第7章 寮部屋の中は、ドキドキハラハラでいっぱいです
第27話 なんだか、体調が悪いみたいです。
中間テストの結果が出てからというもの。
夜は基本的に、俺と瑠偉の個人勉強会の時間だ。
「脩……! 見て……!」
「うん。良くなってるじゃんか」
この日、俺がいずこからか入手してきた期末テストの過去問を瑠偉に解かせたところ、前よりも格段に点数が上がっていた。
そのことに喜んだ瑠偉に、俺が『良くなってるな』と誉めたのである。
「でも……、やっぱり現代文ムズいよお……。なんか
「そう言いながら、ちゃんと”迂遠”って言葉も理解できるようになってるのが偉いじゃないか」
そう言って俺が瑠偉を褒めると「えへっ」と言って、にこっと上機嫌になる。
可愛いねー。
ああ可愛い。
とはいえなあ……。
1年生の間で来年のクラス分けに考慮されるテストはあと4回。
1学期の期末、2学期の中間と期末、3学期の期末。
この計4回。
そして、仮にこのまま俺が成績を落とさずに結果を出し続けるとしたら、瑠偉が俺と同じクラスになるには最終的に全部のテスト結果を平均して35位以内に入らなければならない。
しかし、瑠偉は既に最初のテストで114位という結果を出している。
これが何を指すのかと言うと――。
単純計算で考えると、この後4回のテストは、毎回15位以内に入らないとキツイと言うことだ。
難しい計算は省いて結論から言うとそうなる。
15位かあ……。
今日やった過去問の自己採点を見るに、現状で50位内ってところか……。
どうしても
現実的に考えて、結構厳しいと思うんだよね……、正直。
瑠偉の頭がどうこうというより、ここから他の生徒たちも性根を入れて勉強してくるやつが増えるからだ。
1年生の最初の中間テストが自分のポジション確認だとしたら、みんなそこから順位を上げるために必死になり出す。
それに、瑠偉がどこまで食らいついていけるか、って話なんだよなあ……。
俺としては、こんなに努力しているのだから、なんとかしてあげたい気持ちが強いけれど。
「……ゅう、脩?」
「…………お?」
「なんか、顔赤くない?」
「え…………」
そう言われて自分で額に触れてみると、確かになんだか熱い気がする。
「保健室……!」
「……は、もうやってないだろ……」
実際に熱があるかもと思ったらなんだか朦朧としてきた。
それでも、保健室と言い出す瑠偉に冷静なツッコミを入れるだけの余裕はまだある。
まだ――あったのだ。
この時には。
◇ ◆ ◇
「38度4分……」
あの後、寮監に診てもらって熱を測ったら38度ありました。
ちなみに、『この調子だと多分まだ上がると思うから今日はゆっくり休んで明日病院行こう』と言われた……。
とほほ……。
「脩、おでこ」
「ん……」
瑠偉に言われるままに額を向けると、ぴとっと冷たいものが額に貼られた。
「脩、きもちいい?」
「ん…………」
瑠偉の『きもちいい?』という言葉にさえ、妄想が湧かない……。
なるほど。これが体調不良というやつか。
「おまえ……、感染ったらよくないから……早く自分の部屋に戻れ」
「やだ。もう少し脩のそばにいる」
「あのなあ……」
ちなみに俺は、今日は一晩救護用の部屋で寝かせてもらうことになった。
突然の風邪の時、同室者に感染さないよう用意された部屋があるのだ。
ただでさえ、自分が風邪を引いたことで瑠偉の勉強を見れない時間ができてしまうことが惜しいと思っているのに、お前まで俺から感染って風邪引いたらダメだろ……?
「頼むよ……。俺、お前に……感染したくないし……。明日朝、また様子見に来てくれよ」
それまでになんとか頑張って復活するからさ……。
そう言うと瑠偉は、まだ何か言いたそうな顔をしていたが、ぐっと堪えて、
「……わかった」
と言ってくれた。
……よかった。
こいつを一人にするのも心配だけど、それよりも風邪を感染してしまうほうが今は嫌だ。
そう思い、素直に瑠偉が『わかった』と言ってくれたことにほっとしたおれだったのだが。
「……脩」
そう言うと瑠偉は、ベッドに横たわった俺の額に、ちゅっとキスを落とした。
正確には――冷え●タの上にだけれど。
「明日、またちゃんと様子見に来るから。だから、早く良くなってね。……部屋で一人は寂しいから」
「……ん」
そう言うと瑠偉は、ぱたんと静かに部屋のドアを閉めて戻っていった。
……………………。
はあ………………。
あいつ、なんであんな可愛いんだろ?
天使か?
そう思いながら、見慣れない天井を見上げる。
(……俺だって。久しぶりに一人で寝るのは妙な感じだよ)
この2ヶ月で瑠偉がいるのがすっかり当たり前になってしまった。
いることよりもいないことの方が違和感を抱くほどに。
『いいよ、脩。寂しいなら一緒に寝てあげるよ』
熱にうなされる妄想の中で、瑠偉がそっと俺の布団の中に潜り込んでくる。
『大丈夫。脩の想像の中の私なら風邪も感染らないし、そばにいても平気だよ』
そう言って、俺の想像の中で生み出された瑠偉は、ベッドに横たわる俺にぴったりと寄り添ってくる。
ああ――。
これはあくまでも、本当に俺の妄想の中の瑠偉なので、現実に横に寄り添っているわけではないとちゃんと理解している。
それでも――。
妄想でも、想像するだけで幸せで胸が締め付けられるような気持ちになる。
(……可愛いし。めちゃくちゃ愛しいし。なんだこれ……)
何も言わずに、猫のようにただ黙って寄り添ってくれるだけの妄想の存在を、馬鹿みたいだけど愛しく思う。
(俺……、ほんとに頭、沸いてんな……)
それでも――、実際にそばにはいなくても。
瑠偉という存在がいてくれるだけという事実だけでそう思える。
それが、俺にとっては一番大事なことだった。
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