第30話 水汲みを楽にする


 開拓依頼を受けた俺たちは、地震で使えなくなった井戸を、再び使えるように修復した。

 コーヤリダさんが桶を井戸へと下ろし、ぐいっと引き上げる。


 桶の中には、水がなみなみと入っていた。思わず、口元がほころぶ。


「みずだー!」「みずー!」


 わっと近くにいた子供たちが、コーヤリダさんのもとへ駆け寄る。


「わ、子供もいるんだ……!」


 リィナが素直な感想を漏らす。たしかに、開拓作業は大変だ。主に肉体労働で、子供の出番はないように思える。


「おう。家族で開拓に参加してるやつもいれば、ここで生まれた子もいるんだ」


 コーヤリダさんが答える。


「ここで生まれた子……つ、つまり仕事を通して仲良くなって、結婚して……こ、子供を作ったってことぉ~?」

「ま、そういうことだ。なんだ嬢ちゃん、坊主とそういう関係になりたいのか~?」

「ちゃちゃちゃちゃうわう……!」


 ちゃうわうって……噛みまくっている。……まあ、そういう関係になりたい気持ちは、あるのかもしれない。


 ……俺は、どうだろう。彼女たちのことは大事に思っている。隠し事を抱える俺を、そのまま受け入れてくれているし。

 けれど、もし家族になるのなら――最後の隠し事、つまり俺が魔人であることを、明かさざるを得ない。

 それには、覚悟と心の準備が必要だ。


「水うめー!」「おいちー!」


 子供たちがコーヤリダさんの汲んだ水を分け合って飲む。だが、すぐに飲み干してしまった。


「たりなーい!」「もっとー!」

「ちょっと待ってな。よいしょっと」


 コーヤリダさんが再び桶を井戸へ投げ入れる。


「ふんっ……! ふんっ……!」


 滑車があるとはいえ、引き上げるには力が要る。水は重いのだ。


 開拓依頼にこれが含まれるかはわからない。だが、困っている子供たちを見て、手を貸さない理由はなかった。


「貸してくれませんか?」

「お、おう……何するんだ?」

減重グラヴ・ライト


 俺はロープを握ったまま、減重を発動する。

 だが、ロープを渡すのはコーヤリダさんではなく――。


「君、ちょっとおいで」

「ぼく?」


 近くにいた子供に声をかける。


「そう。このロープを引っ張ってごらん」

「うん!」


 子供は嬉しそうにロープを握った。

 コーヤリダさんは「そりゃ無理だ……」と苦笑する。


「大人の俺でも苦労するんだぜ? 子供には――」

「そーい!」


 ぽーん! ばしゃあ……!


「な……!? 桶がすんげえスピードで持ち上がっただとぉおお!?」


 勢い余って水はこぼれてしまったが、子供は再び桶を井戸に下ろし、軽々と引き上げてみせる。


「わ、ぼくでもひっぱりあげられたよー!」

「「「しゅげー!」」」


 子供たちが歓声をあげ、水に群がってごくごくと飲む。


「一体全体なにがどうなってんだ?」

「重力操作で、この桶の重さをゼロにしました」


 だから子供でも引き上げられるのだ。


「……ちょっと質問」


 ノエルが手を挙げる。


「……ガイアが軽くしたのって、あくまで桶単体でしょう? なんで水が入っても重さがゼロになるの?」

「?????」


 リィナが頭を抱えている。


「……ガイアが触れたのは桶で、水じゃないでしょ? なのに水まで軽くなるのはおかしいって」

「あー……ナルホドネー。ソッカソッカ、ウンウン、かんぜんにりかいしたよー」


 リィナ……完全に理解してなさそうだ。

 だが、ノエルの疑問はもっともだ。


「簡単さ。俺は桶を軽くしたんじゃなくて、桶に重力場を付与したんだ」


 桶に触れて重力場を設置。

 その中に水が入れば、水もその影響を受ける。

 結果、水の重さも軽減される。


「……そうか。重力場の付与なら、その周辺にも影響を及ぼすんだっけ。氷針アイス・ニードルのときみたいに」

「そういうことだ。これなら、水を汲むたびに減重を使う必要がなくなる」

「……なるほど。さすがガイア。本当にその能力っていろいろ応用できるんだね」


 リィナだけが、まだ理解できていない様子。


「むぅ~! 二人で盛り上がるの禁止っ! あたしだってガイアとおしゃべりして盛り上がりたいっ!」

「……後でいくらでもそうすればいいでしょう?」


 コーヤリダさんが俺の肩をばしばし叩く。


「助かったぜ坊主ぅ! これなら子供でも水くみの手伝いができる! 今まで大人しかできなかった重労働だからな!」


 たしかに、水を引き上げるのは子供には難しい。


「あんたマジですげえわ……! 大助かりだぜ!」


 喜んでもらえて何よりだ。さて、この調子でどんどん手伝っていくとしよう。

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