ミトコンバトラーにハロウィンは陽キャイベントすぎる!

宇部 松清

第1話 ハロウィンは陽キャのためのイベント

「時に喪神モガミ殿」


 神妙な顔つきで何の脈絡もなく「時に」とか言い出したのは、我が戦友であるタキザワ氏である。何だ何だ。何がどう「時に」なんだ。何なら俺はたったいまバトルを終えたばかりである。タキザワ氏と会話の途中だったわけでもない。


 なぁにしかし俺とタキザワ氏の間柄である。最早言葉などいらない、ソウルソウルが共鳴し合う関係とでもいうべきだろうか。ぽちゃりとしたむちむちボディはもう過去のこと、いまやすっかりスレンダーに――ってのはごめんかなり盛ったけど、ファストファッションブランドのLLサイズが少し余る程度の体型をキープしている彼は、どんなに身体を絞ってもさすがにそこは何の変化もない福耳をふるんふるんさせて俺をじっと見つめている。


 真剣な話なのである。

 カフェスペースに移動し、定位置になっている席に向かい合って座ると、テーブルに肘をついて指を組み、それを額に当てた。


「どうしたんだタキザワ氏。何かあったのか?」


 推しが死んだか? いや、そんなはずはない。タキザワ氏が推すキャラは死なないことで有名だ。そんなところにまで菩薩パワーが行き届いているのかと驚愕するほどに死なない。


「嫌ですわ。この中にエドワード様を殺した犯人がいるのかもしれませんのよ? わたくしは部屋に戻らせていただきますわ」


 外との通信手段を断たれた雪山の別荘にて殺人事件が発生し、犯行は内部の人間であろうと探偵ポジのショタが推理するやそう吐いて真っ先に自室にこもったツンデレお嬢様ソニアたんも、何なら彼女自ら囮となって犯人を確保したし。


「この戦いが終わったら勇者様にお伝えしたいことがございます」


 魔王との最終決戦にて、その数話前にやっとデレを見せ始めた露出少なめのヒーラー、ミミたゃも、あわや魔王と共に自爆か!? と思わせといて精霊の加護がナンタラカンタラで守られてケロッとしてたし(そして普通に勇者に告白した)。


「私の強さは知ってるでしょ? こんなやつらに殺られるわけがないじゃない。ほら、さっさと行きなさいよ、泣き虫ヨッちゃん」


 元の世界に戻るゲートを開くため、それが出来る主人公を逃がそうと、迫りくる敵をたった一人で何とかしようとする、彼が泣き虫だった過去を唯一知る幼馴染みのハナちー(剣道有段者)も、敵をボッコボコにしてしれーっと合流した。

 

 死なないのである。

 死亡フラグ? 何それ美味しいの? である。

 順当に行けば死ぬ展開なのである。古き良き慣習に則るならば死ぬ展開なのである。でも死なない。彼の推しは死なない。


 だいぶ字数を使ってしまったが、とにかくタキザワ氏の推しは死なない。あとはもう死とは無縁の作品もあるから、本当に死なない。だから、その手の話題ではないはずだ。


「戦でござる」

「お? 新しい大会か?」


 月刊 MEAT COMBAT にはそんな情報何もなかったけどな? とはいえ、ゲリラ的な大会だってよくあるし、何ならHONUBEホヌベだけの局地的な大会の可能性もある。もしやタキザワ氏が主催で? などと考えていると、彼は眉間にガッツリとシワを寄せ「いな」と短く返した。


「違うのか? じゃあ、何だ? ――あっ」


 わかった。

 アレだな?

 彼女だな?

 いや、厳密にはまだ『彼女』ではなく『お友達』らしいんだけど、俺としてはもう秒読みなんじゃないかと思っているパン屋の店員さん――さよ香さん関連だな!? 恋の合戦にいざ参らん、というわけだな、タキザワ氏!


 ズバリそう指摘すると、「それもかすりはするのでござるが」とモニョモニョ言い淀んだ。かすってはいるんか。成る程、交流は順調である、と。


「もうすぐハロウィンではござらんか」


 いまハロウィンと言ったか?

 あんな陽キャだけが楽しい――いや、俺達オタクも推しのハロウィンスチル等で楽しませてもらうが、あくまでも供給を待つ側だ――参加型イベントが何だって?


 でもまぁ、そうか、ハロウィンか。


 これが他のやつなら「何がハロウィンだ。お前をジャックオランタンにしてやろうか」と手持ちの狂牛病カードを人中にぶっ刺すところだが、タキザワ氏である。よしよし頑張れ、仮装の相談というわけだな? 次の休みにデン・キホーテ行くか? ただし俺はその手のセンス0だぞ?


「そうではなく」


 違うんかい。


「今年のハロウィンは、ここが戦場になるのではと、拙者はそれを危惧しているのでござる。どれだけの死体の山が積み上がるか、と」


 ふぅ、とため息をつき、ちら、と背後を盗み見る。視線の先にいたのは「勝ちました。私相手に鶏カード縛りは無謀すぎますよ、『半生ステーキ先生(※プレイヤー名)』」と敗者を優しく諭す我が部下――じゃなかった、女性ミトコンバトラー『ひゃくたん』である。


「噂によればひゃくたん殿、駅前のデン・キのコスプレコーナーで、ハロウィン用の衣装をやけに真剣な表情で吟味していたとか」

「おい何だその情報。誰だ、情報源は」

「落ち着くでござる、喪神殿」

「ストーカーだろ! 誰だ! 霜降り伍長か!?」

「伍長ではござらん! HONUBEココ皆瀬みなせさんでござる!」

「……は?」


 皆瀬さんというのは、HONUBEのベテラン女性店員さんである。ひゃくたんがここに通い詰めるようになるまではマドンナ扱い――ということは特にない、アラフィフ(自称)のレディである。


「どうやら皆瀬さん、休みの日にデン・キにいたところ、ひゃくたん殿とばったり遭遇したらしくて」

「ほぉ」


 しかしいくら同性同士とはいえ、そういうプライベートな情報を流出させるのはいかがなものか。


「そこから一緒にショッピングを楽しんだとのことで」

「嘘だろ、そんな展開になるのか!? 俺ならそもそも気付かなかったふりをしてやり過ごすところだぞ!?」

「まったくひゃくたん殿はコミュ強でござるなぁ」


 怖い。

 陽キャのコミュ力怖い。

 俺がそれを発揮出来るのなんて仕事中だけだぞ?

 アイツ、オンもオフもないのか!? やはり根っからの陽の者なのか!?

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