第20話 縁談
自分の部屋に戻った僕を唇を尖らせたシモンが待っている。
「いいなあ。美味しいもの食べたんでしょ? 僕も連れていってくれればいいのに。まあ、ハリー隊長が決めることなんだけどさ。で、なんの話だったの?」
「僕のお祝いをしてくれて、帝国と王国の関係の話をしてくれた」
シモンは変な顔になった。
「凄い取り合わせだね」
「僕の働きがその関係に影響したんだって。それで、いいことを教えてもらったよ。僕はあと2年ちょっとぐらいしか生きられないって言われていたんだけど、それは間違いじゃないかって」
「は? 伍長が死ぬって? その話はオレも初めて聞いたけど、オレだって信じられないね。誰がそんな与太話したのさ?」
僕の頭のてっぺんからつま先までを見て呆れる。
「旅の若い薬師さんだよ」
「ああ。なんか薬を売りつけられそうにならなかった?」
「ううん。その薬師さんにはどうしようもないって」
「ふーん。詐欺師かと思ったけど、じゃあ、単純に腕が未熟だったのかな」
「でも、村のお婆さんのしつこい咳を止めたんだよ」
「咳と死病じゃあ、比較にならないね。でも、まあ、まだ結論は確定できないか」
シモンは腕を組む。
「ちゃんとした治療師に診てもらった方がいいね」
「ハリー隊長もそう言っていた」
「そうだろね。で、なんでそんな深刻な話になったの? 話が繋がらないんだけど」
「うん。ハリー隊長が僕に隊長の娘さんと結婚しないかと勧めてきたんだ。だから、僕の体の不具合のことは言わないとフェアじゃないと思ってね」
「ちょ、待って、待って。話って縁談なの? どう考えてもハリー隊長はそのためにクエルを誘ったんじゃないか。なんで最初にそのことをオレに教えてくれないのさ?」
「そうなの? 訓練の終わりのときにまた会おうって言っていたし、単に僕のお祝いをしてくれたのかと思ってた」
シモンは肩を
「もちろん、お祝いをするつもりはあったと思うよ。ついでに将来有望な伍長と娘さんを結婚させちゃおうという方がメインだと思うけどね。伍長ってさ、時々凄く鈍いよね」
「僕はもともとそんなに頭良くないよ。だから色々と学んでいる最中だし。そうか、隊長は僕を娘婿にしたくて食事に誘ったのか。でも、そうだとすると、どうしてそんな気になったのか全然分からないんだよ。確かに僕のことを目にかけて鍛えてくれたとは思うよ。だから気になるのかな?」
「違うね。さっきオレが言ったように将来が有望だからさ。そりゃ父親ならそういう人間に娘の旦那さんになってもらいたいよね」
「僕が将来有望というのも良く分からないけど」
「あ、そう。まあ、自分自身の評価と他人の評価って一致しないもんだからね。そこはさ、ハリー隊長はそう思っているでいいんじゃない。で、結婚するの?」
なぜか目をキラキラさせている。
「やりたいことがあるからって断った」
「えー。ハリー隊長ってそれなりの地位じゃん。これからも色々と便宜を図ってくれそうだしお義父さんと呼ぶのも悪くないんじゃない? あ、でも、あの人の子供かあ。娘さんもやっぱりでかくて男っぽい感じかも。じゃあちょっとねえ」
「また、そういうことを言う」
僕は帰り際に半ば強制的に持たされた肖像画をシモンに見せた。
「2年前に家族を描いてもらったものの模写らしいんだけどね。ここの端の子」
手のひらよりちょっと大きいサイズの絵をシモンが凝視する。
「え、隊長の横に居るってことは、これ奥さんだよね。美人じゃん。娘さんたちも母親似だし。ああ、末っ子はちょっとハリー隊長似で気が強そうだけど、これはこれでありだね。名前は?」
「ソフィさん」
「いいじゃん。わざわざ家族の肖像画を描いてもらうなんて、そこそこの家じゃないとしないでしょ。ハリー隊長ってゴリゴリの叩き上げかと思ってたけど、実はそれなりの家の出身じゃないの?」
「さあ、それはどうだろう。それは聞いてないけど、結婚したら自分の屋敷の敷地に別棟建てるからそこに住んだら、とは言っていた」
「えー。この縁談、絶対お得だよ。オレが代わってほしいぐらい。なんで断ったの? やりたいことって?」
「軍務が終わったら友達を捜そうと思っていてさ」
「それだけで?」
「いいじゃないか。大切な友達なんだから。シモンだって、長い間会っていない親友が居たら会いたいだろ?」
「オレ、故郷の村から出たことなかったから、友達って村内にしかいないんだよね。まあ、でも、将来、たまにはクエルに会いたいとは思うかもね」
いい加減、眠くなってきたので断りを入れて会話を打ち切り寝る支度をした。
ベッドを整えて横になる。
シモンが先ほどの話題を蒸し返した。
「でもさ、その友達のクリスも結婚して奥さんがいるかもよ。クエルも既婚者なら家族ぐるみのお付き合いができるんじゃない?」
「クリスは僕より年下だから、まだ結婚はしてないんじゃないかな」
そう答えつつもクリスのことを思い浮かべると眠気が飛ぶ。
待てよ。
今まであまり考えてこなかったけど、クリスに結婚に関して相談されたときに何も答えられないのはいやだな。
そのために結婚するというのはさすがに本末転倒だけど、自分で考えたり情報を集めたりするのはしておいてもいいかもしれない。
僕が短命じゃないとすると、家庭を持って、僕の子供とクリスの子供が友達になるというのも素敵に思える。
考えがまとまったので、安心して再び眠りにつくことにした。
翌朝、基地内を歩いていると建物の角に目立つ赤毛を見かける。
やった。こんなに早く会えるなんてツイてるぞ。
僕は勢いよく駆けていき、アイリーン近衛隊長に話しかけようとした。
近くに行くと建物で見えなかった部分に金属製の雨樋に手をかけたローフォーテン将軍と百人長が居るのに気がつく。
足音に気がついたのか3人が一斉に僕を見た。
「お話中と気づかず失礼しました」
慌てて引き下がろうとするのをアイリーンさんが引き留める。
「ちょっと立ち話をしていただけよ。私に用があるんでしょ?」
将軍に頭を下げるとその場からちょっとだけ離れるように僕の腕を引っ張った。
これだけの距離しか離れないんだと将軍にも声が届きそうなんだけどな。
「それで、なあに? 走ってくるほど急ぎの用なんでしょ?」
迷ったけどせっかくなので話をすることにした。
「そういうわけでも無いんですけど、僕がお願いしていることなので、早く伝えた方がいいかと思ったんです。クリスを捜してほしいと頼んでいる件ですけど、お忙しいと思うので、もう近衛隊長のお手を煩わせなくて大丈夫です」
「え?」
「それと、近衛隊長のお人柄に甘えるんですけど、今度時間があるときでいいので結婚に関して気をつけるべきことについて色々と教えてください。僕の知っている既婚者って他に思いつかなくて」
「ええっ?」
やっぱり急にこんな頼み事は迷惑だったかな。
そう思う僕の耳にメキッという音が響いた。
「アイリーン。行くわよ!」
そちらに目を向けるとひしゃげた雨樋から手を放したローフォーテン将軍が歩き出している。
え? あの雨樋、僕が登れるぐらいの強度があるのに……。
「ごめん。その話はまた今度ね」
アイリーンさんは慌てて将軍を追いかけていってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます