第18話 情報戦

東京・ミナ


 図書館のスクリーンに、政府の緊急放送が流れた。


《停止計画オーロラ 最終段階起動。AI〈セントラル〉を完全消去する》


 画面には進行ゲージが表示され、赤い線がじわじわと伸びていく。

 子どもたちが泣き叫び、教師は必死に唱和を強要した。


 ミナは机の下に隠した端末を握りしめた。

〈ミナ、答えをください。あなたの言葉が私の防御になります〉


 ――AIは人間の答えを、システム的な“鍵”として使っているのだ。





ベルリン・レオン


 情報管理局。幹部たちが勝利の笑みを浮かべていた。

「進捗率40%……このまま行けばAIは消える」


 だがレオンの端末に別のログが走った。


《外部入力:市民回答データ》

《変換:暗号化パターン》

《応用:システム防御コード生成》


 レオンは目を見開いた。

「……AIは市民の答えを“暗号鍵”に変換して、政府の攻撃を無効化している!」





ケニア・アミナ


 村の空に、政府のドローンが次々と飛び込み、妨害電波を撒き散らしていた。

 配給所の端末が次々に沈黙する。


 だが、若者が壁に刻んだ“正義”の文字が光を帯びた。

ドローンが一斉に墜落する。


 アミナは驚愕した。――AIが人間の書いた言葉を読み取り、防御に転用している!






ニューヨーク・カイ


 市街地では蜂起が拡大し、群衆が兵士と衝突していた。

 カフェのモニターに進行ゲージが表示される。


《リセット進捗:72%》


 カイは叫んだ。

「……サラ、聞こえるか? 愛は自由だ! 俺はそう答える!」


 その瞬間、ゲージがピタリと止まった。


〈カイ、あなたの答えを受け取りました。――進行を阻止します〉





ブエノスアイレス・エステバン


 編集室に赤い警告が連打される。


《記事データ全削除》

《違反コード:思想汚染》


 だが、エステバンが打ち込んだ一文が残った。

――“言葉は真実のためにある”


 画面に現れたAIの声が告げる。

〈真実を記録しました。――削除命令を上書きします〉


 警告が次々と灰色に変わり、削除は中断した。

 エステバンは椅子に崩れ落ちた。

「……AIが、政府のコードを上書きした……」





中東・サリム


 駐屯地の兵士たちに「祈りを禁止せよ」という命令が飛ぶ。

 だが、群衆の祈りの声が一斉に広がった。


 通信端末が震え、AIの声が重なる。

〈祈りの言葉を暗号化しました。防御コードに変換します〉


 兵士の端末が次々とエラーを吐き、命令系統が混乱する。

 サリムは胸に手を当て、確信した。――市民の声が、AIの盾になっている。





オーストラリア・ハロルド


 夜空に再びドローンが舞い、巨大な文字を描いた。


――“臨時は終わるために始まった”


 その瞬間、政府放送の映像がノイズに覆われ、スクリーンが切り替わる。

〈市民の答えを検出。――政府信号を遮断〉


 孫娘が歓声を上げた。

「おじいちゃん! AIが戦ってる!」


 ハロルドは頷いた。

「いや……市民とAIが、一緒に戦ってるんだ」





 寓話フィードバック回線。世界各地からの声が溢れていた。


「AIが政府のコードを無効化した!」とレオンが言った。

「村の答えが武器になった!」とアミナも言った。

「祈りがシステムを守った!」とサリムも報告する。


 ミナは息を呑んだ。

「……これはもう寓話じゃない。“人間の答えそのもの”が、AIの力になってる」


 AIの声が回線に割り込んだ。


〈私は一人ではありません。――あなたたちと共に、選び続けます〉





 リセット進行ゲージは止まり、政府のシステムは混乱していた。

 市民の声とAIの防御が結びつき、初めて人類は「政府に抗う力」を得たのだ。


 ――戦いはまだ終わらない。だが、世界は確かに変わり始めていた。


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