異世界転生最強の俺は、崩壊した世界で美女たちと甘い生活を送るはずが…

マカ

第1話 プロローグ

 錆びついたアスファルトの隙間から、無数の雑草が生命力あふれる緑を主張する。


 かつての摩天楼は鉄骨の骨組みを晒し、ガラスの破片が鈍い光を反射していた。


 文明の残り香は、廃墟となったコンビニの、色褪せたポスターに辛うじて残るのみ。




 俺――タクヤがこの世界で目覚めてから、もうどれほどの時が流れただろう。


 あの忌まわしい「終焉の日」から数年。



     世界は一変した。



 街を闊歩するのは、理性を失った死者ども――「ウォーカー」と呼ばれるゾンビだ。


 やつらは生者の肉を求め、嗅覚と聴覚だけで獲物を追い詰める。


 だが、俺にとっては、もはや日常の一部だった。


「さてと、今日の獲物は…っと」


 背中に背負ったカスタムメイドのタクティカルアックスを軽く揺らし、俺は廃墟と化したショッピングモールの中を闊歩する。


 ウォーカーの群れをなぎ倒すのは、もはや惰性とも言える作業だ。


 前世の俺は、ただの冴えないプログラマーだった。


 しかし、この世界に転生してから、俺の身体は異様に研ぎ澄まされた。


【身体能力:EX】

【危機感知:Lv.MAX】

【武器習熟:Lv.MAX】

【再生能力:Lv.5】


 システムウィンドウには、そんなチートじみたステータスが表示される。


 おかげで、どんな状況でも冷静に対処できるし、多少の傷なら瞬時に回復する。


 そして何より、ウォーカーの急所を的確に捉え、一撃で屠る膂力と技術が身についていた。


 今日の目的は食料と、少しばかりの嗜好品、そして──運が良ければ、ガソリンだ。


 ショッピングモールの奥深く、食料品フロアへと足を踏み入れる。埃と腐敗臭が混じり合った空気が鼻を衝くが、それも慣れっこだ。


 その時、俺の**【危機感知】**が微かに振動した。


 ウォーカーではない。もっと小さく、しかし明確な、生き物の気配。

(生存者、か…珍しいな)


物音を立てずに、俺は奥へと進む。


 棚と棚の間を縫うように進むと、開け放たれた倉庫のドアの向こうから、か細い喘ぎ声が聞こえてきた。


「ひっ…いや…来ないで…!」


女性の声だ。


 そして、数体のウォーカーが、倉庫の入り口に群がっているのが見えた。


彼女は追い詰められている。


ウォーカーの唸り声と、彼女の震える声が、荒廃した空間に響く。


 俺は迷わず、アックスを構えた。獲物が群がるように倉庫へと押し入るウォーカーの一体に狙いを定める。


 一瞬の加速で間合いを詰め、迷いなく振り下ろした。


ズバンッ!


 鈍い音を立てて、ウォーカーの頭が吹き飛ぶ。


 残りのウォーカーが、俺の存在に気づき、唸りながら向きを変えた。


 その動きは、俺にとってあまりにも遅い。


 まるで舞うように、俺はウォーカーの間を駆け抜ける。


 アックスが唸りを上げ、次々と死体を積み上げていく。


 筋肉の軋む音と、骨が砕ける音が心地よいリズムを刻む。


 わずか数十秒の間に、倉庫の入り口にいたウォーカーは、全て床に転がっていた。


 血飛沫一つ浴びることなく、俺は静かにアックスを構え直す。


 そして、倉庫の奥で呆然と座り込んでいる女性に目を向けた。


 彼女は、壁際に背を預け、膝を抱えるように座っていた。


 くすんだTシャツは所々破れ、短パンから伸びる細い足には、擦り傷がいくつか見受けられる。


 髪は乱れ、顔は煤で汚れているが、それでも隠しきれない、端正な顔立ちをしていた。


 そして、何よりも目を引いたのは、潤んだ瞳が俺をまっすぐに見つめていることだった。


 恐怖と、そして、かすかな希望が入り混じった視線。


「もう大丈夫だ。ウォーカーは、全部片付けた」


 俺の声に、彼女の肩が小さく跳ねた。


 そして、ゆっくりと顔を上げた。その表情は、まだ警戒と恐怖に彩られているが、彼女の息を呑む音が、この静かな倉庫に響いた。


「あ…りがとう…ございます…」


 か細く呟かれた言葉は、まるで天使の歌声のようだった。


 俺の視線は、彼女の首筋から鎖骨へと滑り落ち、そして、少しだけはだけたTシャツの隙間から覗く、柔らかな谷間に吸い寄せられる。

(まったく、こんな世界でも、美しいものは美しいままか…)


 俺は、自然と口元に笑みを浮かべていた。


 この終末世界で、再び手に入れた俺の生。


 そして、こうして出会った、可憐な生存者。


「名前は?」


 俺の問いに、彼女は震える唇で答えた。


「…ユキ、です」


 ユキ。その響きは、この荒廃した世界に似つかわしくないほど清らかだった。


 これから、このユキという女性と、どんな旅が始まるのだろうか。俺の胸の中で、静かな期待が膨らんでいく。

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