輪廻の花は散らぬ
花火
第1話 光と影
彼が目を覚ましたとき、そこは白い霧に包まれた場所だった。温かさも冷たさもなく、音さえも存在しない。ただ、自分が「在る」ことだけがはっきりしていた。
目の前に、一人の女が立っていた。長い黒髪を風もないのに揺らし、金色の瞳が彼を映す。
「ようやく来ましたね」
「……ここは?」
「あなたが“間”にいる場所です。生と死の、光と影の、境界に」
彼は記憶を探る。断片的な映像が頭をかすめた。炎、叫び声、そして冷たい闇。自分はどうやら、死んだらしい。
「次の生を選ぶ時が来ました」
女は静かに言った。
「人は幾度も輪廻を繰り返し、魂を磨き続けます。あなたも例外ではありません」
すると、目の前に三つの光の球が現れた。
一つは青白く、静謐な湖のような冷たさを放つ。
一つは赤く燃え、熱情と闘争の気配を孕んでいる。
一つは緑に輝き、柔らかく芽吹く命の息吹を感じさせる。
「あなたの魂が次に歩む道を、選びなさい」
彼は迷った。戦いに身を投じるべきか、静かな知の道を歩むべきか、それとも慈しみの生を生きるべきか。
そのとき、不意に胸の奥に痛みが走る。記憶の中に、一人の少女が浮かんだからだ。
――あの子を守れなかった。
その後悔だけが、彼を突き動かした。
「……もしまた生まれ変わっても、彼女に会えるのか?」
問いかけると、女は薄く笑った。
「会えるかどうかは分かりません。けれど、魂は縁を結びます。深い絆は、時を越えて再び巡り合うのです」
彼は迷わず緑の光に手を伸ばした。守れなかった後悔を、次こそは赦しに変えるために。
光に包まれ、彼の意識は再び闇に沈んでいく。
遠くで、柔らかな声が響いた。
「いってらっしゃい。また輪の中で会いましょう」
こうして、彼の魂は新たな生へと旅立っていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます