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 フォルケのことが気になり、ウリカはクレイツ伯爵家について調べ始めた。

(クレイツ伯爵家……。話によると、フォルケ様のお母様が亡くなってから、クレイツ伯爵閣下はすぐに後妻を迎えた。おまけに既に後妻との間に子供がいた。つまり、ウルバンはフォルケ様の異母弟。……私のお父様は、お母様が亡くなって一年は喪に服したし、結局後妻を迎え入れなかったのに、クレイツ伯爵閣下には呆れたものね)

 ウリカはクレイツ伯爵家当主を軽蔑した。

(他にもクレイツ伯爵家には何かありそうね……)

 ウリカはうーん、と考え込む。

 その時、自室の扉がノックされる。

「ウリカ、そろそろティータイムにしない?」

 ヨンナである。

 ウリカはハッとする。

(ヨンナお姉様の婚約者はセドウェン王国の第三王子であられるオーディン殿下。王宮に行く機会もあるはず。王宮の図書館には国内貴族に関する税収や資料があるから、私もヨンナお姉様について行くことは出来るかしら?)

 そう思ったウリカは早速ヨンナに聞いてみた。

 すると、ヨンナからは一緒に王宮に来ても構わないと返事があったので、ウリカは早速王宮の図書館に行くことにした。






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 王宮の図書館でクレイツ伯爵家のことを調べていたウリカはため息をつく。

(やっぱりクレイツ伯爵家は怪しいわね。フォルケ様のお母様が亡くなった年以降、税収が減っている。それなのにフォルケ様以外、クレイツ伯爵閣下とウルバンは服装も何もかも贅沢三昧……。脱税しているとしか思えないわ)

 叩けば埃が出るとはまさにこのことだと思ったウリカである。

 ウリカは次の夜会でフォルケに接触してみることにした。


 そして、次の夜会は割とすぐにやって来る。

「フォルケ様」

 ウリカはフォルケに声をかける。

 相変わらず、流行遅れの紳士服である。

「ウリカ嬢、どうかしましたか?」

 力なく微笑むフォルケ。

「私、クレイツ伯爵家について調べたの。貴方のお母様が亡くなった年以降、税収が減っているわ。それなのに、クレイツ伯爵閣下とウルバンは贅沢三昧しているようね」

 すると、フォルケは困ったように苦笑する。

「ええ。ウリカ嬢の予想通り、父は脱税しています。僕には止められませんでした」

 ため息をつき、肩を落とすフォルケ。

「でも……」

 フォルケは顔を上げ、ウリカを真っ直ぐ見つめる。ムーンストーンの目は、以前のような弱々しさがなかった。

「僕は父の不正の証拠を集めて国王陛下に提出しようと思っています」

「まあ……」

 前に会ったフォルケは諦めて黙り込んでいるようだった。しかし、今のフォルケからは力強さを感じられた。

 ウリカは口角を上げる。

「協力するわ」

 何だか嬉しくなったのだ。






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 その後、ウリカとフォルケはクレイツ伯爵家の不正の証拠を集め、国王に提出した。

 それにより、クレイツ伯爵家当主とウルバンは逮捕、投獄された。

 クレイツ伯爵家は子爵家に降格となったが、新たに当主となったフォルケにより今まで以上に領地が栄えるようになった。


「フォルケ様、凄いわね」

 フォルケの活躍を、ウリカは自分のことのように喜んでいた。


 彼の活躍を見ると、胸が躍るのだ。そして、自分も彼に協力したくなる。フォルケといると、肩の力を抜けると共に、生き生きとしていられるのだ。


「ウリカ嬢のお陰ですよ。貴女と出会って、僕は抵抗しようと思えたんです」

「そう……」

 フォルケの真っ直ぐな視線に、ウリカは少しだけたじろいでしまう。

「ウリカ嬢、クレイツ家は子爵家に降格してしまいましたが、いずれまた伯爵家に昇格出来るように頑張ります。ですから、どうか僕の妻になっていただけませんか?」

 真っ直ぐ向けられたムーンストーンの目。真の強さを感じる表情だ。

 ウリカは迷わず頷いていた。


 きっと、彼となら大丈夫。

 そう信じられたのだ。

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