第43話 衣装準備
《side 庵野紘子》
文化祭の準備が始まって、私は自分でも驚くほど、クラスの人たちと話すようになりました。
これまで人と話すのが怖くて、顔を隠してきたのに、無形くんと話すようになって、三浦さんから話しかけてもらって、テスト勉強をして、みんなから注目されました。
文化祭の担当も先生が推薦してくれて、無形くんの補助をします。
今までの私では考えられない状況にどうしたらいいのかわからない。
だけど、無形くんと一緒に頑張りたい。
読み合わせをした次の日、放課後に教室の前で三浦さんに呼び止められた。
「庵野さん、ちょっと衣装のイメージ見てほしい。台本読んでるなら、感じたままで大丈夫だから教えて」
「わ、私でいいんですか?」
「むしろ、こんな時は男子よりも庵野さんの方がいいよ。来て来て」
教室の中には布見本とスケッチ、三浦さんのお友達二人が待っていた。
「小柄な方がアンね」
「よろしく」
「こっちの黒いのがフウ。メイクだから怖くないから」
「ども〜」
「そんで私はユア、よろしくね」
それぞれ笑って手を振ってくれる。緊張が少し下がる。
「じゃ、それぞれの配役と時代背景に合わしたキーワード、庵野さんの言葉でもらえる?」
重要な役をする四人以外にも登場する人たちに衣装を作らなくちゃならない。
それによって雰囲気を出すために、無形くんが頑張ったシナリオを壊さないために頑張りたい。
「まず……主人公の青年(日野さん)は、中世ヨーロッパの平民男性の衣装が良いと思うので、こんな感じで」
「なるほどね、柔らかいシャツにオーバーオールのズボンだね。靴は音が出にくい運動靴と」
フウさんがメモをとってくれる。
見た目とは違って三人とも真剣に私の話を聞いてくれる。
「ヒロインの幽霊(桐谷さん)。白いワンピースに化粧で血色の悪さが出ると良いと思います!」
「じゃ、薄い生地だけど二重にしよっか。裾はふくらはぎ。白ワンピで、光りすぎない飾り」
アンさんと、三浦さんが、私の話を聞いて、化粧と衣装を合わせるように考え始める。
「相棒の書記(アキラくん)。制服の応用で、メガネやペンノートなどの小物で」
「ポケット多めのベストもいいかもね。腰ポーチ、羽ペンの小道具、色は茶系」
フウさんがスケッチに描き足す。三人とも絵も上手で、私の言ったことがどんどんイメージが固まっていく。
「ライバルの騎士(岡部くん)。鎧に見える衣装と、小道具の剣とか」
「軽いマント。肩留め具。剣は発泡素材。色は濃紺か赤ね」
三浦さんが四人分を書き終えると、アンさんが布見本を広げた。
「色、合わせてみよ。青年は黒×薄グレーでコントラスト弱め。幽霊は白×ほんの少し青み。書記はキャメル。騎士は濃紺」
「はい……この白がいいと思います。舞台灯りで透けない厚さです」
指で一枚を指す。同じ見本を持って、蛍光灯の下にかざす。
「たしかに透けない。肌の影も出にくい。これ採用」
次に飾りの位置。
「首元は詰める台本なので、腰に細いリボンを一本だけ入れるといいかもです。色は白に近い銀。目立ちすぎないように」
「了解。幅は一センチね」
青年の小物も決める。
「青年は杖でいいんだよね? 盲目でしょ?」
「はい。杖があることで、盲目の表現が伝わりやすいです」
「オッケー。カフスなしのボタンに変更して、杖の準備と」
書記のベストはポケットの数を相談。
「三つで足りる?」
「前に二つ、内ポケットに一つ。羽ペン、巻物、ハンカチ。三つで足ります」
「りょーかい」
騎士のマントは長さを決める。
「膝下までだと危ない?」
「膝上が安全です。段差で引っかかりません」
「じゃ膝上。フェイクレザーの留め具付けるね」
一通り決まると、三人が顔を見合わせて笑った。
「庵野さん、すごく助かった」
「説明がわかりやすい」
「台本読んでる人の言葉って感じ」
「いえ……ありがとうございます」
三人から褒められて、恥ずかしくなってしまう。
「あとさ」
三浦さんが言う。
「私たちのこと、あだ名で呼んでほしい。堅いの苦手だから」
「えっ」
「私はアンでいいよ」
「私はフウ」
「私はユア。敬語もなくなれば嬉しいな」
急に距離が近くなった気がして、胸が熱くなる。でも、逃げる理由はない。
「じゃ、あの……アンさん、フウさん、ユアさん。よろしくお願いします」
三人が「やった」と小さく声をそろえた。
「庵野さんは? なんて呼べばいい?」
「紘子で……大丈夫です」
「じゃ、ヒロちゃんでいい?」
「ヒロちゃん!!! ……はい」
名前を呼ばれて、体が軽くなる。
「ヒロちゃん、これ持って」
フウさんがマチ針を渡す。
「この位置で固定してみて」
トルソーの腰位置に細いリボンを当てる。ユアさんが後ろから見て、位置を直す。
「あと五ミリ下。うん、そこ」
テープで仮止め。ユアさんがメジャーで長さを測る。数値をスケッチ横に書き込む。
「OK。今日はここまで。ヒロちゃん、次は色合わせ一緒にやって」
「はい。呼んでください」
帰り際。三人からそれぞれミニチョコを一個ずつもらう。
「糖分、大事」
「勉強のとき食べて」
「また来てね」
「ありがとう。食べます」
扉の前で会釈すると、ユアさんが親指を立てた。
「ヒロちゃん、ナイス合流。次も頼むね」
「……はい」
廊下に出る。歩きながら口の中で小さく復唱する。
「アンさん、フウさん、ユアさん……」
名前が口になじむ。明日の準備の予定を手帳に書く。
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