ロウちゃんの最後の旅【100話記念】

@satoika

第1話 惚れ薬の話

『ある国のお姫様は、ひとりの騎士様に恋をします。しかし、騎士様にはすでに思い人がおりました。それでもお姫様は騎士様への気持ちを諦められません。お姫様は様々な策を講じましたが騎士様の心は手に入りません。どうしても愛しい愛しい騎士様に愛されたいお姫様……ある日お姫様は大陸中の薬師を集めてとある薬を作るように命じました。薬を飲んだ騎士様とお姫様は仲睦まじく幸せに暮らしました。

 そう、この薬こそ……『惚れ薬』だったのです』



 ジャジャーン!!と音楽が鳴って幕が下がる。


 ほうほう!!最初は退屈なお話だと思っていましたが、中々どうして、お薬のお話だとは素晴らしい!!これが、終わりよければ全てよし!なお話なのですね!!


 ブラボーッ!!な気持ちで拍手喝采していると、お隣に座っていたコーディネーターさんがにこやかに微笑む。


「大師様はこのお話をお気に召したのですね」

「薬師さんが前例のない『惚れ薬』に全力で挑みSUGEEEする様子が目に浮かぶようでした」

「……………そうですね?」


 しいていえば、最初の導入部分が長かったかな?お姫様とか騎士様とかもうちょっと短めで、薬師さんを集める部分を最初にもってきたら、もっと面白い話だったよね?


「キィちゃんはどう思いますか?」

「お、おぉ、なんだ……俺は、ロロの方が30倍可愛いと思うぞ?」

「??」


 よく考えたらキィちゃんは遊びじゃなくて、護衛というお仕事で同行していたのだ。劇を見ていなくてもおかしなことではない。今のは感想を求めた俺が悪かった。


「では、一旦中に戻りましょう。退出は人がはけてからにしましょう」

「わかりました!」


 コーディネーターさんが立ち上がり控室の中に入っていくので、俺も後についていく。


 10歳で薬師免許をとってから3年10ヶ月、大陸中にいる先輩薬師さん達を訪ねてお勉強する旅にもすっかり慣れた今日この頃、13歳最後の旅で俺達は『ミグナ国』を訪問していた。


 ここは温泉と大人の街が有名な国で、大陸では珍しい観光を主産業とする国である。とても小さな国で、王都一個分の国土しかないが、その分ぎゅぎゅっと観光スポットが凝縮されており国全体が娯楽施設のような形になっている。


 花街は勿論、カジノもある。温泉は効能が違う3種類があり、劇場は3つ、サーカスもある。毎晩違う催し物が用意され、娯楽たっぷりな夢の国だ。


 ただし、薬草畑はない。


 そして、この国の薬師さんにもまだ挨拶していない。


 王様曰く『薬師さん達は周辺国から助力願われての外出中で、今呼び寄せているので明日には到着する』との事だった。


 父上は大分訝しんでいたようだが、薬師協会のコーディネーターさん曰く今回『うちの国においでぇ〜』の申し出をしてくれたのは、元革新派の筆頭の人物で、俺たちの来訪を歓迎しているのは間違いないとのことだ。

 とりあえず1日は滞在して彼の帰りを待つことになった。


 父上はすぐに周辺に待機させていた追加の護衛隊を呼び寄せ、午後には合流し警備を一層固めた。キィちゃんもたまたま近くにいたとかで、来てくれた。

 そんな訳で、護衛隊も強化したので、午後はコーディネーターさんのお誘いを受けて、観劇をすることになった。


 これまでも父上と別行動!の事は多かった。例えば父上達が大人のふむふむ場所にいく時とかね?


 俺も気持ち的には大人だけど、歓楽街は明確に街の区分と分けられている事が多く、年齢制限で俺はひっかかってしまうのだ。この国でも15歳からしか入場できないらしいので、今回の大人の街観光は父上達に譲り、俺はお子様向け観劇を楽しむ事にしたのだ。


 観劇には正直、あまり期待していなかったが、予想を裏切りとてもおもしろかった。さすが娯楽に力を入れている国だけある素晴らしい出来栄えであった。

 なんせ『惚れ薬』なんて薬草図鑑にものってないお薬が出てきたのだ。ロマン溢れる薬師さんのお話である!!


 ソファーに座り観劇後の一杯!をコーディネーターさんとまったり楽しんでいるとトントンと扉をノックする音がする。

 すでにキィちゃんは扉に向けて抜剣していたので、扉に人が接近していたことはお察ししていたらしい。


「??」

「どなたでしょうか?」

「や、薬師の、あ、いえ、ミグナ国筆頭薬師のラシンです!ここに、大師様がいらっしゃると聞いて……到着が遅れて申し訳ありません!!改めてご挨拶に!!」

「??」

 周辺国に往診に出ていた薬師さん?

 国に戻ってこれたんだね?


「ラシン様!お戻りになられたのですね。大師様、ご同席よろしいでしょうか」

「えぇ……」

 俺の返事に、コーディネーターさんが早速鍵をあける。

 キィちゃんは警戒して俺の傍に寄ってきた。

 護衛達4人の配置も守りの配置に交換する。


 ふむ?キィちゃんが警戒している?


 コーディネータさんが扉をあけたその瞬間、大きな袋が投げ込まれ、そしてその袋の中からは、もくもくの白い煙が出てきた。


「ヤれ!」

 キィちゃんの指示とほぼ同時に護衛達が抜剣し、突撃し、入ってくる兵を堰き止める。部屋はあっという間に、視界ゼロの真っ白になり、金属音が激しく響く。


 これは……。

 鼻先をわずかに独特の草の匂いがついた。

 白い煙に混ざり毒薬が混ぜられている。

 俺は腕輪から解毒薬をとりパンッと力のかぎり両手で潰してキィちゃん達のいる方向に投げる。


「大師様!」

 コーディネーターさんの声が聞こえた。

「コーディネーターさん?」

 思わず声を出したら、居場所を知ったコーディネーターさんの手が伸びてきて、ぐいっと俺の腕を掴み、ひょいと持ち上げられた。


 コーディネーターさんは力もちだね?


 まぁ、立ち方からして武家っぽかったので、それなりに鍛えている薬師さんであることはお察ししていたが……なんせ、大陸の薬師さんを訪ねる旅は、移動が長いので、ある程度体力がないと務まらないのだ。


 抱っこされてちょっと安心していたら、観覧席のバルコニーに出て、テイヤッ!と投げられた。

 ほほーい!な感じで宙を浮いた俺は、下の階にいた男にキャッチされる……なんだか見慣れない鎧の男で……??


 あ、これはもしやコーディネーターさんはグルだったのでは?

 と思った時には、麻袋にポンと入れられてしまった。


 これは、やられたね?


 俺は、なす術もなく、はぁ〜れぇ〜な感じで運ばれていくのだった。

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