三 効果
「ねえ、ぜんぜん幽霊見えないんですけどお! 声もラップ音も聞こえないし! なに? 新手の詐欺かなんか? 降霊術詐欺?」
さらに部活(ちなみにバドミントン部)も普段通りに終えた後、夕陽に染まる帰り道でアヤカが文句たらたらに不満を口にする。
「確かになんも起きないね。詐欺とはいわないまでも、ただの都市伝説だったってことかな? まだ一日も経ってないし、もう少し待てばなんかあるかもだけど」
アヤカの文句にユウリも同調し、半ば諦めているような口ぶりでそう答える。
「ま、まあ、こういう降霊術系の遊びって、実際はそんなもんなんじゃないの?」
一方、わたしはガッカリするよりもむしろホッと胸を撫で下ろすような心持ちで、二人のその会話に参加していたのであったが。
「……あ! 見てあそこ! なんかヤバくない?」
ふと立ち止まったアヤカが斜め上方を指差しながら声をあげる。
「……ん?」
それにユウリとわたしもそちらを覗うと、高層マンションの屋上に白いワンピースを着た女性が一人立っている。しかも、立っているのは屋上の縁の、転落防止用の柵を越えたその外側だ。
「確かにあれはマジでヤバイかも……」
「ど、どうしよう……こういう時はやっぱ警察に…あっ!」
事態の深刻さに気づき、ユウリとわたしも俄かに騒ぎ始めようとしていたその時、女性はわたし達の見ている前でふらりと屋上から身を踊らせた。
そのまま女性は重力に引かれ、真っ直ぐ頭から地面へと落下してゆく……刹那の後、バチーン…! とゴムの弾けるような音が周囲に響き渡る。
わたしは咄嗟に目を硬く瞑り、無意識に追ってしまった方向から目を背ける。たぶん、アヤカとユウリも同じだったと思う。
……見てしまった……わたし達は飛び降りの瞬間を見てしまったのである。
あの音からして、現場はひどい有様になっているに違いない…… 怖いもの見たさといおうか、わたしは恐る恐る、薄らと目を開いて前方の地面の上を確認してみる。
「……え?」
だが、そこに見えたものは、予想していた光景と大きくかけ離れていた……いや、見えたというか見えないのだ。そこに横たわっているはずの、飛び降りた女性の姿がどこにもないのである。
帰宅時間ということもあり、路上にはわたし達以外にも通行人がチラホラといたが、そういえば誰も騒いでいないし、それどころか何事もなかったかのように平然と歩いている。
「え、どういうこと? 確かに今、飛び降りたよね?」
「うん。スゴイ音したし……でも、なんもないよ? 血とかもぜんぜん飛んでない」
予想外の状況に、同じくアヤカとユウリも混乱しているみたいである。
何かを見間違えたのか? いやでも確かにあれは白いワンピースの女性だった。見間違いとはとても思えない。
「……ねえ、もしかして今のって、つまりは幽霊ってやつなんじゃないの?」
わけがわからず、三人でキョロキョロと辺りを見回していると、アヤカが自分でも半信半疑というような口振りでそう呟く。
「……うん。はっきり見たから見間違いとかじゃないし、なのに消えたってことは……そういえばここのマンションって、前に飛び降りあったとこじゃない? しかも今くらいの夕方に……」
それにユウリも頷くと、過去に起きた事件のことを思い出してその口にする。
「ま、まさか。そんな……幽霊だなんて……」、
わたしは控えめに否定するも、心のうちではほぼ確信に変わっていた。
霊感が強くなるという〝ロクブテさん〟……タイミングよくもそれを行った日に起きた不可解な現象……その因果関係を否定することの方がむしろ難しい。
「じゃあもう決まりだよ! やった……ついに幽霊見ちゃったよ! これってつまり〝ロクブテさん〟の効果だよね?」
ユウリの話からアヤカも確信を強め、わたしも思ったことを興奮気味に声に出して言う。
「うん。そうとしか考えられないね。幽霊なのか残留思念なのかはわかんないけど、あたし達、〝ロクブテさん〟のおかげで霊感少女の仲間入りだよ!」
さらにユウリもアヤカに続き、嬉々とした顔ではしゃいでいる。
その気持ち、わたしもわからなくはない……まあ、見たものにもよるのだろうが、初めて目にした幽霊は思ったほど怖いものではなかった。不謹慎ながら、むしろ感動したとでもいうか、なんだか不思議な感覚である。
もとから〝視える〟人間にはわからないかもしれないが、UFOやUMAを目撃するのと同じように、霊感のない者にとっては心揺すられる体験なのだ。
「よーし! これからは幽霊見まくるぞー!」
「オーっ!」
わたし以上に感動を禁じえないアヤカとユウリは、わけのわからない気合いを入れてますます浮かれ騒いでいる。
だが、この後、本当に〝ロクブテさん〟のおかげで霊感がついたのか? 奇しくも二人の宣言通り、わたし達は次から次へと幽霊を見まくることになるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます