夏祭編
第12話 夏祭り
夜、普段より賑やかな駅前で人々が乱舞していた。普段の大通りは車両の通行が閉鎖され、太鼓の大きな音や焼きそばを作る音、かき氷にはしゃぐ小さな子供の声などポジティブな雰囲気が覆っていた。
鷺島「ルータ!!見て!!」
ウッドストン「楽しそうだな」
苺のシロップがかかった氷雪みたいなかき氷を買ってはしゃぐリツとそれを見て微笑むルータさん、そして
白亜「お前らくだらねえな、かき氷は苺よりブルーハワイだろ?」
この和やかな雰囲気の中に僕、颯田ケントそしてルータさん、ルータ・ウッドストンは緻密な作戦を始めていた。
□ 時間を遡りGATHER本部会議室にて □
ウッドストン「颯田、わざわざ呼び出したのには
ルータさんの真剣なまなざしに唾をのむ。これにはただならぬ理由があるに違いない。
颯田「ルータさん、なにが......」
ウッドストン「もうすぐリツと一緒に行く夏祭りあるだろ」
颯田「はい」
ウッドストン「もしかしたら刺客がいるかもしれない」
せっかくの夏祭りが台無しではないか......
と嘆いてはいけない。普通の任務だったらリツも呼ぶだろう。だからこれは何か特殊な任務に違いない。
颯田「ルータさん、僕はリツにバレないように刺客を倒せばいいんですか?」
ウッドストン「話が早いな、大体そうだ。君たちが楽しんでいる間に俺と白亜が蹴散らしておく」
僕は自分のすべきことを理解した。白亜がいることに疑問を感じるが......あれ?ルータさんって想い人がいたような......
颯田「そういえば五月雨さんって......」
ウッドストン「あーアイツは怪我が深刻でまだ外には出れない感じだな。ってなんで知ってんの!?」
話した覚えがないためルータはケントがその人物を知っていることに慌てる様子を見せる。
颯田「リツから聞きました」
ウッドストン「あー......」
情報源が案の定という感じだったのか軽くため息の混じった声で納得する。
ウッドストン「スゥ......とりあえず誰にも言うなよ」
それから僕は任務の概要を説明された。
ウッドストン「刺客がいると考えられるのはこの射的と、このたこ焼き、辺りだな。毒を持ち込んでいるやつはいないらしい」
颯田「情報源はどこですか?」
ルータさんは僕の質問に言い淀んでしまう。何か諸事情があるのだろうか。
ウッドストン「白亜のリークなんだけど......」
颯田「間違っていたら殺しましょう」
ウッドストン「ああ、そうだな」
□ □ □
季節は六月となり梅雨が始まりそうだが例年通りこの祭りは開催され、はしゃいでいるリツと白亜を眺めていると横にいるルータさんが目で合図する。どうやら作戦を始めるようだ。
ウッドストン「鷺島はいいが......お前は大人なんだからそんなはしゃぐな」
白亜「ちょ、おい!!掴むな!!放せ!!」
二人はどこかへ行ってしまった。残されたのは僕とリツだけであった。この状況は端から見たら青春そのものなのだろう。だがどこか歪な部分が見え透いてしまう。
鷺島「颯田くん、これなに?」
颯田「これはりんご飴だね」
リツはりんご飴を目新しいものと感じるようだ。真っ赤な果実に飴がコーティングされ斜陽に照らされている。まじまじと見るその姿に思わず財布を手に取り、それを買う。
颯田「はい、どうぞ」
鷺島「え!?ありがとう......でもお金」
颯田「いいよ、自分の勝手だし」
リツはケントの行動にどこか申し訳なさそうな表情をする。リツはその表情のまま口に運ぶ。
鷺島「かった!?どうやって食べるの、これ?」
カットされていないタイプのりんご飴だったのでリツは全く歯が立たなかった。
颯田「かじりつくしかないけどな......」
鷺島「ググググ......ガリッ、やっと食べれた!」
その味を知ってからなのかとても満足げな表情でそれを頬張っている。
ルータさんによるとあのたこ焼きは刺客が営業している可能性があるらしい。今いるりんご飴の屋台からほんの少し先で、人混みで見え隠れしている。
どうにかして迂回したいな......
鷺島「颯田くん!これ何?」
とりあえず、ルータさんに言われた通りに楽しむか
リツ全体が見える視界の中、ケントは指の指された方を見る。そこは水ヨーヨーがたくさん売られていた。
颯田「あれは水ヨーヨーだよ、買おっか?」
鷺島「......ありがとう」
二つ買うことにした。1つは青色、1つは黄色にした。その色にした理由は青は適当だが、黄色はなんとなくリツっぽいと思ったからだ。
鷺島「ありがとう、じゃあこっちもらうね」
リツが取ったのは青色の水ヨーヨーだった。ケントは黄色の水ヨーヨーをとるものかと思っていたのでどこか不思議な気持ちになる。
鷺島「どこか颯田くんみたいな色でいいね、これ」
そう言って水ヨーヨーで楽しむ姿は欠けた小学生のころを埋めるようにも、ケントを甘い空気に巻き込むようにも見える。
それを見てケントは黄色い水ヨーヨーに指をかけて少し上にあげる。そして掌を叩きつける。
至って普通に夏祭りを楽しんでいるだけのはずだった。
ボン!
鷺島「え!?何も見えない!?」
黄色い水ヨーヨーが破裂して周囲を煙幕で覆う。知らず知らずのうちに刺客に遭遇してしまったようだ。
見えない、そう相手が見えない、そしてこの状況でリツに自然に夏祭りを楽しんでもらうために試行錯誤しなければならない。
水ヨーヨーの男「......シュッ!」
一瞬、背後から相手の攻撃を感じて、距離を取りながら後ろを見る。ナイフなどの刃物ならそう簡単に届くはずがない。
は!?水ヨーヨー?いや違う、棘が!!!
ダァン!!
ケントの視界には水ヨーヨーが破裂して中から鉄球が接近してくるのが映る。いわゆるモーニングスターと呼ばれるものだろう。
鷺島「颯田くん!!!!」
鈍い音が響き渡りどこにいるかも分からないケントをリツは叫び、呼ぶ。
煙幕が過ぎ去り、辺りが鮮明に見えるとき一人無傷の男が立っていた。辺りの地面は抉れ、周りの人々は困惑した表情でソイツを見ていた。
颯田「ん?どうしたの、リツ」
ケントは清々しく何もなかったとでも言いたげな表情で立っていた。
鷺島「え?さっきのって......」
颯田「あー、あれは......そういうやつで......たまに煙幕が出てくる外れがあるんだよ」
ラグが生じているかのように思い付いた言葉を口走っていた。これじゃバレるよな......
鷺島「えー!?そうなの、面白いね」
これでいけるのかよ、と思いつつなんだかやっぱり毎度過去が際立って悲しい気持ちに半分なってしまう。どうにかバレずにやり遂げられたから一旦はいいけど。
鷺島「でも、痛そうな音してたけど」
颯田「それは......ちょっとよろめいただけだよ」
鷺島「大丈夫?どこに当たったの?」
颯田「心配しなくてもいいよ、それよりも楽しもう」
心配されてさらに罪悪感に苛まれてしまったので強引にでもケントはリツの手を掴み駆ける。浴衣を着た二人の男女を連想させる。実際は浴衣なんて着ていないが。
鷺島「......うん、わかった」
心配の気持ちを抱えたまま、ケントの手を握りかえす。その感触は互いに震え合うが互いの震えなど感じられるはずがなかった。明るく振る舞うしかなかった。
鷺島「あれ、食べたいな」
指を指した先はたこ焼きを頬張っていた幼い子供とその親だった。たこ焼きは刺客がいるかもしれないんだよな......
颯田「たこ焼き、それは......」
鷺島「別に買ってもらわなくてもいいよ、私が買うからシェアしよ!」
そう言って繋ぎ止めていた手を放して暗礁へと突き進んでいく。
それにケントは焦り、汗を滴しながらリツを追う。命が尽きるわけでもなくただ輝かしい特別な空気が壊れてしまうようだった。
鷺島「たこ焼きください......え!?なんで?」
リツの目に写ったのは紛れもなくルータであった。ケントの目にも写る、互いになぜここにいるのかと疑問が生じる。
ウッドストン「おぉ......ついに来たか」
鷺島「急にどっか行っちゃったと思ったけどけどそういうことだったのね」
ウッドストン「まぁ......そういうー......ことだな」
ああ、そういうことか
ケントは察した、先ほどまでここに刺客がいたことを。恐らく倒してどっかに捕獲しているのだろうが後処理をしていたらこのようになってしまったんだな。
白亜「ほらよ、サービスであげるからどっか行け」
鷺島「ありが......え............」
渡されたたこ焼き?を見て唖然としている。それを不思議に思い、リツの目線に合わせる。
颯田「これは......たこ焼き?」
白亜「どう見てもたこ焼きだろう、初めて作ったにしては上出来だろう」
ぐちゃぐちゃである。食べたかったたこ焼きと違ったからかリツは少しショックを受け、俯きながらどこかへ行こうとしている。
ウッドストン「お前は裏で作業しとけ、鷺島すまんな、これ持ってけ」
ルータさんが作ったたこ焼きは形が整っていた。それを見てウキウキとした表情で熱そうなそれを喰らう。
鷺島「おいしー、ありがとね」
ウッドストン「楽しんでこい!!」
そうリツに言って、僕に対しては軽く背中をたたく。任せたという意味と任せろという意味が含まれていた。
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