第21話 新しい物語の始まり

 文化祭から1週間が経ち、秋の深まりを感じる季節となっていた。校庭の銀杏の木々が黄金色に染まり始めている。


「おはよう」


 振り向くと、結月が笑顔で立っていた。文化祭以降、二人の関係は大きく変わった。お互いの気持ちを確かめ合い、正式に付き合い始めたのだ。


「おはよう」奏太も柔らかく微笑んだ。

「昨日の宿題、終わった?」

「ギリギリだったけどね」


 他愛のない会話が、奏太の心を温かくする。

 文化祭での演奏が好評だったため、二人は冬の音楽コンサートでも『エターナル・モメント』を演奏することになっていた。それに加えて、新曲も1曲用意する予定だった。


「新曲の方は、どう進めていく?」奏太が尋ねると、結月は少し考えてから答えた。

「前みたいに、一緒に作っていきたいな。今度は最初から二人で」


 その言葉に、奏太は頷いた。前世から引き継いだ『エターナル・モメント』とは違い、今度は完全に今世の二人だけの曲を作るのだ。



 放課後、奏太と結月は音楽室でピアノとギターを前に向かい合っていた。


「どんな曲にしたい?」奏太が訊いた。


 結月は少し考えてから答えた。


「『エターナル・モメント』が過去からの繋がりを表現した曲だとしたら、次は……未来に向かう曲がいいんじゃないかな」

「未来に向かう……良いね、それ」


 二人はそれぞれの楽器で様々なフレーズを試し始めた。時にはぶつかり、時には調和する音色。その試行錯誤の過程そのものが、二人にとって大切な時間だった。


「こんな感じはどう?」結月がピアノで爽やかなメロディーを奏でる。


 奏太はギターでそれに応え、少しずつハーモニーを作っていく。


「タイトルは何にしようか」

「そうだね……『リスタート』とか?」

「リスタート……再起動、新しい始まり、か。いいね」

「じゃあ、『リスタート』で決まりだね」



 作業に没頭していると、ドアがノックされ、陽菜が顔を覗かせた。


「まだやってたんだ。新曲の作業?」

「ああ。冬のコンサート用にね」

「すごいね、二人とも。そういえば、この週末、みんなでカラオケに行くんだけど、二人も来ない? 拓海も来るよ」


 奏太と結月は顔を見合わせた。


「行こうか」結月が提案し、奏太も頷いた。



 土曜日の午後、奏太と結月は約束通り駅前に集合した。すでに陽菜や拓海を含む数人のクラスメイトが待っていた。

 カラオケルームに入ると、みんな思い思いに曲を選び始める。拓海がアップテンポのロックナンバーを熱唱し、陽菜がポップスを歌い、場は盛り上がった。

 やがて促された結月が、しっとりとしたバラードを歌い始めると、部屋が静まり返った。澄んだ声と確かな音程で歌う彼女に、皆が聴き入っていた。

 歌が終わると、大きな拍手が沸き起こった。


「すごかったよ」奏太は小声で褒めた。

「ありがとう」結月は嬉しそうに微笑んだ。「次はあなたの番だよ」


 観念した奏太もマイクを握り、誠実に歌う姿に、友人たちは温かく見守っていた。

 歌あり、笑いありの楽しい時間が過ぎていく。奏太はこの瞬間を心に刻みつけたいと思った。前世では味わえなかった、何の制約もない青春の1コマ。

 拓海が奏太を部屋の外に誘った。


「お前と汐見さん、うまくいってるみたいでよかったよ」

「ああ。ありがとう、拓海」

「いや。俺、最初は正直複雑だったんだ。汐見さんのこと、好きだったからな。でもな、お前たち二人の演奏を聴いた時、わかったんだ。お前たちには特別な繋がりがあるって」

「拓海……」

「これからも大切にしろよ、その繋がり」拓海は笑顔で奏太の肩を叩いた。「俺はお前たちの友人として、ずっと応援してるから」

「ああ、ありがとう」奏太は深く頷いた。

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