第2話 ドライブはワクワクする

 電車のこの微妙な振動って、どうしてこんなに眠気を誘うんだろう。ぼやけた車内をぼんやり見る。あれ電車じゃない、車だ。芳香剤の匂い。抱きしめているリュックの匂い。それと夏の匂い、旅の匂い。青空と緑の匂い。

 猫のキャラクターのキーホルダーのついたピンクのリュック。懐かしい、小学生の時使ってたやつだ。窓の外には、夏の青々とした空と山々と、入道雲がどんと浮かんでいる。

 あれ何してたんだっけと思って、車内を見回す。運転席にはお父さん、バックミラーには交通安全のお守りが揺れている。後部座席には私とリュックと、それから大きなボストンバッグがひとつ。たしか私は、お使いに出てたんだった。でも車じゃなくて歩いてドラッグストアまで行って、帰りの線路沿いの道にいたんだ、こんな田舎道じゃなく。まさか。

 ボストンバッグをごそごそ探る。蛍光のピンクだったりやたらリボンがついてたり、今じゃぜったい着ないような服がたくさん詰め込まれていたけど、それでも確証がほしかった。これまた懐かしい、花の写真の表紙の学習帳。マイネームで書かれた幼い字。

「3年2組 戸川まいか」

 やっぱりそのまさかだった。夏休みの宿題は7月中に終わらせる派だったけど、絵日記だけはおじいちゃんちに行ったことを書きたくて持ってきてたんだった。ずっと忘れていたのに急に思い出して、やっぱり実際に戻ってみると色々思い出すなあと変に感心して、そしてやっと実感が湧いてきた。

 戻ってしまったんだ。5年前の夏休み、すずこちゃんに会った日に。

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