とある軽音部員の話 その三。
「音呂(ねろ)抜きでバンドをやる……?」
部長と縁を切った後、居場所を失くした私に新しい問題が舞い込んできた。
幽霊部員気味になっていた音呂が部長や叶を含めたバンドをやることになっていたのだが、それも解散状態になっていた。
そうしたら彼抜きでバンドを組むというのだ。
それは人として正しい行動では無い気がした。
「部長」としてなら、信用できると思ってた。
『この部活で良かったと思えるような部活にするために、部長として何か出来たらいい』
そう言っていた彼女の言葉も表情も何もかもが忘れられない。
そこに、彼は含まれていないと言うのだろうか。
確かに彼はいい人ではない、と思う。
私が作ったバンド内で恋愛して解散に追い込んだ。
そして、 あろうことか他の人にも迷惑をかけるようなことをして、周りから孤立していた。
でもそれは私の責任だ。
私が上手くバンドをまとめられなかったから。バンドリーダーとして不甲斐なかったから。
もっと、 彼のことを導けたら良かった。
例え、彼が悪い人だとしても、彼抜きでバンドをやるのはどうなのだろうか。
しかも聞いたところによると許可は全くとっていないらしい。
それは人を傷つける行為になるかもしれないということを認識できないのだろうか。
今まで友達だと思ってた人達を、その日から敵だと認識した瞬間だった。
その日も普通に部活だった。 二年が練習している教室はなんとなく気まずくて、一年がたくさんいる教室の端を確保してセッティングを始める。
ふと、とある一年の会話が耳に入ってきた。
「いやー、クリスマスライブどうする?」
「ばっか、お前、まずその前に文化祭ライブだろ!」
「ははっ、確かに。楽しみだな」
その会話が聞こえてきた瞬間、感情がぐちゃまぜになってトイレに駆け込んだ。
気持ちを落ち着かせる為に、トイレに佇む。
ここなら誰も来ないから。
トイレの洗面台に座り込む。
……立てない。
何とか立とうとしても、立ち上がれない。
そのうち気持ち悪くなってきて、嫌な汗が額に伝い始める。
あぁ、消えてしまいたいな。
何馬鹿なこと思っているんだろう。
早く立ち上がらないと。 そう気持ちがはやるだけで立ち上がれはしなかった。
三十分ぐらいはそうやって格闘していただろうか。
清掃員の人が来た瞬間、金縛りが解けたみたいに急に立ち上がれるようになった。
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