第22話 危険物:傘

 某商業ビルの剥き出しの鉄骨に五月雨レイナは座って周りを眺めていた。

 彼女は骨組みが金色、その他は黒色の傘を膝元に携えていた。


 五月雨「いつ見ても東京都心の景色には圧倒されるなぁ~」


 そうして辺りを見渡していると、怪しい車を目撃する。

 ドアを開け、中から出てくる人物に嫌悪を感じる。日本他殺撲滅委員会だ。


 五月雨「ちっ、撤退か」


 レイナは飛び降りる。ビルを背にビル郡から放たれる光が無差別に照らす。

 後二、三階ほどの時に傘をビルに突き刺す。そのときに小さい爆発と共にコンクリートに穴ができ、落下が止まる。


 そしてレイナはその十何人から構成される集団の進行方向の前に立つ。

 雨のように冷たい印象をその人たちに植え付ける。それは恐怖の感情だった。


 構成員「おい、あれは......」


 構成員「ああ......五月雨レイナだ」


 五月雨「ルータにはダメって言われてるけど定期的に恨み晴らさないとやってけないんだよね~」


 そう言って傘の先を相手の方へ向ける。すると膨大なエネルギーが産み出される。次の瞬間。


 シューッバ――――――――ン!!!!!!


 その音と共に、レーザーのようなものが放たれ爆発を起こす。あまりの威力におそらく半分以上が死んだだろう。

 地面は抉れ、近くの樹木の葉っぱや細い枝は無くなり、炎が辺りを覆う。

 その中、二人の構成員がこちらに近づいてくる。


 下井「突然の奇襲に驚きましたがこの攻撃でなんとなく察しますね。上井さん」


 上井「まさか、GATHERがいたとはね。五月雨くん、貴女のお父さんは元気ですか?」


 五月雨「そうねぇ~天国に行って確認してみたら!!」


 シュッバ――――ン!!


 短距離型で広範囲の爆発を起こす。二人はその業火に包まれ焼き殺されるかと思っていた。

 相手も盾のようなものでその被害を分散させた。デザインがあの傘と似ている。


 上井「私達政府がそんな攻撃易々と食らうとでも思っていたのですか?」


 五月雨「ちっ」


 レイナは逃亡する。それに下井が攻撃を食らわそうとするが上井が制止する。


 下井「上井さん、なぜ追わないのですか!!」


 上井「いずれ殺す。今はその時じゃない」


 下井「あーそうでしたね。困りますものね」


 残された構成員と共に上井と下井は商業ビルへと足を進めたのだった。


 □ □ □


 ユキはメリアの亡骸を眺めていた。まるで手放せないとでも言いたげで苦しい表情。


 白亜「ここに置いていくのは可哀想だ」


 ウッドストン「でも俺らにはなにもできない」


 五月雨「お二人さーん、撤退、撤退」


 ウッドストン「五月雨......」


 重い空気であり続けることは不可能だ。二人は、特に白亜は心を殺さなければならない。

 自分達はすぐここから離れなければならない。だが、その前にあの二人とも合流しなければならない。


 五月雨「そういえばリッちゃんと颯田ちゃんは?」


 ウッドストン「分からない。でもおそらく特別待遇者エリアにいるはずだ」


 五月雨「わかった。二人とも探すよ!!」



 □ □ □


 ケントは初めて会ったレイナの雨音のような安心感に包み込まれる。そして心の片隅に残り続ける1片の不安を露呈する。


 颯田「五月雨さん、リツはどこにいますか?」


 五月雨「まだ分からないけど恐らく今頃ルータに連れて去られてるよ。ほら来た」


 服についた血を拭っているとリツがなぜかドレスではなくいつものパーカーを着ている。ルータさんにフードを掴まれ引きずられるように運ばれてくる。


 ウッドストン「何でその服になってんだよ」


 鷺島「だって動きにくかったし......」


 それでも生きていたことへの安心感が強い。だが感傷に浸っている場合ではないようだ。


 五月雨「奴らが来たの。逃げるよ」


 ウッドストン「でも五月雨、どうやって逃げるんだよ?」


 正面突破は不可能だろう。レイナはこの質問に大胆不敵な笑みを浮かべる。そうして壁に向かって傘を突き立て爆発を起こす。壁に穴が空き外界が剥き出しになる。


 五月雨「ここからよ」


 ウッドストン「はぁ?」


 高層ビルの上層部分にいる現在の状態から飛び降りるとでも言っているのかと困惑をルータは隠せていなかった。


 五月雨「この傘のエネルギーを最大にして爆発を起こせば遠くに行けるでしょ」


 ウッドストン「お前、マジで―


 鷺島「それめっちゃいい!!レイナ天才!!」


 五月雨「でしょ!!」


 ルータの言葉を遮るようにリツが賛成する。でもそれは本当に現実的なのだろうかと疑問が生じる。


 颯田「本当にできるんですか?」


 ウッドストン「......信じたくないができるんだ。あの傘は政府が作成した武器だから」


 五月雨「そういうこと。時間ないし茶々っとしちゃおっか」


 そう言ってレイナは傘を開く。高さを調節し、レイナはハンドルを、他は中棒を持つ。一人白亜は沈黙を貫いたままだった。


 ウッドストン「白亜、気持ちはわかる。けどな」


 白亜「分かってる。いずれこうなることぐらい」


 五月雨「何があったか分からないけど最善は尽くしたの?」


 その言葉にユキは頷く。自分のできることはした。そう思いたいのだろう。


 五月雨「じゃあ大丈夫よ。それじゃあみんな衝撃に気をつけてね」


 レイナは手元のスイッチを押す。その瞬間、膨大なエネルギーを溜め込む。あまりの量に建物全体が揺れる。その振動を察知したのか――――


 上井「そう来ましたか」


 下井「衝撃に備えろ!!」


 バァ――――――――ン!!!!!!


 衝撃と共に強い推進力が発生する。地面と水平に音速に近い速さでGATHERのみんなは吹き飛ばされる。一方、ビルの方はガラスが割れ、爆炎が建物全体を侵食し、上層部分はへし折れて落下した。それにより、交通機関、民間人にダメージを与えた。


 ウッドストン「速すぎないか―――!!」


 五月雨「風が心地よくない?」


 鷺島「そうだね!」


 颯田と白亜「――――」


 風の音が強く鳴るなか、東京を突き放していく。それどころか関東を離れていくような勢いであった。


 ウッドストン「五月雨、これどこまで行くつもりだ?」


 五月雨「え?もしかしたら東北まで......」


 鷺島「遠!?」


 ウッドストン「マジかよ......」


 遠すぎる地域まで飛んでいってしまうことが予測される状態にルータは頭を抱えるが、レイナは楽しそうにしていた。


 五月雨「ちょっとした旅行ってことよ」


 ウッドストン「それ言い訳だろ......」


 五月雨「ふふ、でも楽しみでしょ?」


 ウッドストン「どうだろうな」


 そんな何気ない会話をしていると、仙台のランドマーク『スカイキャンドル』が見える。ライトが鮮やかに煌めく姿は夜の街並みをより一層安全な場所だと錯覚させる。


 五月雨「そろそろ着陸するから体勢変えてね」


 そう言ってレイナは生地がある方を下にするために皆に促す。地面と五メートルほどの時に傘は小さい爆発で重力に抗い、骨が折れない程度に減速する。

 レイナとリツは足音立てずに着地する。


 鷺島「あ~楽しかった」


 五月雨「久しぶりに突風に当たって気持ちよかった~ってあれ?」


 体を伸ばしてあたりを見ると山積みになった三人が廃れた顔でだらっとしている。着地に失敗したのだろうか。


 颯田「いてて、折れているところが痛む」


 白亜「はぁ~」


 ウッドストン「いつになってもなれないなこれ」


 草木の生い茂る中心地から少し離れた山の中、潮風の匂いがする。それを嗅ぐと一方の二人は駆け出し、もう一方の三人は少し体幹の崩れた歩きで二人を追う。

 森を駆け抜けた先に木の根がむき出しになった崖、その奥に大きな海が広がっていた。水が星座を映し出している。


 五月雨「日本の最北端にこんなきれいな景色があったなんて......素敵」


 颯田「......懐かしい」


 来た記憶もないのにも関わらずケントはそんなことを思う。潜在的で実際に見た時とは大きく違う見え方がする。そこだけがまるまるぽっかりと穴が開いているかのようだ。


 ウッドストン「野宿は嫌だろ?早く寝るとこ見つけるぞ」


 五月雨「そうね、今日は疲れたし、愚痴らせてもらうからね」


 ウッドストン「情緒不安定になって泣くのだけは勘弁してくれよ」


 二人でーーお酒でも楽しむのかなとケントは思う。

 二人のシルエットを辿りGATHERのメンバーは仙台での一時的な休暇を楽しむことにした。



 □ □ □


 交通規制のラベルが貼られている道路の真ん中で二人の男は話していた。


 上井「GATHERの奴らはどこに行ったのかな」


 下井「あのエネルギー量、方角から考えると仙台かと」


 上井「仙台ね......世界が変わった爆心地か」


 上井はそんなことを口ずさむ。そしてある小説を頭の中で思い出し、下井に対して作戦を言い渡す。


 上井「下井」


 下井「なんですか、上井さん」


 上井「明日、新幹線で仙台に行くぞ」


 下井「了解しました。目的は?」


 目的を問われ思わずにやける。その顔を不気味そのものだった。あの時のリベンジマッチだと考えている。


 上井「鷺島レンの娘『鷺島リツ』の殺戮だ」


 

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