恋野くんの彼氏は100%恋野くんでできている
九浄新
第1話 恋野ファースト
オレ、恋野愛は、女でもなければ、可愛くもない立派な男だ。
とかいって、逆にめちゃくちゃ男前、とかでもない。
すっごい名前負けしてる平凡な今日から専門学生だ。
ちなみに、学校の学科は声優科。平凡声なのに。
さて。
なんで、平々凡々なオレが声優と言う華やかな世界に繋がる学校に入学したのかと言うと。
「愛ちゃん、おはよ」
こいつのせいである。
この高田蓮はオレの高校時代の同級生なんだけど、あまり大きな声では言えないが、オレの彼氏様でもある。
色々あって———蓮のしつこいアプローチに根負けして———付き合うことになったのはいいけど、気に食わぬ。
何が気に食わないって、オレが女側なのが気に食わぬ。
確かに、身長も体格も名前も顔も、蓮はオレより男らしいけどさ。
というか、声が嫌。あの色っぽいテノールで囁かれたら、腰砕ける。
そんな色男声の蓮が、受験前に駄々をこねた。
『愛ちゃんが同じ学校じゃなきゃ嫌だ!!』
オレは、蓮は声優や俳優になるべきだと思う。
蓮は、元々役者志望で高校でも演劇部にいたんだし。
それが原因で元の友人に戻っても別に構わない。
でも、蓮はオレも一緒じゃないと、と我儘を言う。
そこで別れても良かった。
それをしなかったのは、やっぱりオレも蓮が好きだったからだ。
いつの間にか、蓮の真剣な瞳に、絆されていた。
「おはよ、蓮」
「おはよぉ~」
「ぐえっ……」
ぎゅ~っと抱き着いてきてオレに擦り寄る連だけど、いや、待て待て。
此処、学校のエントランスな?
ってか、チカラ強い!!
離れないんだけど!!
「さ、行こっか!」
いや、行こっか、じゃないんだが。
お前が引き留めてたんだが。
一頻り俺を抱きしめて満足した蓮は、今度は自然と手をつないでくる。
待て待て待て。
「待て待て。それはマズイ。それもマズイ」
「何で?」
「男同士だぞ」
「でも、俺、愛ちゃんの事好きだよ」
きゃーーー!!っと近くで聞き耳を立てていた女子達が黄色い悲鳴を上げた。
オレも悲鳴上げるかと思った。っていうか、腰抜けるかと思った。
かっこよすぎんか。
「俺、愛ちゃんとこの学校来れてうれしいよ」
「ぐぬぬ」
「うん?どうしたの?」
「嬉しいと思った自分が解せぬ」
いや、めちゃくちゃ蓮のペースじゃん。
ってか、女子達はこっち見ながらきゃっきゃ言ってるし。
まあ、いいか。
オタク多いだろうしそういう恋愛も受け入れられやすいだろう。
オレは、そう思い込んで、声優への第一歩を踏み出した。
新学期、と言えば、オレの嫌いな、大大大大大嫌いなイベントがある。
自己紹介だ。
『恋野愛です♡』なんて言ったら先生もクラスメイトも先輩も後輩も大抵質問責めにしてくるんだよな。
「本名?」とか、「もしかして女の子?」とか。
「愛ちゃん、憂鬱そうだね」
「名前大っ嫌いだからね」
「ああ!自己紹介か!!」
新学期一発目の授業はアテレコのレッスンだ。
レッスンと言っても、今日はミーティングだけで終わるだろう。
———ガラッ
扉が開くと、そこにはオレでも知ってるような、一昔前はヒロイン役で引っ張りだこだったレジェンド声優、周防キララがいて、周りはざわついた。
「はじめまして、周防です。私は貴方達がまだ小さいくらいの頃かな、現役でした。最近引退して、教える側になったので至らぬ面もあるかもしれませんが、よろしくね!」
こ、これが、ホンモノ……。
声も、仕草も、表情も、見た目も、四十~五十代のおばさんとは思えないくらい、綺麗な人だった。
流石、業界人。
「高田蓮です。よろしくお願いします」
自由席と言うことで、オレの前の席を陣取った蓮の番が深々と頭を下げると、周防先生は「あら、声もルックスも素敵ね♡」なんて言うもんだから、オレの心はぐちゃぐちゃだった。
蓮は、いい男だ。ルックスも、声も、性格も。
オレなんかが独占していていいのかと思うくらいに。
「でも、愛ちゃんが夢を諦めろ、って言ったら、俺は平気で諦めます」
「え?オレ?」
そして、こいつはまた爆弾を落とす。
「うん、だって、愛ちゃんの事、大好きだもん」
「おぎゃ?!」
突然の熱烈な愛の告白に、オレは赤ん坊のような素っ頓狂な声を上げ、クラスメイトは黄色い悲鳴を上げ———一部、鼻息が荒くて怖い———、そんな中、周防先生は「あらあら~♡」と一人暢気だった。
「じゃあ、そのアイちゃん、次ね!」
「……はい、恋野、愛です、よろしくお願いします」
———ザワッ。
また教室が騒めいた。
今度の原因はオレだ。
「あら、貴方が?……芸名ではないわよね?」
「ほ、本名です。色恋の恋に、野原の野、愛情の愛で恋野愛です。生まれた時から男です」
ああ、なんか嫌だなぁ。
周防先生、なんか考え込んでるし。
ってか、両親め、よくもこんな名前つけたな?
「恋野くん」
「はい?」
「貴方、デビューしても本名でいなさいね」
「へ?」
先生が言うには、名前のインパクトも売れるには重要らしい。
特にオレの場合、本名だから余計に目立つ。
「それと」
「?」
「貴方はもっと自分に自信を持った方がいいわよ?」
「え?」
先生は「うふふ♡」と愛らしく笑うと、そのまま後ろの席の生徒に話しかけてしまい、その真意を問いただすことはできなかった。
「あれ、どういう意味なんだろう」
「……うん?愛ちゃん、なに?」
蓮は、ベッドに裸で横になっているオレの上に跨り、そこらじゅうを愛撫してくる。
こういう行為は今年の春からで———付き合いだしたのは高校二年の夏休み———、まだ少し恥ずかしい。
こういうときの蓮の表情や声や、漏れる息なんかがとてもセクシーで、なんか気まずくて、でも、興奮して、オレは必死に意識をそらせようとした。
「もしかして、アテレコの周防先生に、言われたやつ?」
「ん……、そう、あれ、どういう意味なんだろう」
蓮はそんなオレの言葉には一旦答えず、じっとオレを見つめてから、オレの首筋に唇を押し当て、吸いついてくる。ぴりっと甘い痛みが走った。
「……金の卵、見つけたんじゃない?」
「うん?金の卵?」
「っていうか、今日余裕だね?酷くしても大丈夫そう?」
「え?!まっ、……あ、ああ!!」
こうしてオレは、恋野愛大好き男にぐずぐずに甘く激しく酷く愛されて、今日もお泊りを余儀なくされたのだった。
—第一話 了—
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