第9話 ライフ リング レーザー

 敵のメテオストライク(仮)が落ちてくると想像通りの地獄が始まる。だが、地表に落ちた燃え盛る巨岩はそこで破裂して消えてしまう。

 これも言うならば召喚魔法か? ミノタウロスの投げた斧といい、飛び道具のほとんどが消えてなくなる。俺達の銃器と同じ仕様だろうな。この魔物ってのは向こう側の使徒と言う所か。形態進化のスタートが違うだけの異世界転生者。形態進化の進み方によってはどちらの陣営にでも行けそうだな。


 つまり形態進化の可能性はお鎮鎮の可能性でもある。最悪オークへの形態進化もあり得るが、仲間を裏切って手に入れたお鎮鎮は流石にシコれねぇ。素直に人間の強化方向の形態進化を狙うしかねぇな。


 そんな事を考えている内にメテオストライクは終わったようだ。アレスのドームも多少掠った程度で問題はない。


「ゼロス! 俺もスナイパーに加わる! アレス! 悪いな!」

 二人の了承を得るとギンガの方に加わる。

「という訳だ。ギンガ先輩頼む」

 俺はレーザーライフルを出すが確かにこれはMPが重いな。並みのソルジャーでは出す事も出来ないだろう。

「ん。付いてきて」

 俺はギンガについて走り出す。

「フィジカルアップスタミナ!」

 そこにアレスの声が響く。体が軽く呼吸が楽になる。身体強化系の魔法か。どうやらゼロスと二人でこちら側に立つ様だ。ギンガの方も強化を受けているようだな。足並みが乱れることはなさそうだ。


 ギンガと二人で城壁の塔に取り付く。下を見下ろしても魔物の数は少ない。そのまま登りきるとギンガは双眼鏡で城外の魔物を見渡す。

「シコル。私がスポッターをする。私に従って」

「わかった。レーザーライフルの使い方で何かあるか?」

「シコルは初めて?」

「ああ」

「ならここで聞いて。トリガー一段目でポインター。二段目で発射。標的が倒れるまで照射し続けて。レーザーは発射光が大きいから位置はすぐにバレる。一射目で確実に潰して。そしてすぐに離脱。これが基本。ただ今回は私がスポッターをしているからその指示に従って」

 俺は返事をするとレーザーライフルを構えてスコープを覗き込む。

「シコル、まだ。肉眼で杖持ちを把握して。魔物の群れに居るでしょう?」

 俺はスコープから目を離すと魔物の群れに目を凝らす。確かに杖を持った魔物がいる。だが、それは杖を持ったオークやゴブリンだ。

「魔法を撃つ専門の魔物というのが居るんじゃないのか?」

「それは後ろ。大きな骸骨が居るでしょう。あれが大魔法を撃ってくる。あれが最後の骸骨だからアレを落としてから杖持ちを潰していく。ここから私の推察だけど聞く?」

「ああ」

「魔物のMPは最初はゼロ。多分街に着いてからMPの供給が始まる。大魔法を撃つ骸骨はそのギリギリのエリアに居ることが多い。杖持ちもすぐにはこちらに来ない。これも多分MPの回復を待ってる。魔物のMP供給が終わる前に始末するのがスナイパーの仕事。確証はないけど頭に入れておいて」

「ってことはやっぱり奴らは向こう側の使徒って事か」

 ギンガがきょっとしたようにこちらを見つめてくる。

「違ったのか? あの大魔法は俺達の召喚魔法の亜種だと思ったんだが?」

「・・・それはわからないけど、そんな事考えたこともなかった。魔物が異世界転生者だなんて・・・」

「そうでもなければニュービーナンバーワンを狙いになんて来ないだろ」

「それは神の方だと思ってたけど、どうしてそう思ったの?」

「俺達使徒が魔物堕ちするなら最初から魔物もいるだろ。行ってしまえばジョブチェンジだ。やつらが銃を使えないのもソルジャーじゃないからだろ。全て同じ神の使徒だ」

「ゴメン。その話は後でいい?」

「オーケー」

 流石に長くなりそうだからな。


 長くなるついでに俺はレーザーライフルに付与を加える。左腰に大容量バッテリー、装填済みのバッテリーを抜いてマガジン型のプラグを差し込む形だ。

 そしてバレル部分にはライフリング付与。レーザーを回転させて収束集中して攻撃力アップというわけだ。「そんなの意味ないでしょ」というギンガの呟きは無視だ。

 そして目には遮光グラス。発射光もあるがもし近距離に当たった場合目が潰れる可能性があるそうだ。

「準備はいい?」

 俺が頷くと大きな骸骨の頭にポインターが出る。俺はトリガーを一段引きしてポインターを合わせる。だがなんだ? 銃が光っているが?

「その銃は一段目で光る。その代わり二段目のトリガーラグが無いから落ち着いて当て続けて。反動はない。トリガープルだけ意識して。じゃあ、撃って」

 ギンガの指示でトリガーを引き切る。骸骨が光るが、反射光はない。発射光もほとんどないな。一瞬で骸骨の頭を打ちぬくと左腰に痛みを感じてトリガーを離す。

「あっちぃ!」

 左腰のアツアツ大容量バッテリーから煙が立つ。俺はそれを外すとマガジン口のプラグを外す。落ちた大容量バッテリーが光に消えるが危なかったな。

「何をしたのシコル」

 ギンガが驚いた顔で俺を見ている。

「多分だがライフリング付与だ。こいつ距離でバッテリーの食いが変わる。骸骨に命中してるときは何ともなかったが、貫通した瞬間消費が爆上がりしやがった」

「それ、レーザーにライフリングって効果があったんだ。凄い威力だった。それに反射光と発射光もほとんどない。光が回転してそんな効果が出るなんて・・・」

「いや魔法だろ。それを言い出したら付与魔法なんて物理法則ガン無視だからな」

「そっか。でも流石にそれ使うぐらいのMPは私にはないな。普通に撃った方が良さそう。本当ならスポッターなしのレーザーライフルスナイパーは即座に動かないといけないけど、これならこのままで良さそう。・・・シコルの方がスナイパーに向いてるかもね」

 流石に少し複雑そうな表情で呟くギンガ。確かに武器の性能だけを見ればそうなるんだろうが・・・。

「なら使ってみるか?」

「え?」

 俺はギンガにスリングを繋げるとギンガのレーザーライフルにライフリング付与をかける。そして新しい大容量バッテリーを俺の腰に付けてマガジンプラグを渡す。

「え? これ、出来るの?」

「アレスの時は成功したな。相手の召喚魔法に付与は初めてだけどな」

 ギンガは自分のレーザーライフルについていたバッテリーを外すと自分の戦闘服に括り付ける。そして俺の渡したマガジンプラグを差し込む。

「凄い。五倍以上の容量がある」

 大容量化付与でバッテリーの形状が変わったが、そんなに上がるのか。

「じゃあシコル、スポッターをやって。杖持ちでこっちに気付いたやつを教えて。このライフリングで奴らがどれほど気付くのか試したい」

「わかった。だが貫通しての中空撃ちに気を付けろよ。射程の長さがバッテリーの残量に直結するからな」

「了解。じゃあ撃つ」


「凄い。五倍以上のエネルギーゲインがある。怯えているの? これが私とシコルの威力なの。逃がさない。」

 ぶつぶつと独り言を言って杖持ちを始末していくギンガ。こちらが指示を出そうにも掃討スピードが速すぎて追い付けない。魔物もこちらに気付いていないようだ。下手に俺は撃たない方がいいだろう。

 ほどなく杖持ちは片付いた。

「凄かった。私もMP上げよう。Gを稼ぎたくなってきた」

「そいつは良かった」

 ギンガが大容量バッテリーのマガジンプラグを抜くと、俺はギンガに繋いだスリングを外す。だが銃に掛けたライフリング付与は解けない。

「ライフリングが消えないな。解除した方がいいか?」

「んー。消えないならこれはそのままでいい。消費が激しいけど、効率も上がってるから前より限界まで引き出せる。新しいのを召喚したらまた掛けてくれる?」

「オーケー」


「シコルは本当に欲がない。それでいいの?」

「俺が欲しいのはお鎮鎮だけだからな。それにシコルの助けてくれたのはギンガだろ」

「うん。じゃあまた一緒にシコルとシコルの勉強会」

「いいのか?」

「うん。シコルは安心安全だから」

 そう言ってギンガがキスをしてくる。ああ、舌を使わないって約束か。

 これを守っている限りギンガの信頼は損なわれないようだな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る