JK四人が突然、この世をスベる女神になってしまいました♪

ぴこたんすたー

第1章 神様になった女子高生

第1話 確かに、奇跡ですけど。(ミクル視点)

「えー、本日お泊りする宿泊先に、向かっている最中さいちゅうですが、少しばかり取れそうなので、ここで休憩時間を設けたいと思います」


 ──季節は10月。

 厚い雲に見え隠れした、西日が眩しい秋の夕暮れ。

 美しい紅葉を背に、黒いビジネススーツ姿の担任の女先生が、貸し切りの観光バスの一番前の座席から立ち上がり、マイクを手にした。

 別にここでVチューバーになりきって、十八番おはこの曲を歌うわけではない。

 先生の言う通り、長旅で疲れた生徒に癒やしを与えるためだ。


「それでは、この秋季修学旅行のリーダー役、ミクルさんによる挨拶で、本日のこの場を締めたいと思います」

「いや、おかしいやろ、先生にミクルも。まだ宿泊施設という最大のイベントがあるやろ?」


 ──私の名前はミクル。

 華の高校生活を謳歌している女子高生です。

 私と長い付き合いの同級生でもあるケセラさんが、いつものように私にツッコんでくるけど、周りの人の目もあるし、ここは黙って、やり過ごすしかないですね。


 そんなケセラさんは、先生に注意されたせいか、私を睨みながら、無言で事の成り行きに任せるようです。

 いつもの平常運転ではなく、蛇行運転のように不機嫌な様子ですけど……。


 ──今日から、私たち高校二年の生徒は、二泊三日の修学旅行です。

 一日目は休憩所と高速道路でのバス移動が主で、昼食は近くのサービスエリアで済ませました。

 誰しも気になる、実際の旅路は二日目以降からとなります……。

 

 ──もう少し、ゆっくり回れるプランもあっただろうと、追及したかったが、ミクルが風邪で学校を休んだ日に、偶然にも、行き先を多数決で決めたから仕方がない。

 ウイルスに蝕まれた弱者は、案を好きなだけ搾り取られて、最後はゴミクズとなり、捨てられる運命なのだ。


「ええー、本日はお日柄も良く……」

「……誠に残念。雨が降り出した」


 ──転入生のジーラの言う通り、さっきまで晴れていた空模様が、雨雲に奪われて、途端に大雨が降り出した。

 山の天気は変わりやすいともいうが、ここは高速道路だし、山は切り開いているし、同じような道路が続くだけ……。

 これが最近の母なる地球を悩ませる、ゲリラ豪雨というものだ。


「あらら、予報でしたら、晴れの一日でしたのに……」


 同じくジーラと同じ転入生でもあるリンカが、曇った窓を青いハンカチで拭きながら、隣の座席に座り直したジーラに、500ミリのペットボトルの水を手渡した。


 ──その隙がないアクションからして、窓ぎわ交渉条件の成立ということですね。


「……いくら完璧な人間の考えでも、どこかに落とし穴がある」

「そりゃ、アンタの頭ん中やろ?」

「……誠に哀れな、死刑囚」

「いや、坊主頭やなく、アンタの頭の中身や!」


 ジーラさんの横並びの座席にいた、ケセラさんの怒声がバス内に響き、他の生徒がガヤガヤし出す。

 一方でジーラさんは知らんぷりで、リンカさん側の窓に視線を移し、イチョウが黄色く色づいた、雨の景色を眺めていた。

 ジーラさんにだって、センチメンタルな時もありますよね。


「ケセラさん、ジーラさん。今は黙って、話を聞いて下さい」


 でもここは、遊び場ではない。

 私たちにとっては、勉学のための旅行なのですから。


「……そうそう、ミクルの言う通りデス」

「誰のせいやね! それに語尾で人を葬るなよな!」


 ジーラさんがデスデスと呟いた言葉に、思わず反応してしまうケセラさん。

 言葉とは便利な反面、鋭利な凶器にもなるんですよね。


「──こほんっ。ええー、この度は私たち二年生による、秋季修学旅行にご参加いただき、誠にありがとうございます」

「この観光バスは、現在、岐阜ぎふ県に向かって、移動中であり──」


 ──人と話すことが苦手な私に、難題を押しつけるのも何と言うものか。

 私は全身の神経を尖らせて、図書館の本で読んだ、マニュアル通りの当たり障りのない台詞を口に出した。


「……能書きはいいから、はよ、飛騨ひだ牛が食べたい」

「それは同感ですわね。オタクなジーラが目を輝かせた、白川郷しらかわごうも気になりますし」


 ──ジーラさんの隣りにいたリンカさんもお腹を空かし、空腹に耐えているようです。

 お昼休憩だって、マックのポテトだけでしたし……。


「あんたら、ウチのミクルにケチを付けるんかいね」

「……大丈夫。ケチャップじゃなく、ステーキソースなら持ってきてる」

「リンカはワサビとマヨネーズですわ」

「付け合わせの話じゃなかっ!」


 それじゃあ、ケセラさんは何をかける派なのかなと、マイクで声をかけようとすると、前の運転席から豪快な笑い声が響いてきた。


「あははっ、コントみたいで面白い修学旅行生やな。こりゃ、楽しい旅路になりそうだ」


 運転席のおじさんはツボにハマったのか、笑い声が止まらず、そのせいか、車内が小刻みに揺れる。


 まあ、雨道なので、多少のブレはあるだろうと、私たちは見て見ぬ振りをした。

 その一瞬の判断により、私の人生が180度大きく変わるとは、思わなかったですが……。


『プップッー!』

「おわっ、思わず、車線はみ出しちゃったぜ!?」


 『プップッー!』


 おじさんが運転するバスが、クラクションを鳴らす前方のワゴン車を避けようと、急ハンドルを切る。


『キキキキィィィ──ドオオオオーン!』


 その勢いでタイヤがスリップを起こし、先にあった急カーブを曲がりきれずに、ガードレールに突っ込んで、そのまま私たちを乗せたバスは、崖の下へと落ちていく。


「きゃあああー、わたしたち、ここで死ぬの!?」

「せめて、最期は好きな人とお姫様抱っこしたい」

「はあ? この重力化で物理法則を無視するんじゃねえよ!」

「へえー、こんな時にも勉強かい。君も真面目だなー」


 緩やかに落ちていく車体にパニックになる生徒たち。

 中には冷静に数式を解いてる者もいたが、自身の眠る墓にはまんじゅうではなく、数字の教材と大学ノートをたんまりと、お供えしてほしいのでしょうか。


「皆さん、落ち着いて下さい!」


 冷静な指示を出す先生には目もくれず、地面に落車しようとする、バスの出入り口のドアや窓を強引に開けようとする生徒たち。


 でもセキュリティが万全な状態となっていて、どちらもビクともしない。

 そして、大きな衝撃音と共に、高速バスが農道を滑りながら大破し、漏れ出した燃料が引火し、轟音を上げて大爆発した……。


 ──燃え盛る炎の中、私たちの一生も、ここまでなのでしょうか。

 工具のペンチではなく、お得意のとんちで答えて下さい。

 私の推しではないけど、永遠の坊主アイドル、一休宗純いっきゅうそうじゅん様へ──。


 ──第1話 確かに、生きてた方が奇跡ですけど。(ミクル視点)

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