ふたり暮らし

親以外の人と一緒に生活するなんて生まれて始めてだ。ましてや赤の他人と。客を出迎えるならまずはこれだろう、と俺は代々伝わってきた秘伝の手料理をアステリアに振舞った。

「……なにこれ」

「カップラーメン。俺の愛情がこもった特製の手料理だ」

「へえ……ふーん……」

 不満ありげな様子を見せたが、とっとと食わないとまずくなるぞと焦らせたら急いで食べ始めた。拙いながらもフォークで麺をすくい、咀嚼する。

「この味、ワルトルエに似てるなぁ」

 ワルトルエ……聞き慣れない単語だ。天界にも同じような食べ物があるのかと聞こうと思ったが、食事の邪魔をしてはいけないと思い、今は彼女の顔を眺めるだけにした。包帯からうっすらと黒いもやが見える。包帯の生地が薄いのか、彼女の眼力が強いのか。そもそもあれは眼なのか――このままではまた恐怖に引きずり込まれると感じ、途端にアステリアの膝に視線を下ろした。

「そういえば、おにーさん、大京大学にいるんでしょ?」

「そうだが……なんで知ってるんだ?」

「だって、天から見てたし。つまんなそうな顔してたね」

 一言余計だ。だが、大学生活がつまらないのは事実だ。高卒は嫌だととりあえず入学、友達も作らずにバイトをし、とりあえずで授業を受けている。こういう小さな所作から日々の生活が見透かされるのか。真面目に聞いてないことだけは先生にバレてないといいんだが……

「今日は大学行かないの?」

「……休み」

「ふーん、わかった」

 なんとかゴミ出しと急な来客のもてなしを終えた――一時は達成感に浸っていたが、横になると一気に疲れが襲ってくる。自分が横たわったところだけ底が抜けそうな感覚になりながら、俺は深い眠りについた。本当は一限からあるんだが、まあ別に休んだ分はこの後取り返せばいいしな。


「……おやすみ、私の運命の人」

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