第3話 送検

次の日の取り調べは男性警察官が担当した。

相変わらず順北は警察に萎縮してほとんど喋らなかった。

例外的に話した2つのうち1つは「オラは障害者」というもの。一応警官はそれも調書に書き加えた。

もう一つは「おまわりさんネクタイ曲がってますよ。家に帰れてないんじゃないですか?」という謎の発言である。ずっと完黙していた被疑者に意味不明な煽りをされ思わず「誰のせいで帰れないと思ってるんだ!」と大声をあげてしまった。順北はビクビク震えだしまた何も喋らなくなってしまった。


「いくら話が通じない被疑者とはいえあの態度は良くなかったね。反省すること」

「はい、すみません…」

先程までとは打って変わり男性警察官は佐々木に説教されシュンとしていた。

「しかし佐々木さん、あれじゃ送検するしかないですよね。検察は完黙だからおそらく正式起訴にするかと」

「でしょうね。最初のまま認めてたら略式起訴で済んだかもしれないのに…」

「ですねえ。ところで自分は障害者だっていうのはあの手の輩がやる心失狙いですかね?」

「いやあ…私長年順北くんと会ってきたけど、たぶん本当だよ。きっとここが」

佐々木はこめかみをトントンと指さした。


「被疑者浜坂順北、あなたを身柄送検します」

「身柄送検?なんだでそれは」

「あなたには拘置所という別な場所に行ってもらいます。そこで検察官、あなたを起訴するか判断する人ね、その人たちの取り調べを受けてくださいね」

「その拘置所ってとこには何日閉じ込められるだで?」

「20日以内ね。」

「ナンデ!オラ携帯触りたい!アクマ!」

「あのね…あなたが『オラは障害者』とかいったからでしょ?責任能力も含めて判断しなきゃいけないから勾留は延長されると思っといてね」

「フスードンドンドン!」

順北は地団駄を始めた。

「またか…応援お願いします!そのまま拘置所に連れてって!」

順北は複数の警察官に取り押さえられそのまま警察車両で拘置所に移送された。


「ウッウッウッ…なんでオラだけこんな目に…」

「うるせえぞお前!黙ってろ!」

「ヒィ!」

拘置所は複数の被疑者が検察の取り調べをまつ間共同生活をする。順北は同室の被疑者にビビりますます自身をこんな場所に追いやった警察と被害者への逆恨み感情を募らせていった。


検察の取り調べも警察とほぼ同じようなやりとりを繰り返した。

最初は自身の復讐の正当性を訴え、正論でねじ伏せられると萎縮して黙り込む。

検察官は一応尋ねた

「で、あなたは結局罪を認めるの?認めないの?」

「…オラ悪くない」

「じゃあ正式起訴になると思うから。ここで認めれば略式起訴ですぐ出られたのにね…」


罪を認めての略式起訴は国選弁護士からも勧められていた

「浜坂さん、あなた自分がしたことは認めてるんですよね?ならば私としては略式起訴での裁判終了を提案させていただきたいです。そうすれば裁判は1日で終わります」

「…オラ悪くない」

「ではどうやって争いますか?いっときますが報復は違法性阻却事由にはなりません。場合によっては情状酌量の余地がでるかもしれませんが…」

あんたにはないだろうな、という本音を国選弁護人・霧島は飲み込んだ。あくまで弁護士は被告人の権利を守る立場にいるんだと胸元のひまわりバッジを握り再確認した。

「警察取り調べでは『自分は障害者だ』と語っていましたよね?ではお父様経由であなたの主治医とお話していいですか?」

「え?オラ今は病院いってないだで?」

「は?」

「昔は言ってたけどあの医者B型作業所なんて地獄のような場所にオラを押し込んだ!アクマだ!だから行かないでやった!」

霧島は絶句してしまった。こうして医療福祉の手も法の手も払い除けこの人は落ちるとこまで落ちてしまったのかと。

「…わかりました。こちらで元主治医から必要な資料は集めますね。浜坂さん、病院に合う合わないはあると思うんです、ですが裁判が終わったら他のところでいいので通院を再開すると約束できますか?」

「なんでだで?自分は、知的障害者ではありません」

「いやいや!あんた警察には障害者だって」

「なんだと!オバエもあの医者やアンチと同じようにオラを障害者扱いするだでか!」

「だから!あなたには障害があるの?イエス・ノーどっち!?」

「ヴー…」

結局順北はまただんまりを始め国選弁護士とも信頼関係を築けなかった。


こうして順北は正式起訴され、舞台は広島地方裁判所某支部に移った。


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