004 冒険者ギルドとドワーフの鍛冶屋
朝、少し肌寒さを感じて目が覚めた。今は一月、季節は冬らしい。
ただ、この辺りは雪が積もらないので比較的過ごしやすいそうだ。北のエルノウッドの森に近い地域では普通に雪が降るらしいが。
さて、この世界で何をするか――昨日一晩考えた結果、結局テンプレ通り「冒険者」になることにした。
異世界に呼ばれたのだから何かをしないとって、転生直後に思っていたのは何だったんだろう。今思えばあの時は、何か強迫感のようなものがあったが、今は一切ない。不思議だ。
冷静に考えれば「後は好きにして」と言われたのだから、好きに生きればいいのだ。
ヘレナさんに確認したところ、「冒険者」という仕事はやはり存在していた。ダンジョンに潜るには冒険者登録が必須で、ギルドカードは身分証明にもなる。どのみち登録する必要があった。
そしてこっそりヘレナさんを〈鑑定〉したら、種族が「ヒューマン」だった。この世界で見た目が普通の人間に見える人の種族は「ヒューマン」らしい。俺も自分の種族を「天空人」から「ヒューマン」に書き換えておいた。
さらにヘレナさんは〈料理[5]〉のスキル持ちだった。
たかがスキルレベル5と侮るなかれ。レベル5というのは、スキルをゼロから習得した場合、最短でも四十八年はかかると昨晩読んだ本に書いてあった。生まれつきレベル4を持っていても三十六年だ。つまり現在二十八歳のヘレナさんは、生まれながらにしてレベル5の〈料理〉を持っていたということになる。
しかもレベル5から6へ上げるには最短百九十二年。ヒューマンの平均寿命八十年では到底届かない。ヒューマンでレベル6以上のスキル持ちは、生まれつきか、あるいは勇者のように〈全スキル経験値アップS〉といった特殊なスキルを持つ者しかいない。
だからヒューマンのスキルは多くがレベル5止まりであり、6以上を持つ者は「天才」と呼ばれる。
そういえば、昨日王城から持ってきた金貨、一袋に金貨が三百枚入っていた。それが五袋。計千五百枚。
昨日買い物していて、ほぼ「一G=一円」だなと感じていたので……千五百万円分も貰ってきたことになる。ちょっと貰い過ぎたな。もう返さないが。
それと持ってきた武器や防具たち。よく見なくても統一されたデザインだ。ということは、使ったら王城の武器だとすぐにバレることに今ごろ気づいた……このまま使えない。
仕方なく〈分解(空間)〉で元素まで還元、〈合成(空間)〉で鉄のインゴットに作り替えておいた。鉄以外の成分は元素のまま保管してある。
ちなみに、〈合成(空間)〉で剣が作れないか試したが無理だった。インゴットのような単純な形にしかできないみたいだ。
さらに、昨日読んだ本の中に――なんと〈性魔法〉の本があった。それも「禁書庫」からごっそり持ってきたほうに入っていた。
驚いたことに、〈性魔法〉は普通に教会で使われている魔法だった。
――ただし第四階梯まで。
第一階梯〈
第二階梯〈
第三階梯〈
第四階梯〈
ただし第四階梯は、聖人と呼ばれる神に誓いを立てた六十歳以上の女性しか教えてもらえない。それ以外の教会の人が使えるのは第三階梯まで。まあ第四階梯は明らかにエッチな方で使えるからね……。
そして第五階梯以降は禁呪扱い。内容自体が秘匿され、鑑定すら禁止。
しかし、かつて〈性魔法[10]〉を持つ勇者が存在したため、その「プリセット魔法」の記録が禁書には残されている。
俺も昨日の鑑定で第八階梯までしか把握できなかったが、この本で第九、第十階梯の内容を知ることができた。
◇
朝食にバタートーストとコンソメスープ、目玉焼きにサラダを平らげたあと、ヘレナさんに教えてもらった冒険者ギルドへ向かった。
王都アルトヴィアには冒険者ギルドが四つもある。王都の冒険者の数が増えすぎて対処できなくなり、順次増設した結果らしい。
北西の商業区、北東の居住区、南東の上層居住区、南西の宗教・学術・軍事区にそれぞれ一つずつ。どれも王城の近くにあるのは、王城の地下にダンジョンがあるからだ。
王都の外に魔物はほぼいないので、王都の冒険者の主な仕事は、そのダンジョンに潜るか、商人の護衛をするかの二つに絞られている。
今日向かうのは宿泊している『翠風亭』から近い、商業区のギルド。この国の冒険者ギルド本部でもある。
辿り着いた商業区の冒険者ギルドは想像していたよりもはるかに大きな建物だった。
外から見ても、とにかく圧倒される。分厚い石の壁に、黒鉄の柱。三階建てなのに、王城と同じくらい高く見える。正面の門にはヘレナさんに聞いていた「盾に剣が二つ交差したマーク」のギルドの紋章が大きく刻まれ、旗が風に揺れていた。
恐る恐る扉を押して中に入ってみると――
そこは冒険者ギルドで間違いなかった。だが入った途端、俺に視線が集中した。
何故だ? 何故大注目される? おかしな格好はしていないはずなんだが……?
とくに左手のテーブルを占拠していた女性冒険者たちは、露骨に値踏みするような目を向けてきた。男性冒険者たちは不満げに睨んでくる。なんだこの状況。
……とにかく目的を果たそう。
受付が二十五もある、とても大きなギルドだ。右手の受付のほうだけ見ると、メガバンクの本店のようだ。いや、元の世界でもここまで受付の数があっただろうかと思う。
今の時間はピークからずれているのか、開いている受付は五つで、並んでいる冒険者もいなかった。そのうち一番近い窓口へ向かう。
「いらっしゃいませ。ご依頼ですか? それとも冒険者登録でしょうか?」
そこにいたのは肩くらいまでの長さの金髪で青い瞳のかわいい女性だった。胸の名札には「サフィラ」と書いてあった。
しかし、この人も大きいな。Fカップくらいはありそう……いや、違う! 名札がそこにあるのが悪いんだ!
気を取り直して視線を上げる。
「冒険者登録をお願いします」
「はい。それでしたらこちらの紙に必要事項をお書きください。文字は書けますか?」
「はい、大丈夫です」
記入するのは名前、職業、主なスキル。職業は剣士や魔術師など。
俺は名前を「アレス」、職業は「魔法剣士」、スキルは「闇魔法と回復魔法」にした。剣のスキルは一切ないが、剣は使ってみたい。ただそれだけで職業を決めた。
職業とスキルの内容は後から変更できるらしいので、とりあえずこれでいいだろう。
水晶玉に手を乗せたり、血を一滴取られたりとよくある登録の“儀式”の後、説明を受けてEランクの鉄製ギルドカードを受け取った。討伐記録やダンジョン踏破階層が自動で記録される魔道具で、失くすと大変らしい。
Eランクの主な仕事は薬草採取。エルン草と呼ばれる薬草十本で一束、百G。
宿代を稼ごうと思うと結構大変だが、スライムやゴブリンも倒していいらしい。エルン草は地上よりもダンジョンで採るのが普通らしく、そこにスライムやゴブリンがいるそうだ。
その王都のダンジョン『王城の地下迷宮』は、別名《馴れ初めのダンジョン》。ここがきっかけで恋人や夫婦になる冒険者が多いためらしい。
「どうしてそうなるんですか?」
「それはCランクになればわかると思いますよ」
そう言いながらサフィラさんは、ちょっとだけニヤリと笑った。結局教えてくれなかったが、急ぐ理由もないので気にしないことにした。
むしろ「最下層のダンジョンコアまで辿り着くと称号やスキルを貰えることがある」という情報が気になった。
だいぶ先の話になるだろうが、ダンジョンコアは目指したい。称号やスキルは、なんぼあってもいいですからね。
ダンジョンのマップは冒険者ギルドで配布していたので貰った。草の見分け方をギルドの図書室で確認した後、サフィラさんに紹介された武器屋へ向かうことにした。
……ギルドを出るとき、女性冒険者のテーブルでは男性冒険者がせっせとナンパしていた。なんなんだ、この冒険者ギルド。
通りの奥に、少し古びた看板が揺れる店があった。
――サフィラさんに紹介されたドワーフの武器屋『ブラスアーム鍛冶工房』。やっぱりいたかドワーフ。
店主のドルガンさんは、百二十センチほどの小柄な体格に、少し尖った耳と豊かな白髭、後ろで束ねた白髪。筋骨隆々の典型的なドワーフだった。
「おう、坊主。新人か? 最初はそのあたりの鉄製の数打ちがおすすめだぞ」
壁や棚には剣や斧、槍、鎧がずらりと並んでいる。量産品の鉄武器。どれも同じ形で同じサイズ、品質は並以下だが、初心者向けなら妥当だろう。
ただ、さっきこっそりドルガンさんを鑑定したときに見えた称号とスキルを考えると、この程度の品しかないのは不自然だ。恐らく弟子か他の職人が作ったものだろう。できればドルガンさんが作った武器を使いたいな。
「例えば……インゴットを持ち込んで、武器の作成を頼むことはできますか?」
「まあ、インゴットの質次第じゃな。粗悪なら断るが、受けるなら完成まで一週間はかかるぞ」
今持っているのは鉄のインゴット八十四個。どうせ作るなら鋼にしたいから、鋼のインゴットができたら頼んでみよう。
今日は数打ちのものから選ぶことにした。剣を使いたいと言うと、ドルガンさんが「それならショートソードとナイフを買っておけ」というので、その二つを買った。鉄のショートソードが三万G、鉄のナイフが一万G。思っていたより高かったが、鞘も含めすべて手作りだと考えれば妥当な値段なのかもしれない。
『ブラスアーム鍛冶工房』を出ると、まだ昼前。
屋台で肉串やスープを買い込み、アイテムボックスに放り込んで――いよいよ、ダンジョンへ向かうことにした。
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