさい」

パーティーが騎兵団を一掃し、町は救われた。衛兵たちが陽子に頭を下げる。「あなた、伝説の聖女か何かですか!?」

陽子は苦笑い。「聖女だなんて、ただのおばよ。まぁ、縛るだけなら任せなさい」

その夜、グリーンリーフの酒場でパーティーは祝杯を上げる。ミアが陽子に絡む。「陽子さん、次は何縛る? 魔王とか!?」

「魔王? ふふ、そいつが毛糸好きなら、巨大な毛糸玉にしちゃうわよ」

リクがビールを噴き出し、シルファがクスクス笑う。陽子は思う。――この世界、案外悪くないかも。孫のマフラー、編み終わるまでは頑張ってみようかしら。

でも、酒場の隅で怪しい影が動く。黒いローブの男が、陽子の活躍をじっと見ていた。「遠距離捕縛の女……魔王様に報告せねば」

陽子の「おばちゃん無双」、まだまだ始まったばかり!

――つづく。

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