第12話 屋上のクッキーと夏の約束
期末試験の結果が発表される日、教室は朝から緊張感に包まれていた。梅雨明け間近の7月、窓の外からは眩しい日差しが差し込んでいる。奏太は自分の成績表を見つめながら、まずまずの結果に少し安堵していた。数学は相変わらず得意で、特に良い点を取ることができた。
「見せて」
隣の席の結月が、身を乗り出してきた。奏太は少し照れくさそうに成績表を見せた。
「さすが。数学、満点近いじゃない」結月は感心したように言った。
「汐見さんはどうだった?」
奏太が尋ねると、結月は自分の成績表を差し出した。数学の点数が前回よりも20点近く上がっている。
「すごく上がったな」奏太は素直に褒めた。
「秋津くんのおかげ」結月は嬉しそうに言った。
「教え方が上手だったから」
クラスの生徒たちがそれを聞いて、「秋津くん、汐見さんに数学教えてたの?」「そんな仲良かったんだ」と驚いた様子で囁き合う。奏太は少し居心地の悪さを感じながらも、結月の成績が上がったことを心から嬉しく思った。
授業が終わると、結月は奏太に話しかけてきた。
「お礼がしたいの」彼女はまっすぐに言った。
「屋上に来てくれる?」
「屋上?」奏太は首を傾げた。
「うん。今日は晴れてるし、授業も終わったばっかりだから、まだ誰もいないと思うんだ」
奏太は少し考えてから、頷いた。
「わかった」
屋上のドアを開けると、まぶしい夏の日差しが奏太を出迎えた。空は青く広がり、遠くの山々がくっきりと見える。梅雨の晴れ間のような清々しさがあった。
結月は手すりに寄りかかり、遠くを眺めていた。風に揺れる黒髪が、陽光を受けて美しく輝いている。
「来てくれたんだ」彼女が振り向いて微笑んだ。
「何か話があるんだよね?」奏太は彼女の横に立った。
結月はカバンから小さな紙袋を取り出した。
「これ、お礼」
「お礼なんていらないよ」
奏太は戸惑いながらも、袋を受け取った。中には手作りのクッキーが入っていた。
「これ、手作り?」
「うん」結月は少し恥ずかしそうに言った。
「前世じゃ、こういうことあまりしなかったなって思って」
奏太はクッキーを1つ手に取って食べてみた。素朴で優しい甘さが口の中に広がる。
「美味しい」
「本当? よかった」結月の表情が明るくなった。
二人は手すりに寄りかかりながら、静かに景色を眺めた。夏の日差しが徐々に傾きかけ、校庭に長い影を落とし始めている。
「あのね」結月が静かに切り出した。
「夏休み中に私の家に来て、一緒に曲を完成させようって言ってくれたこと、すごく嬉しかった」
奏太は黙って頷いた。
「実は私、家にあるピアノで『エターナル・モメント』の続きを色々試してたんだ」
結月は少し興奮した様子で続けた。
「でも、やっぱり作曲者の秋津くんがいないと完成しない気がして」
「俺も最近、ギターで続きを弾き始めてみたんだ」奏太は正直に言った。
「久しぶりだから指が動かなくて苦労してるけど」
「本当?」結月の目が輝いた。
「それじゃあ、夏休みには二人で本格的に取り組めるね」
「ああ」奏太は頷いた。
「俺も、あの曲を完成させたい」
彼の言葉に、結月はただ微笑んだ。その笑顔に奏太は胸が温かくなるのを感じた。
「夏休みになったら、私の家に来てよね」結月は真剣な表情で言った。
「約束だからね」
「わかった。休みに入ったら連絡するよ」
風が強く吹き、結月の長い髪が舞い上がる。一瞬、彼女の姿が前世の記憶と重なった。病院の屋上で、彼女が風に髪を靡かせていた光景。だが今の結月はより健康的で、生き生きとしていた。
「結月」奏太は突然、彼女の名前を呼んだ。
「何?」
「俺、お前と過ごす時間が……楽しい」
言葉にするのは恥ずかしかったが、正直な気持ちだった。結月は一瞬驚いたような表情を見せた後、柔らかく微笑んだ。
「私も。奏太くんと過ごす時間は特別だよ」
その言葉に、奏太の心拍数が上がった。二人は言葉を交わすことなく、ただ並んで夕暮れの景色を眺めていた。
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