第33幕 夜明け

 ストーム新聞: セフィリア王行方不明!?


 アリア女王死亡で世が騒めく中セフィリア王が行方不明であるという情報が入ってきました。 「灰の結婚式」となったアリア女王の死亡事件以降公式の場に姿を見せないセフィリア王。 セフィリア王国関係者の友人を称する読者からの情報によるとセフィリア王は行方不明となっており、 政治の決定は后妃と王子が代行しているとのこと。


 ルミナリア王国で女王が死亡し、セフィリア王国で国王が行方不明となる。 一体何が起こっているのでしょうか。 当紙ではこの事件について引き続き追跡してまいります!


 コラム: 月の歌

 1つの時代が終わりを迎えたということでしょうか偽りの暦が止まった。しかし私達は生き続ければなりません。 アリア女王は確かにいたのです、あの方の記憶を引き継いでいきたい。


 *


「黒鷲様」


 ルミナリア王国の一角、街を見下ろしている黒鷲に黄蛇が声をかけた。


「黄蛇さん、どうしましたか?」


「紅狐の容態が落ち着きましたのでご報告に」


「それはよかった。銀熊君が上手にやってくれたおかげですね」


 偽のアリア女王を演じていた紅狐、彼女の最後の出番となるはずだった結婚式での惨劇。しかし彼女を殺害する予定だった銀熊は彼女を殺さずに死んだように見せかけることに尽力したのだった。神殿の助祭に死を認めさせるという少々強引な方法ではあったが。


「黄蛇、世の中上手くいかないものですね。紅狐の件も、セフィリア王の件も」


「そうですな。しかし我々がやろうとしていることを考えれば仕方ないことかと」


「英雄を作る。ふふ、我ながらなんてことをしているのでしょうね」


「いいじゃありませんか。私は好きですよ。だからあなたについて来たのです。他の皆も」


「……ありがたいことです」


 風が吹く。まだ終わりではない。我々には大義がある。言葉はなくとも黒鷲と黄蛇の間に共通の認識があった。


「さて、黄蛇。次の計画を始めましょうか」


「はい、新しいルミナリア王国の王の選出に関与できるよう工作を進めております」


「はっはっは、君の方がやる気のようだ」


 再び風が吹き、彼らの姿は消える。彼らの暗躍は続く、これからも。目的を果たすまで。


 *


「グレイ、今日の予定は?」


「昨日に引き続き、ルミナリア王宮にて会議です」


「そうか……、いつまで続けるのだろうな」


「ルミナリア家とノクティス家の権力争いが続く限りは……」


 レオンとグレイは屋敷の居間、父と母の少し誇張された肖像画の前でため息をつく。


「あの方がもう一度女王になってくれると思っていたのだが……」


「レオン様、それは」


「わかっている。あの方が決めたことだ……。アリア・ノクティスは死んだと」


 ここに彼女はいない、再び会うこともないかもしれない。


「グレイ、俺は捨てられたのかな?」


「……レオン様、女性が男を捨てるときは手酷い言葉を告げるものです。『ありがとう』と言ったあの方とはもう一度会うことができますよ」


「そうか……、そうだな。よし、そのときのために女性が喜びそうな言葉を教えてくれグレイ」


「はい、とっておきの言葉を考えましょう」


 レオンとグレイは出かける。次の王を決めるための会議へと。少し誇張された肖像画もため息をついているようにも見えた。


 *


「新聞は相変わらず適当なこと書いてんなぁ」


 馬車の荷台で新聞を広げたサルヴァが独り言ちる。


「いーんじゃない? 本当のことは僕らだけが知ってれば」


 寝転んだリクがお菓子をかじりながらサルヴァの独り言に返事をする。


「まーな。それに説明しろと言われても説明できないし」


 セフィリア王は黄金の木の化け物によって黄金になりました。こんな説明をして信じる者は酔狂な新聞社だけだろう。


「しかし先生、よかったのか? レオンの兄さんのとこにいなくて」


 サルヴァが馬車に揺られて遠くを見つめていたミネアに声をかける。


「ん? ……いいのよ、もう終わったの」


「でもさ」


「アリア・ノクティスは終わったの。だからアリアとレオンの物語もおしまい。これからはミネアとして生きるわ」


 サルヴァに顔を見せないようにミネアが返事をする。


「たぶんレオンの兄さんは寂しがってると思うぜ?」


 ミネアは返事をしなかった。


「さてと、じゃ僕は行くかな」


 お菓子を食べ終えたリクがそう言って立ち上がる。


「行くってどこに?」


「アキの故郷に」


 リクが棒を見てそう告げる。


「アキがどうなったのか故郷に報告しに行こうと思うんだ」


「……そうか」


「あとアキが行ってみたいって言ってた所にも行ってみたいし、だからここでお別れするよ」


「リク、ありがとう。また会いましょう」


「うん、先生も元気でね」


 そういうとリクは馬車から飛び降りた。颯爽と走っていくリクの背をサルヴァとミネアは見送った。


「それで先生、これからどうするんだ?」


「他の月の家の子を探しに行くわ、私は月の家の院長だもの」


「ビールズ兄にクアノとマイノの姉妹、双子のルークとルーア、あとワクノのか。大変だな……」


「でも探さないと。大丈夫きっとみんな生きてるわ。私達が生きてるんだもの」


「へいへい」


「まずは港町ネレイアに行くわ。リクを売りに来た奴隷商と関係のある商会があるってジュマさんが教えてくれたの」


 朝日が昇る平原を馬車が走る。


 夜空と呼ばれた王女の物語は日の出ともに終わりを告げた。


 *


 皆さま、「灰のアリア」にお付き合い頂きありがとうございます。


 これにて第一部「夜空編」 完結となります。


 夜空と呼ばれ灰となった彼女は自らの運命を見つけることができた。


 彼女のこれからに幸のあらんことを。


 それでは皆様、灰のアリア 第二部 「月の子編」で再びお会いいたしましょう。


 乞うご期待

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る