家に入り浸っているピンク髪ダウナーギャルのタコ娘先輩が、ねっとり粘着質に甘やかしてくれる

浜辺ばとる

第1話 入り浸りダウナーギャルと放課後入り浸り



 ◯放課後、あなたの家。

 

「だーれだ」


 SE:触手が取り巻く音。

 

「せーかい。よく分かった、ね」

 

「おたく君の周りでこんなことするやつ、あいりしかいない? べとべとした触手しょくしゅ使う人もあいりだけ?」

 

「へー、そうなんだ。なんか嬉し」

 

「え、褒めてなかったの? なーんだ」

 

「ん? なんで家に勝手に上がり込んでるのって? もちろんマンガ読みに」

 

「そういう話じゃ、ない? チャイム押しても反応なくて、いないのかなぁ、ってドアノブ回したら、玄関の鍵開いてた」


「だから入ってきた」

 

「もー、ごめんーってば。にしても、体触るまで気づくかなかったおたく君も悪くない?」


「おまけにベッドに寝転がっちゃってさ。不用心すぎ。誰かに襲われても知らないから」


「ったく。あいりの侵入許すくらいナニに夢中になってんのー」


 // あいり、右側に回る。

 

「は? それキツメの最新刊じゃん。ひとりでお楽しみしてんの? まじ、ありえなくない?」


「楽しいことは仲良く一緒にするもんっしょ。ほら、つめるつめる」


 // あいり、距離が近づく。

 

「さすがにシングルベッドにふたりは、ぎゅーぎゅーで狭いね」

 

「あれー、おたく君、右腕どうしたの? ギプス巻いてんじゃん」


「あ、あれだ。俺の右手がうずくーってやつだ」


「アニメとかマンガ好きなのは全然いいけどさ。あいりも好きだし? でも、高校生にもなってちゅーにびょうは、ねえ」

 

「ん。違うんだ。おたく君そういうの好きそうだし、てっきりそうかと思った」


「へー、体育の授業でぶつかってこうなった? 雑魚すぎじゃん」


「てか、普通ぶつかってそんなことなる? 体育に相撲ってあったっけ」


「いや、ぶつかり稽古でもしたんかなあって」

 

「うんうん、授業はサッカーだったけど、運悪く相手がラグビー部のミノタウロスだった、と。うわあ、ごしゅうしょうさま」

 

「おたく君、人間なのによくそれだけで済んだねえ。体バラバラになってもおかしくなかったレベル」


「ん、鍛えてるから? うわ、力こぶなんて見せてきてさ、おたく君のくせに生意気」

 

「でも、その右腕じゃマンガめくりにくいっしょ? あいりが右側支えたげる」

 

「そんでおたく君が左手でめくんの。これならうちらの真ん中におけるっしょ? あいり頭いい?」

 

「んふー。でしょ? じゃあ読んでこ」

 

「ちょい待ち、なんでさっき読んでたところから読み進めようとしてんの。ほら戻って」

 

「前の巻の最後のページ、めっちゃ気になるところで終わってたんだよね。どんな始まり方するのか、わくわく」

 

「ええー。こんな感じで始まんの!」


「あは、あいりの声うるさすぎかって。おたく君ごめーんね」

 

「うわー、ここふたりが裏切りものだったかあ」

 

「まあ、猫と狐っていかにも裏切りもんっぽいしね」

 

「だってさ。泥棒猫、とかいうじゃん。それに狐は化かしたりするし」


「どっちも目がキツくて、あいりあんまり好きくない」

 

「その点、タコは柔らかくてふわふわーで、目がとろーんてしててかわいいっしょ?」

 

「ん? あいり何の話してんだろうね、続き続き」

 

「うそ、あのときのあれがそうだったんだ。……ちょっとおたく君、あいりまだ読んでないから、戻して」


「へー、そうだったんだ。ここにつながってくるってまじ鳥肌なんだけど……ああっ、おたく君めくるの早いって」


「やばー、ここでこのセリフはえぐい……んんっ! ちょっとおたく君」


「もう。さっきから読むの、早い。そんな次々いっちゃ、だめ、でしょ」


「続きが気になるの分かるけど、さ。楽しいものほど、じっくり、ねっとり味わうもんっしょ?」


「じわじわーと溜まってきた感情が、いいところでばーんと爆発。これが一番気持ちいいんだから」


「分かった? はい、よろしいー」

 

「ん、ここで過去編はさむんだ。うっわ、やばすぎ。まじ泣ける。いかにも裏切るなんていってごめんー」


「おたく君なあに? 1巻のあれが伏線になってるの? 待って、いわれてみればたしかにそうじゃん。読んでて全然気づかなかった。悔しー」


「さすがおたく君、よく気づいたね。やるじゃん」

 

「てか、さっきからおたく君の右肘あたってるんですけど」

 

「分かるでしょ。あいりの柔らかいところ。……わざと?」


 // あいりと距離が離れる。

 

「あはは、めっちゃ離れるじゃん。はっや。まさにしゅばばばって感じ」


「肘ずっとつけてたからしびれて感触無かった? もったいないなー」

 

「謝らなくていいよ。いや、ね。こうして放課後にマンガ読ませてもらったり、ゲームさせてもらったりしてるからさ」


「ご褒美として触らせてあげてもいいかなーって思ってるよ?」

 

「わ、そんな強く否定しなくてもいいじゃん」

 

「んま、触りたくなったらいつでもいってねん」


「さ、続き……といきたいとこだけど。うーん、おたく君寝転がりながら読むの疲れちゃったか」


「ほら、腕痺れてたみたいだし。ここは体勢変えるしかっ。座って読も。んしょっと」


 // あいりの左側に座る。


「んー? なんで横にきてんの?」


「おたく君の居場所はここ」


 SE・// あいり、ぽんぽんと叩く音。

 

「あいりの脚の間」


「だってー。ふたりでめくるの、エモいかなーって思ってやってみたけど、ぶっちゃけ大変だったし」


「はーい、持ち上げるからじっとしてて」


 SE・// あいりの触手の音。


「どーよ? あいりの触手の抱かれ心地は。タコって力持ちっしょ?」

 

「あーあ、動かない。それに離れると漫画読みづらいじゃん。ぎゅー」

 

 SE:触手が取り巻く音。

 // あいり、左肩に顎を乗せる。

 

「そんで肩にあご乗っければ、へへ、かんぺき」


「おたく君はなにもしなくていい、よ。あいりに体を預けてればいいから、さ」


「ふんふん。うお、すっご。作画やば」


「んふー。あ、ごめん。テンション上がって鼻息強くなってるかも。くすぐったく、ない?」


「ふー。んふふ、いまのはわざと息吹きかけた。おたく君の反応うける」


「りょ。戻りまーす」


 (間)


「はー、最新刊めっちゃアツかった、ね」

 

「それにキツメってさ、ストーリーももちろん良いけど、技がかっこいい」


「歩き方を技名に使うって、センスやばすぎ。『なんとかの歩行』って真似したくなるもん」


「おたく君なんの歩行が好き?」


「草の歩行って……、歩いたところに草びっしり生えるやつでしょ? おたく君にぴったりすぎて草」

 

「あいり? あいりはね、だんとつ愛の歩行」

 

「その理由は……」


「なんで分かった、の? あいりの名前と同じ漢字が入ってるからって」

 

「もー、おたく君あいりのことめっちゃ理解してくれてるじゃん」


「すきー」


「顔めっちゃ赤くなってる。後ろからでも分かるよ、耳まで真っ赤だから」


 // あいり、正面に回る。

 

「うっわ、もう茹でダコじゃん」


「あは。タコだったらあいりのなかまー。ぎゅー」


 SE:触手が取り巻く音。


「ごめんごめん、おたく君ぐえーってなってた、ね。強く締めつけ過ぎた」


「最新刊読んだら、また一から読み返したくなってきた。うん、まだ帰らなーい」


「そんなこといって、おたく君、あいりが一緒いて嬉しいくせに」

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る