GATHER――他殺が消えた
N 有機
第一部 第零章『プロローグ』
第1話 銃
この世から他殺が消えた。当然、一瞬にして無くなったのではなく徐々に消えていった。
まず、国同士で条約が結ばれたことにより、アメリカと中国以外の国は核を捨てた。その後、アメリカと中国はこれにより戦争を行った。この二か国は後に国として運営することが出来なくなり消えてしまった。
この世から核が消えた。
銃や戦車、爆弾等の戦争で使われる兵器は第三次世界大戦での苦い記憶である世界人口の半減や自然破壊による食料問題等により全て消された。
この世から兵器が消えた。
家庭内や日常での刺殺の原因となる包丁、ナイフ、カッター、鋸、鋏、チェンソーなどの刃物は全て禁止され、代わりに人体を傷つけない新技術を利用した代役が台頭し、それが使われるようになった。
この世から刃物が消えた。
医療技術の発達により人体を改造することが出来るようになった。これにより屋上から突き落とされようと、車に轢かれようと死ぬことはなくなった。
それだけではない、癌などの病は完治するようになった。生物兵器が使われようとすぐに対策をとることなど容易なものとなった。
これらにより完全に他殺というものは無くなり、おまけに全人類は老衰と災害以外で死ぬことは無くなった。
人を殺そうなんて滅相も思わない。それが現代社会だ。
僕はこの世界から他殺が消えた瞬間に立ち会えていない。この話は百年以上前のことだし、勿論生まれているわけがない。実際他殺について調べても情報統制が謀られて何がなんだか分からない。他にも殺す、射殺、刺殺等々調べても全て統制される。もうこの世には他殺という言葉の意味を知るものはいないのだろう、
僕以外は。
僕は百年以上も前に出来た辞書を持っていた。これは死んだ父と母からのプレゼントなのだろう。恐らく、いや確実に両親は他殺を知って殺された、あの「日本他殺撲滅委員会」に。姿を現すことは一切ないが、その存在とこの辞書があること自体が大きな証拠となるだろう。
この辞書は他殺が消えるよりも前に出来たもので、現在は統制されている言葉も多数記述されていた。
例えば、殺す、射殺、刺殺、焼殺、撲殺、抹殺……がある。
人間はこれまで、様々な方法で手を汚してきたのだと考えさせられる。
時間は午後9時をまわった。することもないしと思い外に出る。玄関のドアを開けた先には段ボールが置いてあった。学校の参考書が入る程度の大きさの段ボールだった。それを玄関に入れ、再び僕は家を出る。
僕は颯田ケント。高校生で、肝心の家族はいない、施設の意向で一人暮らしをしている。言ってしまえば頼れる人がいない。そんなことは何年も前からのことだったから何の気も感じなくなってしまった。
川沿いをただ歩いていると、微風や微かに車の通る音や自転車をこぐ音がする。何も考えないで済む、そう思えた。
大きな突風と共に視界の端のほうにブロンズヘアーが写る。ふとそちらのほうを向くと月夜に照らされた、どこか暗い影を持つような容姿の同年代の女性がベンチで居座っていた。
颯田「...............!...?」
目が合ってしまった。だが知り合いでもない、話しかける理由もない、だから僕は小走りでその場を切り抜けてしまった。
明日、あんなことが起こるとは知らずに。
『バン!』
次の日、午前7時、身支度を済ませて学校に行く。吉祥寺駅から電車に乗り少し経ったらそこから降りて学校に向かう。
???「お!ケント、なんか眠そうだな、好きな人でもできたんか?」
颯田「そんなわけないだろ、ただ夜散歩してたら......」
赤沢トオル、僕の友達だ。高校からの仲でまだ高校生活始まって一か月しかたっていないのにグイグイとくるやつだ。
赤沢「ほうほう......つまり、道端であった女の子と目があって一目惚れしたと」
颯田「ちが......」
???「さっちが恋!? マジなのトオルン」
急に話を遮ってまで話してきたのは金崎シオン。高校からの仲でまだ高校生活始まっ…以下同文。
こいつらは恋についての話にこれでもかと食いついてくるモンスターだ。あと普通にいいやつら。
金崎「まあまあ、トオルン、今は経過観察だよ、さっちを見守っとこ」
赤沢「そうだな、ケント、俺はいつでも相談に乗るからな」
颯田「もう一度言うけどそういうわけじゃないからな」
こう言ったものの、実際、あの女の子のことを考えていたということは事実だ。でも恋愛的なものではない。目が合ったときに思ったあのどこか自分に似た違和感は何なのだろうか。
赤沢「そういえば、明日ゴールデンウィークだってよ、休みだ、休み!」
颯田「でも終わったら二週間くらいでテストだぞ」
金崎「もぉー そんなこと言わない、せっかくの休みなんだから」
ホームルームの鐘が鳴る。クラスの生徒がみんな慌てて座りだす。
そうして諸々の連絡を伝えられ、ホームルームは終わる。
その後の授業も難なく乗り越え、僕は帰りの支度をして速攻家に帰る。
赤沢「ケン…もう帰っちゃったか」
少し寂しそうに言う。そこにシオンが加わる。
金崎「そうだね…でも何だか楽しそうだったよ」
赤沢「経過観察…だな」
その頃、ケントは吉祥寺についていた。早い。特急快速がちょうど来ていたようでそれが要因?
だがしかしラッキーとは思えなくなっていた。現に今、彼は路地裏で包囲&拘束されていたからだ!!!!!!
□ さかのぼること昨日の午後10時 □
颯田「ふわぁ…早いけど寝るか、それよりも段ボール」
ケントは宛先も書かれていない段ボールを手に取る。
これ…怪しいやつじゃないよな。何か変に重いし…
確かにそれは物理的ではなく、精神的に重いものだった。ケントは段ボールのテープを剝がし、丁寧に開けていく。その中には黒いL字型の物体と小さい球体がいくつか入っていた。
これは…なんだ?
それでもケントはこの世にあってはいけないものだと感じた。
ケントは恐る恐るそれを持った。その時「カチッ」と音がした。何処が原因で音が鳴ったのかは分かった。そして穴が円形に八つ並んでいる場所に気づいた。その穴は先ほどの小さい球体が入りそうだった。入れてみる。手はなぜか震える。家庭科の針に糸を通すときみたいだ。
その何かを入れてみてもなにも起こらなかった。ただこれだけをするものだとしたらあまりにも無駄が多すぎる。「カチッ」と音が鳴るところを押してみよう。
『バン!!!!!!!!!』
押した瞬間、聞いたことの無い爆音と共に後ろに引っ張られたような気がした。それに驚く暇もなかった。窓を見るとある一点を中心に大きくひび割れていた。
なんだよこれ……銃じゃん、辞書に書いてあったあの…
『銃。筒状の銃身から弾丸を発射する道具』
□ とらわれる前の時間軸にて □
『特急が来ていつもよりも早く帰れる!』
なぜケントが急いでいるかというと…
『家に帰ってもっと銃について調べないと』
というわけである。彼はこの謎を解き明かそうと必死なのである。それが故に視界も狭まってしまっていた。
???「目標を確認、3…2…1…」
ケントが歩いていると突如として路地裏から縄が出てくる。それに囚われてしまう。
それと同時に頭を床にぶつけ失神する。絶体絶命の危機に飲み込まれていく。路地裏へと引き摺られてしまう。
目を覚ますと彼は身動きが取れず、ただバタバタと暴れていた。そこに四十代くらいの男が近づいてくる。
颯田「だ。誰なんですか!!」
上井「君はもちろん知ってはずさ…上井だよ」
突然、ケントははっとしたような表情を浮かべる。それに気づいたのか上井が再度口を開ける。
上井「そうだ、君の隣人の上井だ、そして日本他殺撲滅委員会の者だ」
ケントはその言葉を聞いて目を見開いた。
日本他殺撲滅委員会…だと……僕の親を殺しただろうあの……!!!!
ケントは自分の頭に銃を突き付けられたことに慌てふためく。
上井「やっぱりそうだ……君が他殺の申し子だね。だって普通だったら銃を知らないからそんなに驚かないもの、しかもこれを持っている時点でね」
ケントは自分の銃が奪われたことに気づく。
そしてこの世界は他殺というものがない、世間一般論では。
僕は知っていた、日本他殺撲滅委員会の他殺を知っている者を調査する方法を、なのに現在も動いていたなんて知らなかった。
上井「君がしたことは何かわかるかい」
上井はそう問いかけ、ケントが話す前に話し出す。
上井「国家反逆罪、加えて他殺及び殺人行為の情報漏洩罪、わかるよね? 君は殺される義務があるんだよ!!」
そう言って、ケントの髪を持ち、再度銃を頭に向ける。「僕は死ぬの!?」と言いたげな表情や身震いが更に上井を奮い立たせる。
上井「さあ教えてあげるよ!!!! 他殺をなぁぁぁぁ!!!!!!」
「ドドドドドドドド!!!!!!!!」
僕は死んだ......あれ? 生きてる。
目を開けると、周りは血の海、そして目に映ったのはミニガンを持ったあのブロンズヘアーの女の子であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます