第14話 文化祭という目標

 夏の太陽が照りつける中、奏太は再び結月の家を訪れていた。今日で3度目の来訪だった。リビングに入ると、テーブルの上には冷たい麦茶と手作りのクッキーが用意されていた。


「ずっとギターの練習してたんでしょ?」結月は微笑んだ。

「うん、わかるの?」

「手の動きが少しぎこちないから。前世だったら気づかなかったかも。でも今は、あなたのことをよく見てるから」


 その言葉に、奏太は少し照れた。


「それで、前回の続きだけど」奏太は話題を変えるように言った。

「Bメロの部分、もう少し広がりが欲しいと思うんだ」


 二人は麦茶を飲みながら、曲の構成について話し合った。


「ここの部分、こんな感じはどう?」


 結月はピアノの前に座り、二人で考えたフレーズを弾いてみせた。奏太はそれに合わせてギターを爪弾く。二人の音色が重なり、部屋に美しいハーモニーが広がった。


「いいね、それ」奏太は素直に感想を伝えた。

「でも、ここからのつながりが……」

「そうね、もう少し工夫が必要かも」


 二人は再び曲に取り組んだ。窓の外では蝉の声が響き、強い日差しが庭の木々を照らしている。夏の暑さの中でも、二人の創作意欲は衰えることがなかった。



 夏休みも中盤に差し掛かった頃、奏太は家族旅行のために1週間ほど結月の家を訪れることができなくなった。


「1週間くらい行けなくなるんだ」電話で結月に伝える奏太。

「家族旅行で」

「そうなんだ」結月の声には少し寂しさが混じっていた。

「楽しんできてね」

「ああ、帰ってきたらまた曲の続き、やろう」

「うん、待ってるね」


 電話を切った後、奏太はベッドに横たわりながら天井を見つめていた。結月と過ごす時間が、いつの間にか彼の生活の中心になっていた。1週間会えないことが、こんなにも寂しく感じるなんて。



 旅行3日目、奏太は旅館の庭園にある東屋で1人ギターを弾いていた。『エターナル・モメント』のメロディを静かに奏でながら、彼は結月との約束を思い出していた。


「正直になること」「素直に気持ちを伝えること」――前世ではできなかったことを、今世では実現したい。


 その時、スマートフォンが鳴った。結月からのメッセージだった。


『旅行、楽しんでる? 私はピアノの練習をしてるよ。早く会いたいな』


 シンプルな言葉だったが、奏太の胸は暖かさで満たされた。彼は迷わず返信した。


『俺も早く会いたい。曲のこと、いろいろ考えてるよ』


 送信ボタンを押した後、奏太は空を見上げた。旅行から戻ったら、今度こそ自分の気持ちを正直に伝えよう。



 旅行から戻った翌日、奏太は約束通り結月の家を訪れた。


「おかえり」結月が嬉しそうに出迎えてくれた。

「旅行、楽しかった?」

「ああ」奏太は頷いた。

「でも、ずっと曲のことを考えてたよ」

「私も! いくつかアイディアが浮かんだの」


 結月は早速ピアノの前に座り、奏太がいない間に考えたフレーズを弾いてみせた。奏太もギターを手に取り、彼女の演奏に合わせる。久しぶりに重なる二人の音色に、互いに満足げな表情を浮かべた。


「いい感じだね」奏太は素直に褒めた。

「これを使って、Bメロからサビへの展開ができそうだ」


 二人は再び作業に没頭した。1週間のブランクを感じさせないほど、息の合った創作活動が続いた。


「そろそろ完成に近づいてきたね」結月は演奏を止めて言った。

「あとは細かい調整と、エンディングの部分」

「ああ。でも、エンディングが一番難しい」

「どんな終わり方にしたいの?」


 奏太は少し考えてから答えた。


「希望に満ちた、でも少し切ない感じかな」


 結月はその言葉の意味を理解したように、静かに頷いた。


「前世への別れと、今世での再出発、みたいな」

「そんな感じだね」


 二人は数時間かけて、曲のエンディング部分を組み立てていった。

 作業の合間、結月がふと言った。


「この曲が完成したら、どこかで演奏したいな」

「演奏?」

「うん。誰かに聴いてもらいたいの。この曲には特別な意味があるから」


 奏太は少し考えた後、「文化祭とか、どうかな」と提案した。


「文化祭?」結月の目が輝いた。

「いいね、それ!」

「でも、そんな機会があるかな」

「あるよ」結月は自信を持って言った。

「2学期の文化祭では、音楽発表の場があるって聞いてる。オーディションに合格すれば、ステージで演奏できるんだって」


 奏太は少し驚いた。


「オーディション?」

「うん。拓海くんが言ってたの。彼、文化祭実行委員になるらしいから」


 拓海の名前を聞いて、奏太は少し複雑な気持ちになった。彼が結月に好意を持っていることを知っている。それでも、この曲を完成させ、二人で演奏することは、奏太にとって特別な意味があった。


「やってみる?」結月は期待を込めた眼差しで尋ねた。

「ああ」奏太は迷わず答えた。

「やろう」


 結月の顔に明るい笑顔が広がった。その表情を見て、奏太は心が温かくなるのを感じた。


「じゃあ、完璧に仕上げなきゃね」結月は意気込むように言った。

「ああ、最高の曲にしよう」


 二人は再び創作に没頭した。文化祭での演奏という具体的な目標ができたことで、作業にも新たな熱が入った。

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